医学部を越えて研修医へ!中道優人の決意|本田先生

中道優人が医学部に入学した春、大学のキャンパスには新しい生活の匂いが満ちていた。桜が散り始め、風に舞う花びらが白衣の袖に触れるたび、優人は自分が本当に医師を目指す道に足を踏み入れたのだと実感した。 しかし、その道は想像していた以上に険しく、時に孤独だった。

医学部での講義は朝から夕方まで続き、膨大な専門書が机の上に積み上がる。生理学、解剖学、薬理学──どれも人の体を理解するために欠かせない学問だが、覚えるべき内容は果てしなく、優人は毎晩遅くまで机に向かい続けた。 「本当に、自分は医師になれるのだろうか」 その問いは、大学生活の中で何度も優人の胸に浮かんだ。

四年生の臨床実習で、初めて患者と向き合った日のことは今でも忘れられない。 病室の扉を開けると、70代の女性が優人を見て微笑んだ。 「先生、若いのに頑張ってるんじゃね」 その言葉に、優人は胸の奥が熱くなるのを感じた。 医師としての技術はまだ何も持っていない。 それでも、自分を“先生”と呼ぶ声が、責任と覚悟を静かに突きつけてきた。

大学を卒業し、研修医として病院に立ったとき、優人はようやくスタートラインに立ったのだと実感した。 研修医としての初めての担当患者は、心不全で入院した男性・佐藤。 呼吸は浅く、言葉も途切れがちで、夜になると不安が強くなるのかナースコールが増えた。

ある夜、優人は佐藤のベッドの横で静かに話を聞いていた。 「先生……わし、もう長くないんじゃろうか」 優人は言葉を選びながら、ゆっくりと答えた。 「まだできる治療があります。私も一緒に考えますので、安心してください」 その瞬間、佐藤は弱い笑みを浮かべた。 「先生が言うなら、信じてみるわ」

治療は簡単ではなかった。 容体が急変し、夜中に呼び出されることもあった。 カルテを見返し、先輩医師に相談し、何度も治療方針を見直した。 それでも、優人は佐藤の病室に足を運び続けた。

数週間後、佐藤は少しずつ回復し、退院の日を迎えた。 「先生、ありがとう。あんたが毎日来てくれたから、わしは頑張れたんじゃ」 その言葉は、医学部で学んだどんな知識よりも重く、優人の胸に深く刻まれた。

退院後の静かな病室を見つめながら、優人は思った。 医学部で学んだ知識は、医師としての“道具”にすぎない。 研修医として患者と向き合う時間こそが、自分を医師へと育ててくれるのだと。

その後も、優人は多くの患者と出会った。 救急外来で突然運ばれてくる患者、手術後の痛みに耐える患者、家族の不安を背負う患者──それぞれの人生が病室の中で交差し、優人はその一つひとつに向き合った。

ある日、担当した若い女性患者・三浦が、治療の不安を優人に打ち明けた。 「先生、わたし……怖いんです。病気も、治療も、全部」 優人は椅子を引き寄せ、静かに答えた。 「怖いと思うのは当然です。でも、私はあなたの不安を一人で抱えさせません。必ず一緒に進みます」 三浦は涙をこぼしながら頷いた。 その姿を見て、優人は医師という職業が“技術”だけでは成り立たないことを改めて理解した。

研修医としての一年目が終わる頃、優人は自分の中に変化を感じていた。 医学部時代は「知識を身につけること」が目的だった。 しかし今は、「目の前の患者を救うこと」が自分の中心にある。 その違いは大きく、優人の背中には確かな覚悟が宿り始めていた。

ある夜、指導医の白石が優人に言った。 「優人、医師は結果だけを見る仕事じゃない。患者に向き合う姿勢そのものが、治療の一部なんだよ」 その言葉は、優人の胸に深く響いた。 医学部で学んだ知識、研修医としての経験、患者との対話──それらが少しずつ積み重なり、優人の中に“医師としての軸”が生まれ始めていた。

研修医としての道はまだ続く。 迷いも葛藤も、これから何度も訪れるだろう。 しかし優人は知っている。 「人に向き合うこと」こそが、医師としての最初の一歩なのだと。

病院の廊下を歩く優人の背中は、以前より少しだけ強く見えた。 その歩みは、これからも多くの命と向き合いながら続いていく。

 

本田先生