中庭のベンチはとてもひんやりしていた。
遠くから野球部の男子たちの声が聞こえる。
「で、侑。どうしたの?」
「あー…その」
やっぱいつもも侑じゃないよなぁ。
沈黙が続く。
そして侑が再び口を開いた。
「…いろいろと不安すぎて」
≪不安≫。
「たとえばさ…もうすぐ俺引退じゃん?俺、残りの時間…先輩としてなにができんのかなとか」
…。
「…なんて、なっさけないよなぁ俺」
はは、と苦笑いした。
きっと無理して笑ってるんだよね?
いつだってそうだ、侑は。
苦しいのに無理して笑って…。
「…侑、あたしたちね。侑にいーっぱいいろんなものもらった。いろんなことしてもらった」
そうだ。
今までの侑でいてくれれば、それでいいんだよ。
「だから今までどおりでいいんだよ。あたしたちは、侑がいてくれるだけでうれしいの」
こんな後輩思いな先輩を持って幸せなんだから。
「…真花」
「ん」
「ありがとう」
今度は苦笑いじゃなかった。
いつもの侑の、笑顔。
「…最後のステージ、最高の思い出にしようね」
「当たり前だろっ」
そしてなぜか握手を交わした。
なんの握手だったのかは、分からないけれど。
夏が終わった。
秋が始まる。
あたしたち軽音部にとって、今年最後のステージが待ってる。
侑にとって、最後のステージが待ってる。
最高の演奏をしよう…。
そう、心に誓った。