入試まであと3ヶ月…私のスタートはあまりにも遅かった。
しかもそのとき、受験校を決める最後の模試は終わっていたのだった。
だが、今のように模試の結果や学校の評定だけで決めるわけではなく、
1月までの伸び具合を見て、学校の進路会議がすべてが決するシステムであった。
まだチャンスはある!
しかし、何をどうやったらいいんだ…。
数学はS先生との2ヶ月のおかげで得意科目だった。
英語も母のおかげで自力でなんとかなっていた。
問題なのは、国語、理科、社会の三教科である。
特に理科と社会については、基本事項からろくに覚えていないという状況。
書店であれこれ参考書や問題集を見てみたが、どうにもあと3ヶ月でどうにかなる気がしない。
単元ごとに覚えていったのでは、覚えた順に忘れていくに違いないからである。
あれこれ悩んでいると、ある問題集が目に止まった。
「全国高校入試問題集」
47都道府県の公立高校と有名な私立高校の前年度の入試問題が載っている
いわゆる『電話帳』である。
私の第一志望は県立のF高校だった。
彼女のOが目指している学校だったが、私の偏差値はあと6ほど足りない。
よしっ!あと3ヶ月でこの本の問題を全て解いてやろう!
その場で購入を決めて家に帰る。
しかし、気持ちは熱かったが、その本も電話帳と呼ばれるほどさらに厚かった。
そこで私はカッターで、その本を科目ごとにばらし始めたのである。
しかし、背表紙のノリが固くて刃が立たない。
最後は台所から出刃包丁をもってきて、
見事に解体に成功したのだった。
これで科目ごとに持ち運びができる。
つぎは白地図を壁に貼って、解いた都道府県を塗りつぶすことにした。
点数によって色分けもするのである。
どうせやるならゲーム感覚で、ビジュアル化した方がいいに違いない。
来る日も来る日も、問題を解く。
わからなかったことや覚えていなかったことは紙に書いて壁に貼る。
始めてみると意外に面白かった。
北海道と沖縄から徐々に東京に攻めていく国取り合戦は、毎日の楽しみになっていったのである。
そうなると面白いものである。
いつの間にか、俄然F高校に行きたくてたまらなくなってきたのである。
学ぶことに欲を感じた、初めての経験であった。