父が亡くなった日,午後1時から教会で葬儀の打ち合わせがあった。

キリスト教と仏教と2回の葬儀を要するため,

なるべく安く済むようにと,葬儀社も考えてくれている。

母のときは,花だけで60万円。

もう少しで棺桶から花があふれるところだった。

 

父はそんなに花はいらないだろう。基本セットならリーズナブルかな?

しかし,出てきた見積書には130万円……。

母のときとあまり変わらないな…と思っていたら,

精進落としの食事が,一人38,500円。

……えっ?

フルコースかぁ?と思いきや

 

これゼロが一つ多いですね と葬儀社の担当社員。

これでざっと30万円が浮いて,ホッと胸をなでおろす。

 

手が震えている例の社員。ゼロのキーを早押ししちゃったんじゃないの?

 

相続関係の書類を取りに,一晩自宅に戻ることにした。

その前に,父が2年半お世話になった老人ホームにお礼に行く。

 

まだ,ホームはコロナの影響で面会できない状態だが,

亡くなっている父の部屋を訪ねるのは問題ないらしい。

 

父の部屋に入る。

普通の入居者は2階以上になるのだが,父の部屋は1階である。

寝たきりや,一般と混ぜられない問題のある老人が入る階である。

 

失禁や便失禁,嘔吐まであったらしい部屋だが,

きれいに片付けられていて,そんなことを全く感じさせない。

引き取るものは特にないので,すべて業者に任せて処分してもらうように依頼する。

 

持って帰ったのは,送ったアルバムと,卒寿の表彰状と,しゃれたデスクスタンド。

そして,裏紙に書かれたおびただしい父のメモであった。

 

父のメモには,何度も何度も携帯がない。現金もない。通帳もない。と書かれ,

それに対して,職員の方が,携帯は息子さんが,現金や通帳はいつもの金庫に入っていますと

筆談してくれていた。

去年のメモであることは,今日は2月1日(火),明日は2月2日(水)というメモから推察できる。

 

そして,息子の私の名前と実家の電話番号が,これまた何度何度も記されていた。

「記憶力と,判断力が落ちてきている」と書かれたメモ。

必死に何かを忘れまいとする姿が思い浮かぶ。

 

父の死よりも,切なくつらい気持ちになったのは言うまでもない。

 

不安でいっぱいの毎日。

戦争なんかしてないで,早く認知症の特効薬をつくってほしい。