父の手を握り、語りかけることができたことが原因なのか、
面会から戻るタクシーの中で、なんとなく食欲が出てくる。
イオンスタイルで降ろしてくれるように頼み、刺身とランプステーキの肉を買って帰宅する。
父の入院中はいつ呼び出しがかかるか分からないので、飲酒はそこそこに控えていたのだが、今日は飲んでいい気がした。
刺身をカルパッチョにし、ランプステーキは普通に焼き、ビールとウィスキーを楽しむ。
軽い疲労感もあって、いつの間にか寝てしまっていたが、きちんと洗い物もして、電気も消していた。
………。
暗がりで、家電が鳴っている。
父の家にかかってくる電話は、ほとんどが宣伝やアンケート電話である。
こんな時間に?
夢見心地で、電話機を見ると末尾が111。
病院からである。
しまった!
慌ててスマホの画面を見ると、やはり病院からの着信があったのだが、サイレントモードになっていて気づかなかったのだ。
これはまずいと、サイレントを解除して電話をかけ直そうとすると、今度はスマホが鳴る。
1時45分。
お父様の心拍数が落ちています。
今から来られますか?
わかりました、急いで参ります!
どのくらいかかりますか?
30分くらいかと思います。
もしかすると間に合わないかもしれませんがお許しください。
許すどころか、病院には感謝しかない。
いよいよくるべきときが来た。
まだ酔いの残る頭をはっきりさせるために、水で顔を洗いながらそう思った。