『わたしのマトカ』片桐はいり

 

 

エッセーが好きである。それも少し年上の女性のエッセー。

 

確認したわけではないが、そもそもエッセーを書くのは女性が圧倒的に多い気がする。女性の方が日々の暮らしに根付いた生き方をしていることが多いのか、気軽に書けるものだからか、そもそも男性諸君には時間がないのか?(もちろん超多忙な女性も多々いるが、男性は時間を捻出してまで書こうとは思わないのか?)

 

勝手に女性のエッセイストが多いことを仮定としてしまったが、私が読むものは圧倒的に女性のものである。「少し年上」と書いてしまったが、少しに限らず、かなり年配の女性、もしくはお亡くなりになった方々のエッセーも含め、先輩方からその生き方を学ぶことはとても多い。昔は気骨のある女性がなんと多かったことか、今現在生きる私に、少しでも道標を指し示してくれる気がする。

 

エッセーは小説に比べ、気楽に、気軽に読めるのもよい。たとえ内容は軽そうでも、その女性の暮らしぶりから学ぶことが多々あるのである。早くに母を亡くした私が、どこかで先輩女性から何かを学ぼうとしているようなところがあるのかもしれない。

 

私がよく読むエッセーは、やはり林真理子さん。(「やはり」とつけたくなるような大御所である。)未だどこかキャピキャピ(死語!)しているようでいて、努力家で真面目で、実は地に足をつけていて、とても気を使う女性だということが伝わってくる。未だブランド物などにこだわる彼女に、「どこが?!」という声も聞こえてきそうだが、私が読みとる林さんはそうなのである。自嘲しつつも、一生懸命、欲しいものは欲しい、と努力する林さんは、本当に可愛い女性なのである。

 

その他、女性のエッセーはよく読む。「エッセー」という分野に何を入れればいいのか正確にはわかりかねるが、ざっと本棚を眺めてみると、上記の林真理子さん含め、武田百合子、沢村貞子、小泉今日子、須賀敦子、佐野洋子、こぐれひでこ、平松洋子、酒井順子、阿川佐和子、檀ふみ、小林聡美、岸本葉子、深澤真紀、本上まなみ、益田ミリ、マツコ・デラックス(女性?)、と言ったところ。小説とエッセーのはざまのような、川上弘美、田辺聖子、男性は椎名誠(しばらく読んでないが)、東海林さだおさんぐらいか。開高健のもエッセーと言っていいものか。

 

あとは日本エッセイスト・クラブ編のベスト・エッセイ集も何冊か持っている。

 

気軽さも相まって、こんな風に結構エッセーを読む私だが、なぜこれだけ前置きが長くなってしまったかというと、これだけのエッセーの中でも、この片桐はいりさんの『わたしのマトカ』がダントツで面白いからである。これだけ読んでいても、私の中では一番好きなエッセーはどれかと言われたら、迷わず『わたしのマトカ』なのである。

 

片桐はいりさんは、言わずと知れた個性派女優。私よりちょっと先行く先輩である。それもまたよい。

 

エッセイスト、もしくは小説家・作家を生業とする錚々たる面々の中で、片桐はいりさんは異色である。何せ本も今まで(2016年11月現在)3冊しか出していない。いや、3冊も出していただいて、実にありがたいのである。何せ職業は女優なのだから。

 

ところが、ところがである。片桐さんは非常に文才がある。彼女自身もご自分のエッセーを「作文」と表現している。が、見事な作文である。気負いがなく、素直な文章だが、流れが面白く、片桐さんの経験した旅の世界にすっかり入ってしまう。

 

全く格好をつけていないのである。エッセーなので現実的なのだが、経験しそうで経験しない彼女の経験がめちゃくちゃ面白いのである。しかし奇をてらったような経験や文章ではない。無理に面白おかしく書こうとしているわけでもない。何が面白かったのか、ちゃんとツボを押さえていて、流れもあって、とにかく面白いのである。(あ〜、言葉にできないもどかしさ。)

 

この本は片桐さんが『かもめ食堂』という映画のロケでしばらく滞在したフィンランドでの経験をつづったものである。旅のエッセーは結構あるが、どこかで面白おかしく書こうとしていることが多くないだろうか。もしくはあまりに美しい旅。優しかった人たち、美味しい食事、美しい景色…

 

片桐さんは、実は旅の達人なのである。すごいアドベンチャーな人、というわけではない。好奇心と、どこに行ってもなんとなく現地になじんでしまう、オープンさがあるだけなのだと思う。どうしてもスケジュール通りにことを進めようとするような、日本人的な旅とはかけ離れている。その場で起こった不思議なことや、変な食べ物を、そのままちょっと驚きながらも受け入れているようなところがある。

 

私も色々なものを受け入れてみたくて、ついにアメリカまで来て住み着いてしまったが、なんとなくこういうオープンさがなくなってきてしまったような気がする。片桐さんは、旅で、人生で出会うものを、そのまま受け入れながら、面白いなぁ、と流れに乗っている間に、ますますとんでもなく面白いことに出会ったりしてしまっている。これぞ、旅!この予測できなさが旅の醍醐味なのだ!!と声を大にして言いたくなるような経験なのだ。

 

なんだろう、多分私は片桐さんのオープンさと素直さに惹かれているのだろうか。絶対予定通りいかない人生を、ちょっと必死で、ちょっとおかしく、それでも受け入れつつ楽しんでいる、そんな人生の旅に憧れるから、こんなにこの本が好きなのだろうか。

 

そんじょそこらの作家のエッセーには到底かなわない(私の中では)、味もあって内容も面白い、最高のエッセーです。片桐さんにはもっともっと本を出していただきたいなぁ。昔ミザリーっていう小説の続きを書け!と言ってその作家の足を切断してしまうという空恐ろしい映画があったけれど、(なんでこんなことを思い出してしまったの〜(汗))はいりさん、そんなこと絶対しませんから(笑)また是非エッセーを書いて下さいね。

 

ちなみに文庫本の装丁もものすごい私の好みなのです。装丁と言い、内容と言い、本当に愛すべき一冊です。