2009年8月、僕らの町にトキがやってきた。
第一次放鳥で放たれた、個体番号No.3の雌のトキだ。
高校で写真部に入っている僕は、物珍しさと実際自分の手でトキという鳥を
写真におさめてみたいという好奇心で、時間さえあれば他の部員と一緒にその
トキを追っていた。
実際この年の秋の文化祭の時に、撮りためたトキの写真で特集コーナーまで
作るほど入れ込んでいた。
しかし、そんな僕らの気持ちとはよそに、数ヶ月後、No.3は僕らの町から姿
を消すことになる。
各地を渡り歩いているNo.3だ、僕らの町にもただフラッと立ち寄っただけな
のだろう。
No.3が去って5ヶ月経った2010年夏、No.3が佐渡に舞い戻っているとの情報
を聞き、僕はNo.3と再会すべく海を越え、トキの舞う島へ渡った。
野営の準備を満載した自転車で、その場所へ向かう道を走る。今こうしてい
る間にも、No.3が目の前に現れるのではないか? そんなはやる気持ちが、何
度も空を仰ぎ見させる。
額から流れ落ちる汗が僕の目に入り、仰ぎ見た空の風景を滲ませたその絵で
すら、朱鷺色の羽を広げた君に見えるほどに。
出発前から何か予感めいたものがあった。
「海を渡れば、島へ渡れば、僕はきっとあのNo.3と佐渡で再会する」
しかし、それはただの妄想だったのかもしれない。
3日間粘り、それでも諦めきれなくてもう一日粘ってはみたが、No.3はおろ
か、他のトキと出会うことすらできなかった。
妄想というまやかしが触媒となって期待が最高潮に達していた僕は、失意の
まま島を離れることとなった。
それと時期を同じくして、あれほど目撃情報の多かったNo.3が、その後不思
議と姿を表さなくなる。
もともと行動範囲が広かったNo.3、またどこか離れたところにひょっこりと
現れるだろう、そう思っていた。
だが、1ヶ月が過ぎ、3ヶ月が過ぎ・・・一冬を越え春を迎えてもなお、そ
の姿が目撃されることはなかった。
20XX年夏、僕は今佐渡にいる。
2011年に人間の手を介さず自然界で孵化に成功して以来、トキは急速にその
数を増やし、今では佐渡、新潟のみならず、日本のあちらこちらでその姿を見
ることができるようになっていた。
写真家となり、日本の風景を撮り続けている僕の原点である佐渡。
日本の原風景、夕焼け空に群れをなして飛ぶトキの姿は、長い時をかけてそ
の姿を佐渡で甦らせていた。
田んぼや畦で羽を休めているトキの群れを、ファインダー越しに慈しむかの
ように切り撮っていく僕の目に、何か懐かしいものが映った。
「桃黄・・・・・まさか」
何度も瞬きをしてみるが、その姿は変わらなかった。これは妄想じゃない、
脚に付けられた桃黄のカラーリング、あれはNo.3のものだ。
諦めた、いやあの時以来押しとどめていた想いが、堰を切ったように流れ出
し、僕はシャッターを切り続けた。
「ターァ!」
一声啼いたNo.3は羽を大きく広げこちらをみる。
それはまるで両手を広げ、僕を迎えてくれるかのようだった。
「海を渡れば、島へ渡れば、僕はきっとあのNo.3と佐渡で再会する」
長い時をかけ、佐渡がトキの舞う日本の原風景を取り戻したのと同じように、
僕のあの時の妄想もまた長い時間をかけて今、現実となった。
第一次放鳥で放たれた、個体番号No.3の雌のトキだ。
高校で写真部に入っている僕は、物珍しさと実際自分の手でトキという鳥を
写真におさめてみたいという好奇心で、時間さえあれば他の部員と一緒にその
トキを追っていた。
実際この年の秋の文化祭の時に、撮りためたトキの写真で特集コーナーまで
作るほど入れ込んでいた。
しかし、そんな僕らの気持ちとはよそに、数ヶ月後、No.3は僕らの町から姿
を消すことになる。
各地を渡り歩いているNo.3だ、僕らの町にもただフラッと立ち寄っただけな
のだろう。
No.3が去って5ヶ月経った2010年夏、No.3が佐渡に舞い戻っているとの情報
を聞き、僕はNo.3と再会すべく海を越え、トキの舞う島へ渡った。
野営の準備を満載した自転車で、その場所へ向かう道を走る。今こうしてい
る間にも、No.3が目の前に現れるのではないか? そんなはやる気持ちが、何
度も空を仰ぎ見させる。
額から流れ落ちる汗が僕の目に入り、仰ぎ見た空の風景を滲ませたその絵で
すら、朱鷺色の羽を広げた君に見えるほどに。
出発前から何か予感めいたものがあった。
「海を渡れば、島へ渡れば、僕はきっとあのNo.3と佐渡で再会する」
しかし、それはただの妄想だったのかもしれない。
3日間粘り、それでも諦めきれなくてもう一日粘ってはみたが、No.3はおろ
か、他のトキと出会うことすらできなかった。
妄想というまやかしが触媒となって期待が最高潮に達していた僕は、失意の
まま島を離れることとなった。
それと時期を同じくして、あれほど目撃情報の多かったNo.3が、その後不思
議と姿を表さなくなる。
もともと行動範囲が広かったNo.3、またどこか離れたところにひょっこりと
現れるだろう、そう思っていた。
だが、1ヶ月が過ぎ、3ヶ月が過ぎ・・・一冬を越え春を迎えてもなお、そ
の姿が目撃されることはなかった。
20XX年夏、僕は今佐渡にいる。
2011年に人間の手を介さず自然界で孵化に成功して以来、トキは急速にその
数を増やし、今では佐渡、新潟のみならず、日本のあちらこちらでその姿を見
ることができるようになっていた。
写真家となり、日本の風景を撮り続けている僕の原点である佐渡。
日本の原風景、夕焼け空に群れをなして飛ぶトキの姿は、長い時をかけてそ
の姿を佐渡で甦らせていた。
田んぼや畦で羽を休めているトキの群れを、ファインダー越しに慈しむかの
ように切り撮っていく僕の目に、何か懐かしいものが映った。
「桃黄・・・・・まさか」
何度も瞬きをしてみるが、その姿は変わらなかった。これは妄想じゃない、
脚に付けられた桃黄のカラーリング、あれはNo.3のものだ。
諦めた、いやあの時以来押しとどめていた想いが、堰を切ったように流れ出
し、僕はシャッターを切り続けた。
「ターァ!」
一声啼いたNo.3は羽を大きく広げこちらをみる。
それはまるで両手を広げ、僕を迎えてくれるかのようだった。
「海を渡れば、島へ渡れば、僕はきっとあのNo.3と佐渡で再会する」
長い時をかけ、佐渡がトキの舞う日本の原風景を取り戻したのと同じように、
僕のあの時の妄想もまた長い時間をかけて今、現実となった。