「ケンちゃんと片貝花火に来たのって初めてだったっけ?」
「初めてだよ、来るのはね。ドタキャンなら去年されたけど。今年もまたされ
るんじゃないかって思ってたけどね」

そうだった。去年はちょうど彼と別れて暇だったから、ケンちゃんに「花火連
れてけー」ってメールしたんだった。
でもそのすぐ後に新しい彼ができちゃったから、ドタキャンしてその彼と来ち
ゃったんだよね。

柏崎、上越、長岡、新潟、今年も毎晩のようにどこかで行われた花火大会。
全国でもこれほど花火大会の多い地域はないという。
その新潟県の花火大会を締めくくるのが片貝花火。
暦の上では一月も前に秋を迎えているのだけれど、本当のところ、私はこの片
貝花火が新潟の夏の終わりなんだって思っている。

ケンちゃんと私は、ふたりが小学生だった頃からの付き合い。もう15年にな
る。
小学校4年生の時、私の方から告白して付き合ったんだけど、手を繋いで一緒
に帰ったところをクラスの男子に見られてからかわれたのが原因で別れた。
ほら、あの頃の男子って、友達にからかわれたりするだけでもうダメじゃない?
ケンちゃん「俺、別にユキのこと好きじゃないし」って言って、私の手を振り
ほどいて行っちゃったっけ・・・
それからしばらくケンちゃんの方から避けてる感じがあって疎遠になったけれ
ど、お互い高校も同じ所へ行ったこともあってまた普通に話せるようになった。
惚れっぽくて恋多き女なんて言われている私、今ではそんな私にとって女友達
以上のいい相談相手になっている。
ケンちゃんもあれから何人か付き合った人がいるけど、社会人になってからは
仕事が忙しくて、恋愛なんてしていられないみたい。
でも私は構わず呼び出しちゃうんだけどね。


「ねぇ、片貝ってこっち?」
「うん、こっちだよ」

私が知っている越路から片貝へ抜ける道ではなく、そこから逸れて山を登って
いく。しばらく山道を進むと、急に視界が開けた。丘の上の田んぼ? そんな
感じの場所。

「ねぇ、やっぱりここって神社の方じゃないよ・・・ね!?」

そう私が言い終わより前に、夜空に大きな花が咲いた。

「ここは神社の裏のほう。こっちの方が他に明かりがないしひらけてる。それ
にユキは表のほうからはもう何度もみたことがあるだろ? だからこっちへ来
てみた」

確かに一面田んぼで、建物の明かりといったら、振り返ると遠くにみえるチカ
チカと光る大きな何かがあるくらい。
林の向こうから打ち上がる花火が、送電線越しにこれでもかというくらいくっ
きりと見える。
轟音が送電線を震わせ、「ビュンッ!」と鳴る。

「さっ、いくよ。車降りて」

農道の脇に停めた車から降りると、外は昼間とはうって変わって、頭(こうべ)
を垂れた稲の上を流れる風が少しひんやりと感じるくらいだった。

「ここ、降りるよ。段差があるから気をつけて・・・ほらっ」

そういうとケンちゃんは先に降りて私に向かって手を差し出した。
私はそれに捕まって、ケンちゃんのところまで降りる。私より少しだけ温かい
手。ケンちゃんの手。

「ありがと」

ケンちゃんは繋いだ手をそのままに、暗くて細い畦道を時々打ち上がる花火の
明かりだけで進んでいった。
どのくらい進んだだろう。繋いだケンちゃんの手から伝わった温もりで私の手
が満たされた頃、ちょっとした広場の様なところに出た。

「ここからだと送電線に邪魔されずに見えるんだよ」
「へぇ~、こんなところがあるんだ。もしかしてケンちゃん的穴場? 私じゃ
なくて他の女の子とか連れてきたほうが良かったんじゃないのぉ~?(笑)
・・・っていうか、手。いつまで握ってるのよ」

ケンちゃんは、私がそう言っても手を離さない。
スターマインがパチパチと音を立てて上がっている。

「・・・・・覚えてる? 小学生の時のこと。 あの時さあ、俺、からかわれ
て恥ずかしくてたまらなかったんだよなあ。今考えるとなんであんなに恥ずか
しかったんだろ?」
「それは仕方ないんじゃない? だってあの頃の男の子って、友達にからかわ
れたりしたらそれだけでその女の子のことを嫌いになっちゃうでしょ?」
「んー・・・俺さあ、あの後ユキと喋らなくなったのって、嫌いになったとか
じゃないんだよ。あんなことしちゃったから、どう話しかけていいか解らなく
てさ」

左手で軽くかしげた頭を掻く。

「そうなんだ・・・私ね、あまり付き合っても彼と手とか繋がないのよ。なん
かね・・・ちょっとね・・・なんとなく・・・」
「うわー、それってもしかして俺のせい? トラウマ?」

ちょっと慌てるケンちゃん。

「うん、そうかも(笑) でも、手を繋ぐっていうのもいい感じ。なんか新鮮。
また時々手繋いでよ。リハビリ、リハビリ(笑)」

そう言うと私は、握った手に少しだけ力を込めた。
大きくなったね、ケンちゃんの手・・・

「仕方ないよな~、んじゃ、次のカレシが出来るまでな。まあユキのことだか
らすぐに出来ると思うけど(笑)」

一際大きく夜空にひらいた花火、二人が手を繋いだ影を大地に映す。
間を置かず轟音と衝撃が身体を震わせた。

この人にはもう絶対恋愛感情なんて抱くわけがないと思っていた。
この人に恋愛感情なんて抱いちゃいけないと思っていた。
・・・でもね・・・・・

四尺玉の残り火が落ちてくる様は、季節外れのホタルの光のようにゆらゆら、
ゆらゆらと夜空を漂っていた。


おしまい。

あ、私の次のカレシはすぐにやってくるんだけど、それはまた別の物語・・・