玄関、否トイレの方から響と中年男性の声が聞こえる。声だけで判断するなら案外まと
もな人かもしれない。
もっとも響の姿を見て、なんのリアクションも示さない人物が、まともだとは思えないが。
やがて響に連れられて来たのは、派手なボディペイントをしたコンクリート片だった。
コンクリート自身の色具合、そして針金の先に付いた値札があるところを見ると、出身は
ドイツのベルリンらしい。
「やあ、突然お邪魔します」
コンクリート片は、黒いシルクハットを短い手で器用に挙げて見せ、続けて名前を、と
言うところで詰まってしまった。察するにまだ名前が無いらしい。
「とりあえず、ジャーマンでどうです?」
「そうですね」
どうやら話は通じたらしい。
智鳥は要件を聞こうとしたが、ジャーマン(仮)は手で智鳥の発言を抑えた。急いでい
るのか、しきりに古時計を気にしていた。
「みゃあ」
「お急ぎですか?」
「ええ、ちょっと・・・ すみません。急いでるものですから」
言葉の前半はセリカへの応えで、後半は智鳥に言ったものである。あんまり長居したく
ないらしい。が、その割に声はのんびりしている。
コンクリート片は智鳥と響に頭を下げると立ち上がって出ていこうとした。響が先にな
って歩き、玄関に行くかと思いきや、着いたところは冷蔵庫の前であった。
そこが出口か、この分だと玄関はどこへ続いているのやら。