歩を止めて

眼下に見渡す

山並みに

心安げど

まだ旅半ば



人生は旅のそれと同じ。
長い旅路に疲れた時は、ちょっと歩を止め休憩してみる。
諦めず歩んだ故にひらける景色。
少しだけ心安らぐことができたら、また歩を進める。
旅はまだ道半ば・・・
標(しるべ)無き
人の生を
ただ征(ゆ)けば
道はできるさ
君の後ろに



旅立つ全ての若者への手向け・・・
浅き夢 醒めし佇む この部屋に
彩葉にほへど 君は何処に

~あさきゆめ さめしたたずむ このへやに
       いろはにおえど きみはいずこに~


訳:
儚い夢のようだった君との生活。
置いてけぼりの彩葉(ポインセチア)の匂いが部屋に漂う。
嗚呼・・・君は今、どこにいるのだろう・・・
「あなた・・・あなた・・・」

(ポタン・・・・・ポタン・・・)
雨樋の罅(ヒビ)からしたたり落ちる滴が、軒先に忘れられたバケツに落ちる音で目が醒めた。
枕が濡れていた。
目尻から耳にかけて一筋濡れたような感覚がある。
私、どうやら泣いていたみたい。

秋に降る雨は、あらゆるものをゆっくりと濡らし、そして染み込んでいく。
寝室の窓から見えるそれもまた、秋雨に濡れていた。
その秋雨が濡らしたのは季節外れのあさがお。
あの人が好きだった遅咲きのあさがお。
私が「あさがおって夏に咲くものでしょ?」というと、あの人はいつも決まってこう言った。
「他のあさがおが咲き終わる頃に咲くあさがお。このあさがおは他のあさがおとは時間の流れ方が違うんだよ。
ゆっくり、ゆっくり、自分のペースでね。まるで俺みたいだろ?」
だけど、あの人が旅立つのは早かった。あんなゆっくりでマイペースな人だったのに・・・

あの人が旅立ってから2度目の秋。
今、私はあの人の好きだった遅咲きのあさがおを育てている。
毎年、毎年種をとり、それをまた翌年育てる。
あの人と私は結局子は成し得なかったけれど、あの人が残してくれたこのあさがお、これがあの人と私の大切な子供。
花開くたびにひとつずつあの人の笑顔を思い出す。



 夢枕 君立つ朝の 秋雨が

   濡らしたあさがお 思ひでの花



いつの間にか雨はあがっていた。
雲間からこぼれ落ちる朝の陽が、濡れたあさがおの雫と相まって地面に落ちる。
萎み気味だった花がゆっくりと開いた。

あ。。。あの人が笑ってる・・・・・