先日、博物館を訪れたときに、昭和6年頃のものだというオルガンを見ました。展示室の中でも、そのオルガンは不思議と静かな存在感を放っていて、気づけば自然と足が止まっていました。木の質感や色合いには長い年月が染み込んでいるようで、「このオルガンは、どんな時代に、どんな場所で、どんな音を響かせてきたんだろう」と、しばらく想像の世界に入り込んでしまいました。
近づいてみると、譜面立てには楽譜が置かれていました。タイトルらしき文字はあるのですが、どうにも読めません。崩した達筆な文字でタイトル以外もいろいろ書かれていて、どの言語なのかも、何の曲なのかも分からないままです。でも、不思議とそれが気になって眺めてしまいました。
楽譜をよく見ると、シャープが1つ付いています。ということは、ト長調(G dur)かな?と考えてみたりします。確信はないけれど、こうして想像する時間自体が楽しくて、まるで過去の誰かと無言で会話しているような気分になりました。
さらに気づいたのは、その楽譜が三段で書かれていることです。そう、オルガンの楽譜です。普段よく目にするピアノ譜とは違い、手鍵盤と足鍵盤を想定した構成になっています。「そうか、オルガンってピアノとは全然違うんだ」と、今さらながら実感しました。当たり前のことなのに、実物を見ると理解の仕方が変わるものですね。
足鍵盤の楽譜を見ると、和音だらけです。足をこのように複雑に使うことにも驚きました。
そして何より印象に残ったのは、その楽譜が手書きだったことです。しかも、とても読みやすい。線や音符に迷いがなく、書いた人の手の動きまで想像できそうでした。手書きの楽譜って、こんなにも美しいんだな、と素直に思いました。デジタルでは出せない、人の体温のようなものがそこに残っている気がします。
インクで書かれているから、なおさら素敵に見えるのかもしれません。黒が紙にしっかりと定着していて、時間が経っても消えない強さを感じました。でも、自分が同じようにインクで楽譜を書くとなると、ちょっと難しそうです。間違えたらやり直しがきかないし、きれいに書ける自信もありません。
そこで思いついたのが、フリクションボールペン。消せるし、気軽に挑戦できそうです。そもそも普段、楽譜を書くこと自体ほとんどないので、五線譜を書くところからして不安です。本当に書けるのかな、と少し心配になります。
それでも、できないかもしれないことをやってみるのは、やっぱりわくわくします。博物館で見た、あの昭和初期のオルガンと、読めない外国語のタイトルが書かれた手書きの楽譜が、「失敗してもいいから、やってみたら?」と静かに背中を押してくれた気がしました。
ただ展示を見ただけのつもりだったのに、気づけば新しいことを始めてみたい気持ちをもらっていました。過去の音楽と今の自分が、ほんの一瞬つながったような、そんな静かで豊かな一日でした。
