「この大きく突き出た半島はイヅと言って、遥か昔に南の海からやって来て、こちらの陸地にぶつかりました。あの白い山はそうして生まれ出でた山なのです」
アシタカの集落で聞いた話だ。
南の海から来たのはイヅ以外にもあるという。
フツはその巡り合わせが、あの美しい山を生み出したことに感動していた。
そしてイヅという地の山々の連なり、樹の多さとそのエネルギーはフツ達を圧倒させた。
「私達の国は広大さがあるが、この国は樹や川が何と多いのだ」
「海もずっとあって、食べていくのには困らないのでしょうね」
「そして森も山も谷も深い」
「ええ、本当に」
浜辺からすぐに山がある。
海と山の近さに更に感動するフツ達だった。
「この半島をぐるりとまわると、今度は北東方向に向かいます」
船は最南端の岬をぐるりと陸に沿って回り、半島の東側へ出た。
青海原が広がる遥か先に水平線が見える。
若者達の中にはここまで来たのだなぁ~と、感慨にふける者もいた。
やがて船が再び東に向きを変えると、海に迫るように続いていた山は途切れ、川の河口とともに平野が見えてきた。
だがそれもすぐに海に迫った山が現れる。
それでもしばらく進むと、お椀を伏せたようなコマの山がその終わりを告げ、その麓から東側に先程よりも更に広い平野を見せてくれた。
コマの山の麓に一筋の川が流れている。
「この川がアシタカの集落で聞いた、アの山から流れる川ですよ」
案内人はその川の河口に船を止めさせた。
「ほら、川の正面に三角の形がきれいなアの山が見えますよ」
アシタカの集落で、東のコマの山の麓では川の正面に白い山と似た形のアの山があり、更に東の大きな川からはアの山と白い山、アシの山が並んで見える場所があると教えてもらった。
「コマの山はアの山の入口なのです。この川を遡ればアの山に着きます」
と案内人が付け足した。
そして仲間の何人かがアの山の探索を申し出た。
彼らの向かう先に、彼らと出自を共にする仲間がいることを、この時はまだ誰も知らない。
全国を交易しながら飛び回る案内人すら、その事実をまだ知らないでいた。
仲間と別れてフツ達を乗せた船は、コマの山から北東方向に進路をとった。
目指す白い山への入口とされる川の河口があるのだ。
「西の方を見て下さい。白い山の南側にアシの山、北側にアの山が並んで見えますよ」
フツ達が西の方角を見ると、確かに南の海側からアシの山、白い山、アの山が並んでいるように見えた。
3つの山の間にも山々の連なりは続いていたが、それでも3つの山は目立っていた。
「今日は河口の集落で一泊していきましょう。その集落はサの里と言って、白い山の人達が、山が噴火するとこの里に避難してくるので、中にはそのまま住みついた人もいるので、何か話が聞けるかもしれませんよ」
案内人の話にフツ達は沸き立った。
「いよいよですね」
「うん、この瞬間をどれ程待ち望んだことか。いよいよ白い山のことがわかるんだ」
フツもアーシャも興奮が隠せない。
船はサの里の海岸に停泊した。
「この辺りはずっと昔は海だったので、人が住むにはまだ適していないとかで、里の人達はみな丘の上に集落をつくって暮らしています」
フツ達は丘の上に登り、西の方を見た。
白い山が先程より大きく見える。
アシの山の東側にはコマの山もよく見えた。
「やあ、ようこそお出で下さいました」
「ここは3つの山が並んで見えて、素晴らしいところですね」
「もう見られたのですね。素晴らしいのはそれだけではないのですよ。季節ごとに太陽があの3つの山に沈む光景も見ることができるのです」
「季節ごとに太陽が?」
「春と秋には龍の山に沈み、夏にはアの山に、冬にはアシの山に沈むのです。ここからはその光景を見ることができるのです」
「それは素敵ですね。見てみたいです」
アーシャはそのような光景を是非見てみたいと思った。
フツもアーシャと同じように思ったが、気になることがあるようだ。
「龍の山というのは、何故そう呼ばれているのですか?」
「あの白い雪をかぶった山は、地底にある龍の宮の入口なので、私達は龍の山と呼んでいるのです」
「地底の入口
」フツとアーシャは驚き、顔を見合わせた。
「私達の国にもシャンバラという地底の国の言い伝えがあります」
「地底への入口はこの世界のあちこちにありますよ」
フツ達の会話に割り込んできた人達がいた。
「おお、今龍の山の話をしていたところですよ。フツさん、こちらは元は龍の山の麓に住んでいて、山が噴火した際にこの里に避難して来られて、そのまま移住された方達です」
フツ達と話をしていた里の住民が、龍の山の麓から来た人達に、フツ達がこの里を訪れた理由を説明してくれた。
「ほう、蓬莱島を探して。そうですか」
龍の山の人達はそれ以上フツ達とは話さなかった。
そして里人に何か耳打ちしてから、彼らの家の方に戻って行ってしまった。
フツ達は受け入れられてはいないのだろうかと不安になった。
~続く~
