出版権拡張の法改正に潜む危険性

出版権拡張の法改正に潜む危険性

最近法改正が現実味を帯びてきた出版権の拡張について解説しつつ、個人的な見解を述べていきます。

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あなたが創作した小説を出版したいと思ったときには、出版をしてくれる出版社と出版契約を結ぶことになります。


前回説明したとおり、小説などの著作物はその内容に価値があるのであって、それに使われている紙,インキ,装丁自体に価値があるのではないという無体性といった特徴があります。


通常の商品であれば、あなたがある商品をA商社に出荷したら、あなたの手元にはその商品がなくなるのでB商社には出荷できません。


しかし、小説のような著作物は無体性という特徴があるので、A出版社に出版依頼した同じ小説を、B出版社からも出版してやろうとすればできないことはありません。


そうなるとA出版社が発行する小説の発行部数が減ってしまうことは目に見えています。


そこでA出版社としてはあなたと出版契約を結ぶ時には、『この小説は他の出版社からは出版しません。』という条件付きの出版契約とするのが普通です。


この『A出版社以外からは出版しない』という条件付きの出版契約が独占出版契約です。


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では独占出版契約を結んでおけばA出版社の地位は安泰かというと、そうでもないのです。


出版契約は民法で規定する普通の契約にすぎないので、その契約内容はA出版社と作者との間でしか効き目がないのです(相対効)。


例えば、作者が自分の小説についてA出版社と独占出版契約を結んでおきながら、同じ小説についてB出版社とも出版契約を結んだとします。


このときA出版社としては、もちろんB出版社に対して「当社(A出版社)はこの小説の独占出版契約をしているから、B出版社が出版した分の小説は書店から撤去してもらいたい」というような主張がしたいわけです。


しかし、B出版社が「そんな契約知らなかった」といえば、A出版社のさきほどの主張は通りません。


A出版社としては、契約違反行為をした小説の作者を相手に、損害賠償の請求ができるのがせいぜいです。


別の例では、その小説の書籍を購入した読者が、購入した書籍を勝手にコピーしてそのコピー本を誰かに販売しだしたら、その小説の著作権侵害になります


しかし、A出版社はこの小説の著作権に関する権利を持っていないので、コピー本を売っている相手に直接「コピー本の販売をやめろ!」と主張することができません。


A出版社としては、著作権を持っている作者にコピー本を持って行き、「こんな著作権侵害行為が行われているいるので、なんとかして下さい!」とお願いするのせいぜいです。



このように、出版契約は民法上の普通の契約であり、独占出版契約を結んでもその作品(先ほどの例では小説)の著作権は作者が持っている状態のまま変わりません。


このため、先ほど説明した作者の契約違反や著作権の侵害行為があったとしても、出版社が直接その行為を取り締まることができず、もどかしい思いをします。


いっそ、その作品の著作権を作者から売ってもらって(譲渡を受けて)出版社が自分の権利とすれば

(出版社側からみれば)さきほどのもどかしい問題は一気に解決します。


しかし、作家にとってみれば「作品は自分の子ども」と言う方もいらっしゃるぐらい自分の作品への思い入れが強いものです。


このため、作家としては簡単にその作品の権利を出版社に売ってもよい、という気になれないことも多いでしょう。


そこで登場するのが、著作権法に規定されている「出版権」です。