「なぁ、カワーノ、1番右に座ってる茶色い服の子かわいくない?」


「お~、かわいいねぇ。」


カワーノは小さな声で答えた。


土曜日の夕方、吉田とカワーノの二人は、東京ドームでのスポーツ洋品セールから、小岩の小料理屋に向かう電車の中だった。


その茶色い子は、彼女にとても似合う柔らかそうな素材の服を着ていた。


年は20代前半だろうか。


とてもかわいらしい子だった。


『あの子って見るからに幸せのオーラが漂っているよねぇ』


『そうだねぇ。

きっと幸せな結婚をするだろうね。

あの子はいいね。

K藤は不幸なオーラを持った人ばかりとHしているけど、

まるで正反対だね。』


カワーノはそう言うと苦笑した。


K藤とは二人の後輩である。


特にカワーノを師匠と仰ぐ正義感は強いが最近は体力の限界でメカに頼りっきりのおやじだった。


『オレらもああいう子を探さないとね。』


彼はそういうとシリアスな表情になった。



『さいと~う、しん○▲☆~、ちくしょ~め~、』


声がする方を見ると意味不明な言葉を発している酔っ払いオヤジがガンガン車内のドアーを蹴飛ばしていた。


オヤジが蹴っているのは先ほどの茶色い子の座っている直ぐ隣のドアーだった。


『hvsvmj歩、井。b00卯~』


何を言っているのかさっぱりわからない。



先ほどの茶色い子は、2人連れだったが、すぐ横の酔っ払いオヤジにおびえている様子だった。



『オレはあの子と結ばれる運命だったんだ・・・。』


『へ?』


カワーノは、急に意味不明なことをポツリと言った。



ガンガンガン!


誰もがそのオヤジを見て見ぬフリをした。


カワーノは、何故か目をランランとさせて茶色い子を見ていた。


『カワーノ!これは、動画じゃないよ!現実なんだよ!』


『え!?』


『巻き戻しも、スロー再生もできないんだよ。もちろん保存もできないんだよ!』


『え゛え゛え゛~!』


ハッとしたカワーノは、よだれを拭き席を立った。


そして、酔っ払いの方に近寄っていった。


その瞬間、電車が停車し、社内のドアーが開いた。


『オッサン、この駅で降りて、酔いを覚ませよ!』


酔っ払いオヤジは、そう言われるや否や、


『あ゛~、う゛~、わ、わたしは~』


と言って、走ってホームの彼方に消えていった。


『かっこいい!』


社内の、誰もがそう思ったに違いない。


電車内では拍手が起こり、誰もがカワーノを温かい言葉をかけた。


『ありがとうございました。』


立ってそうお礼を言ったのは、茶色い服の子だった。


その瞬間、カワーノの目にあるものが入った。


『ふざけんなよ~、ばかやろー!』


ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン


そう言うとカワーノは、顔を真っ赤にしていきなり電車のドアを蹴りだした。


その子は、左手の薬指に指輪をはめていたのだった。