現実逃避に拍車がかかる。
だって世の中ままならないんだも~ん。
だったら、ままなる話を作ってしまえっ。
ってことで日々、妄想が暴走のぷぅあるですw
~EXIT~
人は見える罪を犯すと牢屋に入れられる。
罪を償い、刑期を真っ当し、また社会へと復帰する。
では見えない罪によって冷たい床で途方に暮れている私はどうしたらいいんだろう?
*
人は目に見える罪を犯せば簡単に罰を与えることができる。
では見えない罪を犯した女にはどんな罰を与えたらいいのだろう。
*
「少し頭を冷やしてくる。」そう言い残して彼は部屋をでた。
あれから何時間たったんだろう?
相変わらず私は冷たい床の上で膝を抱えて困り果てている。
足には足枷がどっしりとしたダイニングテーブルの脚に繋がれて、身動きすらできない。
これは私の罪?
いったい私が何をしたと言うのだろう。
ただ、別れ話を切り出しただけなのに、私は囚われ人になってしまっている。
*
昼間から酒を飲みたい時はホテルのバーラウンジでスコッチをダブルでオーダーするか、
蕎麦屋で日本酒を注文すれば話は簡単だ。
だけど、今の俺には浮浪者よろしくワンカップ片手に公園のベンチに座ってあおるほうが気分なのだ。
やけ酒なわけじゃない。冷静に今さっきしてきた事を判断するために。
彼女に甥が置いていったオモチャの足枷をした。なぜそんな事ができたのか?
自分でもわからない。ただ、彼女をその場に留める手段にすぎないのだが、やりすぎてしまった。
*
冷たい雪の舞うゲレンデ近くのペンションで彼と出会った。
調度ビリヤードをして負けた私がこのペンションにいる男性に話しかける。
そんなバツゲームの対象に彼を選んだのがきっかけだった。
少し筋肉質で屈託のない笑顔が良かった。
「東京に戻ったら一緒に食事しませんか?」
いきなりの私の申し出に彼ははにかみながら一言「いいですね」そう答えた。
*
暖かいラウンジで長い黒髪を無造作に束ね、化粧気のないあどけない顔で彼女は話しかけてきた。
「これはバツゲームです。東京に戻ったら私と食事してください。」
確か彼女はこう言った。
いきなりの申し出だが、悪くない。そう感じ「いいですね。」と返事した。
*
根っからの遊び人な訳じゃないけど、彼と付き合うにはバランスが必要だった。
元々私は目の前にいる、或いはすぐに会える男しか愛せない女だから、
一月に一回会えるかどうかの男を愛し続けるには、
会えない日々を夜遊びで埋めるようなやり方以外にバランスをとる方法を知らなかった。
そう、彼は社会人で副業を持ち、そして多趣味な男だったから。
そして私は学生で時間もお金も余っている暇な女だったから。
危うい綱の上で踊るような日々は二年続いたけれど、バランスを崩したのは彼だった。
*
元々この年齢になるまで女を心から愛した事がなかった俺はいろんな趣味を持っていた。
「いつも会いたい」そう言われるのは苦痛だし、その点、彼女は物解りのいい女だった。
月に一度か二度、彼女に会いSEXをする。
それで充分だった。最初は。
いつから俺の心のバランスが崩れたのか?
バランスの崩れた自分が信じられず、益々趣味を広げてしまった。
そして今、完全に余裕をなくしてワンカップをあおっている。
*
人を愛し、と愛される事。
そんな当たり前の日常に慣れてしまった私は、愛する事に夢中になり、愛されている事に気づかなかった。
ただ、愛されたい。私よりも愛されていると実感したい。そう願っていただけなのに。
愛されていた。そんな当たり前の事実に気づいた時は、私はもう膝を抱え途方に暮れていた。
そうか、私はこんなにも愛されていたんだ。
そう思ってはみるものの、もう私の心は乾いてしまって一滴の雫も流れてこない。
*
人を愛し、愛される。
それが人並みの人生ならば、俺はかなり人並みから外れた人生を歩んできた。
別に生活に支障があるわけじゃないし、第一誰も俺の恋愛感など気にもしない。
ただ、気持ちの良い事だけを追い求めた結果、趣味が出来、彼女が出来るだけのことだ。
そうタカをくくっていたのが間違いだったのか?
今頃、こんな感情に振り回され、趣味を広げるのは子供じみているのかもしれない。
だが、どうやってこの感情をコントロールをすればいいのか、誰も教えてはくれない。
いや、教えてもらうなんて恥ずかしい事ができるわけがない。
*
一度、彼に付き合ってウィンドサーフィンに行ったことがあった。
昔はただの浜辺だったお台場で、私は砂に座り込み、遠くで気持ち良さそうに波に乗っている彼を見る。
生ぬるくなったアクアで煙草の苦味を消しながら潮風にさらされるのも悪くない。
強烈な印象はないけれど、漠然と、そしてじんわりと、愛している。そんな気がした。
恋が愛に変わった瞬間なんてこんなものかもしれない。
ただこれから彼に会えない日々を、少しの切なさをもって埋める作業が待っているのか。
そう考えるのは私には苦痛だった。
そして考えるのをやめた時、私は夜な夜な黒い人々の間に漂っていた。
*
一度、彼女とドライブした事があった。
天気の良い日曜日で確か鎌倉まで行ったような気がする。
道は渋滞して俺はイライラしていたが、彼女は呑気に鼻歌なんか歌って楽し気だった。
「ねぇ、こういうなんでもないドライブっていいね」彼女は悪戯する子供のように笑って言った。
こんなのも悪くないな。そう思った瞬間、なにかが変わった。
彼女をずっと自分の側に置いておきたい。強烈な感情だった。
こんな思いつきに慌てて首を振った。
それから俺の趣味は益々多彩になっていった。
*
もうだいぶ時間が経ったみたい。
カーテンの隙間から朝日が当たって明るくなってきている。
そろそろ体勢を変えないとお尻が痺れてきている。
抱えていた膝をくずして、横座りしてみるもののお尻の痺れは一向にとれない。
少し離れたローテーブルの上に私が置いたヘアピンがある。
あれで足枷を外すことはできるかしら?想像してみる。
きっと失敗してまた途方に暮れるくらいなら、彼が戻ってくるのを待ったほうがいい。
でも戻った彼がこの足枷を外してくれるとは限らない。
*
ブラブラと歩き回っては酒を飲み、また歩き回る。
そんなことをしている内に朝になってしまった。
今頃、彼女はどうしているだろう?
なんとか足枷を外して部屋から逃げてしまったかもしれない。
いや、きっと彼女はまだ部屋にいる。
俺が戻ってくるのをじっと堪えて待っているはずだ。
それが解っていながら戻れない。
戻ってしまったら、本当に彼女との別れが待っている。
もう少し、もう少し引き止たい。ただそれだけで戻れない自分が情けない。
*
彼のイギリス行きが決まったのはほんの数日前の話。
向こうで仕事をするのが夢だった彼はすぐにその職に飛びついた。
そんな彼の夢を聞かされたのはイギリス行きが決まった後だった。
まさに寝耳に水。
彼を愛する事、そして彼を待つ事にかまけていた私には、限界の話だった。
「もう別れましょう。そのほうがお互いの為だから」
やっぱり私にこの男は向いていない。
すぐに会える男でないと愛せない。
これ以上離れて愛する自信なんか私にはこれっぽっちもない。
どうせ、私はそんなに愛されていないのだし。。。
そう感じた私の我侭だった。
それなのに、彼は逆上し、私に足枷をした。
愛されていた。そのことに気づかなかった。
これが私の目に見えない罪。
私の刑期はいったいいつ終わるのだろう。
目に見えない罪のために私はいつまで服役すればいいのだろう。
もう一日が過ぎてしまった。
あと何日ここで過ごせばEXITが見えてくるのだろう?
*
俺のイギリス行きは実は昔からの夢ではなかった。
ただ友人が向こうの日本人学校で働いていて、
「空きがでたら声を掛けるから来い。」そう言われていただけだった。
向こうで暮らすこと自体を夢みていたわけでも、働くことを望んでいたわけでもなかったのだ。
今の俺には飛びつきたいほど魅力的な誘いだった。
これでこの感情の支配から逃げられる。ただその一念で即答してしまった。
まさか、自分が彼女にこんなことをしてしまうとは思いもよらずに。
俺の計算ミスだった。
「イギリスへ渡る。」
そう言い、彼女を日本へ置いて逃げるつもりでいた。
彼女が自分から別れ話を切り出すなんてまさにミス。
あれだけ俺を愛しておきながら別れを切り出すとは思いもよらなかった。
ただ俺はイギリスへ渡り、彼女は日本に残る。
そのまま時間が流れれば、彼女も俺を諦めるだろう。
そうタカをくくっていただけだった。
改めて俺は彼女を愛している。そう強く感じた。
そして、そんな自分から逃げるために彼女に足枷をして部屋から逃げた。
目に見えないから悪いんだ。俺のせいじゃない。
愛情なんて厄介なものに支配されるくらいなら、いっそ捨ててしまいたい。
そう思いながら、俺は目に見えるところに彼女を縛りつけ、置き去りにしてきてしまった。
いったいEXITが見えるのはいつなんだろう?
*
あれから何年たっただろう?
あのあとすぐに彼は戻り、私を解放してくれた。
「すまなかった」そういう彼の顔には苦い物を食べたあとのように歪んでいた。
一生忘れることのできない顔。私は深く人の心を傷つけた。
結局、人生にEIXTなんてありはしない。
あの日以来、私は自由になったけど、今だに目に見えない足枷が私の足を重くする。
*
あれから長い年月が経った。
いくら酒をあおってもついに酔うことが出来なかった俺は、部屋に戻り彼女を解放した。
「ごめんなさい」そう言う彼女は初めて会った時のようにあどけない顔だった。
最初から最後まで彼女は呑気だな。
人を愛することを日常にしている人間は強いのかもしれない。
結局、俺にはEXITなんてありはしない。
あの日からずっと、人を愛するような失敗は避けている弱い自分が今もいる。
・・・後書き・・・
人を愛することに夢中になり
どうやって心のバランスをとって良いのかわからない
愚かな女と
人を愛することを信じられず
どうやって感情のコントロールして良いのかわからない
悲しい男の話です。
~発情期~
手に入れたい。なんとしても。
私の視線を彼にぶつけながら、私は念仏のように心で唱える。
クラスでも長身で成績が優秀。
そしてgood lookingとくれば回りの女の子は彼をほっておかない。
でも彼は誰とも付き合おうとしない。
「石原君て意外と硬派なのよ。」
影で彼のとこを噂する。
私のクラスの女の子たちや、他のクラスの女の子たちは、
みんな恋をすると大騒ぎ。
恋してはしゃいで、周りに業とばれるようなやり方で、
自分の片思いをアピールする。
なんて稚拙で可愛らしい。
私は決してその軍団の中には入れない。
だって恋って一種の発情でしょ?
雌の部分を特定の男の子によって刺激され目覚めるもの。
だから恥ずかしくて、とても恋しちゃってま~す。なんて宣言できないのだ。
もっと厭らしくて、淫らに自分の心を醗酵させて、甘ずっぱい香りを醸造させる。
私の恋はいつもそうだ。
私の視線はいつも簡単に石原君を探すことができる。
意識しなくとも、周りの風景をぬって彼の元に届けてくれる。
なんて賢い私の視線。
そして、飢えた子供のように無垢な視線で彼に訴える。
「あなたがほしい。」と。
「こんなにあなたがほしいと願っているのだから、
それを叶えるのはあなたの使命よ。」
私はいつもこうやって彼に告白している。素直に。そして挑戦的に。
一瞬、瞬きするのも忘れ、石原君は私を見る。
憮然と。そして私の視線に怖気づいたように顔を背ける。
高校生2年にもなると興味本位から女の子でも
SEXの話題がにぎやかになってくる。
彼と手を握った。とか、そろそろAまでいきそう。とか、
夏休みには体験しちゃいそう。なんて。
一人でも経験済みな女の子がいようものなら
根堀り葉堀り下世話な話を聞いてくる。
それはとても執拗に。
私の周りではそんな女子高生の仮面をかぶったおばちゃんたちで溢れてる。
甘い一時を吹聴してまわるなんて私の趣味じゃない。
私はまだ処女だけども、男と女の間に流れる窒息しそうなくらいの幸福感を
誰かに吹聴するなんてできそうにない。
私が恋する相手はいつも決まっている。
無口で、女の子からは硬派だと言われるような、そんな男の子たち。
その点で石原君は私のタイプだった。
涼しい一重のキリっとした眼元も私の食指をそそる。
彼の顔を両手ではさんで、その眼元にそっとkissしたら?
そんな風に具体的に私は想像して顔を赤らめる。
なんていやらしい私。
いつか実現したい。そんな日を。
そう願いながら、私は視線を彼に走らせるだけ。
その出来事は思いもよらずにやってきた。
下校途中でばったり彼に会ったのだ。
確か、石原君の家は私とは反対方向のはずだけど。
一人で制服のパンツに片手を突っ込み、片手にはかばんを持って、
彼はまるで迷子のように立っていた。
チラっと彼に視線を走らせて、彼の横を通り過ぎようとした私の横を、
当たり前のように並んで歩く。
そして公園に差し掛かったところで、私の手をとり、中に入っていく。
何も言わずに。そして有無も言わせずに。
夕方の公園にはもう人気はなく、ジャングルジムの一番下の棒に腰掛け、
彼の言葉を待つ。
「やっと会えたね。」
毎日学校で会っているというのに。
なんて、ぶっきらぼうで可愛いのだろう。
ぼそっと言う彼の言葉は私の中に沁みてしみじみとこう思う。
やっと手に入れた。
***後書き***
高校時代のこの作り話は
ほとんど、妄想入ってますw
妄想だけはこの頃から立派なもんでした。
と付け足してw
ぷぅある。
Color's
「夜だというのに黒いサングラスなんかしちゃってあんたバカじゃない?」
ちょっと格好の良い男にそうやって声を掛けてみた。
喧嘩を売ってるわけじゃないけど、こういう遊びなれていそうな男には、
それなりの声の掛け方がある訳よ。
こういうクラブでは、COOLを気取った男や、
自称 ice manなんかがいっぱいあふれている。
だから最初、彼もそんな1人だと思って印象づけるために乱暴に声をかけた。
そんな私の声にちょっと笑って彼は答える。
「はずしてもいいけど、君、たぶん驚くよ。」
そう言いながら彼はサングラスをはずす。
吸い込まれそうなdeep blue。
確かに驚いた。
彼のように肌の黒い男が、青い眼をしているのはめったに見られるものじゃないから。
つまり彼は完璧なmix。
「この眼のせいで、みんな驚くんだ。君も驚いただろ?」
そう言う彼の瞳はなぜか悲し気で、この眼を見たら君も逃げるだろ?
そんなふうにもの語っていた。
「驚いたけど、あんたのその肌の色もその青い眼も私は好きだよ。」
平然と言ってのける私に、彼は少しの動揺と喜びの笑みを漏らした。
きっと、彼にこんな言葉を贈った人間は家族以外にいなかったんだろう。
急に親しみを込めて彼は私に抱擁する。
「ありがとう。嬉しいよ。」と。
こうして私たちは急速に仲良くなり、お互いの話をする。
「どうして君は僕の肌と瞳を見て平気なんだい?
僕の周りはみんな驚くか、嫌悪するかで、離れていくよ?」
「ん~、ここは日本だからさ、肌の色や瞳の色の違いの前に日本人である。
ってことが重要なんだよ。いくら見た目が日本人でも、日本人らしくない私は、
あんまり歓迎されないみたいよ?wだからかな?
別に変な病気持ってなきゃ私はOKなんだよね~ww」
「そうなんだ。それにしても日本の人種の壁ってわかりにくいんだなw」
「私がさ、ステイツに行けば「このチンクが」って言われる。私は日本人なのにね。
日本にいたって同じだよ。「日本人のくせに黒いのにぶらさがってる」そう言われるよ。
結局私が日本人だろうが、中国人だろうがどうでもいいんだよ、彼らは。
自分と違う肌の色や、肌の違う人間と仲良くするのが面白くない、
そしてそんな人間を見下したい。それだけなんだからさ。
そんなやつらをいちいち相手にする程私暇じゃないしね。」
最初に彼を口説くつもりで声をかけたのに、なんだか深刻な話になってきてしまった。
これじゃ、甘いムードだって漂うわけがない。
今夜は諦めて友情を深めようかな?
それにしても彼はsexyな男だ。
無駄のない筋肉を黒い肌が覆い、青い瞳が彼に知性を与えてる。
神様ってヤツは美しいものを創るのが本当に上手だ。
こんなに美しい人間を、馬鹿にしたり自分より下に見ることなんてどうしてできるんだろう?
人間てヤツは愚かな生き物だよな~。
そんなふうに感じながら、いい事をひらめいた。
「ねぇ、私とSEXしてmixの子を増やそうよ。
そうすれば、肌の色や瞳の色なんて関係なくなるよ。
そうすれば馬鹿にしたくてもできなくなるしw」
私の思いつきに彼は大笑いしてこう言った。
「good idea!」
***あとがき***
人はなぜ自分と違う人間を嫌悪するのか?
肌の色、言葉、宗教なんかを理由に。
それらはただの言い訳にしかすぎない。
結局、自分を優位に立たせる為のものなんだよね。
白い肌、黄色い肌、黒い肌。
3種類に分類されてるけど、
実際、真っ白じゃないし、真っ黄色じゃないし、真っ黒でもないじゃん。
それぞれに自分だけの色。
それが事実。
そして事実は不変だ。
ずっと昔はみんな猿だった。
これも不変の事実。
でも、世の中は不公平にできている。
それで良い部分もあると思う。
差別する人間を、私は差別する人間であると付け足してw
ぷぅある。
花冷え
白く透けるような肌、手の甲には青紫の血管が通り、頬はうっすらと紅が差している。
いつも大事そうに人形を持ち、少女のように可憐な彼女。
彼女が僕を見なくなっていったい何年経つだろう。
僕が物心ついた時から彼女は僕を見なくなった。
「母さん、お茶が入りましたよ。」
そう呼びかけても彼女に僕の声は届かない。
父の声しか彼女には届かないのだ。
「美咲、こっちにおいで。」
父の声に反応して彼女はやってくる。
「あなた、美奈がぐずって困ってるのよ。オシメも換えたばかりなのに、どうしてかしら?」
困った顔をしながら父は言う。
「美奈は今眠いんだよ。俺にまかせなさい。」
大事そうに抱えた人形を父に渡し、彼女は僕の入れたお茶を飲む。
「母さん。」
何度そう呼びかけても、彼女の中には僕という人間は存在しない。
「母さん、今日先生に褒められたよ。」
「母さん、今日タケシと喧嘩しちゃったんだ・・・」
「母さん、私立の中学に合格したよ。」
「母さん。母さん。。母さん。。。」
一度だって僕を抱きしめた事なんてない。一度だって振り向いてさえくれなかった。
彼女の中には生まれて間もなく病死した妹しか存在していやしないんだ。
わかってる。彼女は心の病なんだから。
いつか、直って僕を見てくれる日がやってくる。
そう思ってはみるものの、存在を否定された僕はいつもやるせない思いを抱え途方に暮れている。
小学校の低学年の頃だったか。
一度、彼女の大事な人形を奪ったことがあった。
彼女は半狂乱になり、僕を般若の形相で睨み、「美奈を返して!!」そう叫んだことがあった。
「僕だって母さんの子供だよ。僕を見て!」泣きながら訴えたけど、彼女には届かなかった。
今はもうそんな事をして彼女の気を引こうなんて思わない。
僕は大人になりつつあるから。
彼女の悲しみを理解できる程の大人に。。。
ある春の少し寒い日に、縁側に座っている彼女の横に僕もそっと座った。
「桜の蕾がだいぶ膨らんだわね」
珍しく彼女から話し掛けてきた。
「そうだね。でも最近寒いから咲くのはまだ少し先になりそうだね。」
上ずる声で答える僕に彼女はこう言った。
「ふふ、そうね。花冷えね。でも、花冷えの後には必ず暖かい春がやってくるのよ。」
相変わらず大事そうに人形を抱えながら、彼女は僕に微笑んだ。
***あとがき***
花冷えの後には暖かい春が必ずやってくる。
それを信じて待つしかないのでしょうね。
共犯者
一日の中でもっとも大切な時間。
私は教室を飛び出し、階段の踊り場で大きな窓にへばりつく。
ここから見える中庭にいるはずの真を見つめるために。
授業と授業の間のたった5分の休み時間が、
私の人生最大の感心事だ。
休み時間しかないのだ、私と真には。
私はその時中学3年で真は1学年下だったし、校舎も別々。
朝と夕方はお互い先輩、後輩として部活に励んでいたから。
唯一、休み時間だけが私たちの遊ぶ時間になる。
遊ぶといっても、会って会話を交わすわけじゃない。
真は私に見つめられることを充分承知で、中庭で読書をする。
私は真が私を意識していることを充分承知で、
それでも尚、見つめ続ける。
視線だって合わさない。
真が業と合わせてこないのだ。
私が見つめていることを楽しみながら、
ゆったりと読書をしているからだ。
生意気な後輩。でも愛しい。
私たちは共犯者だ。そして確信犯でもある。
告白してしまえば簡単に前に進むことが出来るとわかっているのに、
それをしないで楽しんでいる。
短い休み時間が終わるその時だけ、真は私を見つめる。
私が窓に背を向けた一瞬に。
見なくてもわかる。真の視線が張り付くのが。
私たちはこうやって視線を合わさずに、
人前で堂々と抱き合う以上にいやらしいことをやってのける。
暗い紺色のセーラーから淡いブルーのセーラーに衣替えをした朝、
いつものように、真が部の後輩として挨拶をしてきた。
「おはようございます。」と。
「おはよう。」と返す私の言葉を聞いてから、
周りに聞こえないように真はささやく。
「先輩のセーラー可愛いな。」
部の後輩の顔が一瞬にして共犯者の顔になる。
「セーラーの中身は全部、私よ。」
前に一歩進み出した私は、
もう休み時間を階段の踊り場で過ごすことはないだろう。
そして真も、中庭でゆったりと読書をすることはなくなるだろう。
校舎の外で、私は真を、そして真は私を手に入れる。
ーあとがきー
餓鬼のくせして、
両思いを自覚しながら、
片思いを楽しむ。
まったくもって生意気。
でも、すぐに手を伸ばして手に入れるより
自分をじらして手に入れるほうが
快楽に繋がることを
子供ながらに知っていた。
そんな中学時代の作り話です。
