ぼんやり雲

ぼんやり雲

脳内のいろいろを書き出す試み

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駅の階段を上る人の数はまだまばらな朝6時10分
もうあと20分もすれば、改札前はあっという間にごった返す
ちょうど上り快速の出る時刻だからだ
通常の出社時刻は9時
でも自分は7時半にはオフィスの机の前にいたいのだ
会社が始まってしまえば、自分の仕事に充てる時間など無くなってしまうのだから

階段を上りながらポケットに手を突っ込んで小銭の数を数える

「300円あれば十分」

そう、改札横の「茶漬け屋さっさ」なら最低250円で温かな朝飯にありつけるのだ

冷えきったコンコースの空気の中に、ふわっと漂う炊きたての米の匂い
さっさのおやじはこちらに背を向け、鈍く光るステンレスのカウンターの向こうで米を研いでいたが
こちらの気配に気づくと、鼻をすすりながら「へい」と振り向いた

「本格、昆布を番茶で」
「ああい」

おやじの「ああい」の「あ」は、ちょうど「あ」と「う」の間のような音で
張りもやる気も感じられない所が気に入っている

レジ横にはおなじみの「お茶漬けのもと」が陳列され「50円」で売られていて
頼み方は
「もとひとつ」である
そうすれば米の入ったカップ(200円)を渡されるからあとはセルフ
自分でカウンターに設置された魔法瓶で湯を注いでできあがり

自分の頼んだ「本格」は、きちんと茶葉で煎れた煎茶や番茶で茶漬けが作られる

おやじは慣れた手順で急須に番茶と湯を入れ、カップヌードル様の容器に米をばさり
トングでひゃいひゃいっと昆布を二つまみのせると
「280円です」と値段を告げ、急須とカップをカウンターに出してくる

茶葉の開きの関係で、これも完成形で提供される事は無い
大体勘定を済ませたあたりがちょうど注ぎ時になるからだ

こんな所だけ、妙に繊細な店なのだ

濃いのが良ければさらに時間をおいてから注ぐ
自分もちょっと待ってから注ぐ方だ

口広の急須で一気に注ぎ込むと、番茶の甘い香りが広がる
プラスプーンで軽くかき混ぜると昆布の色が滲み出て、番茶の色が深くなる
その色に夕暮れの空を連想してしまい、ふう、と溜息が漏れた

「嫌いじゃないのだけれど」

少々仕事に疲れを感じる今日この頃
さっさの茶漬けは胃に優しい