[粒子線治療][陽子線治療][菱川良夫] 名誉センター長のこばなし ~がんから学ぶこと~ -38ページ目

[粒子線治療][陽子線治療][菱川良夫] 名誉センター長のこばなし ~がんから学ぶこと~

一般社団法人 メディポリス医学研究所
メディポリス国際陽子線治療センター 名誉センター長
菱川良夫による講演からの小話。

懇話会や講演で皆さんにお話しをしているうちに、新しい考えをひらめくことがあります。
今回のこばなしは、懇話会の際にひらめいた考えをご紹介します。


医学の研究は、細胞実験から始まり、動物実験、人への実験的治療を経て、実際の治療(医療)へと歩みを進めます。

ここでひらめいたのは、「細胞」「動物」「人」の違いです。

過去に何度もお話ししたように、人は心と身体からできています。

勇気づけたり、逆に恐怖心をあおったり...
人間は、心の持たせようで治療効果が大きく異なってくると感じています。


しかし、細胞や動物には、(恐らく)人のような高度な心がありません。
即ち、細胞や動物での実験結果にはこれらが伴うことがないのです。


ここが、医学研究と医療の決定的な違いだとひらめきました。


医学研究者は、細胞実験、動物実験での結果を最重要視しています。
実験結果ばかりを追いかける研究者もまた、心のない生物なのかもしれません。

私の経験では、患者さんに治療を施す医師が医学研究者だった場合、
患者さんに対しても同様に、彼らの心を蔑ろにする傾向が強いように感じます。



ビタミンや澱粉の塊など、本当の薬ではないものを薬だと信じさせることで、効果を発揮することがあります。
これは、偽薬(プラセボ)効果と言われる、有名な心理効果です。

偽薬は治療法として確立されてはいませんが、
心理的な要因が身体にもたらす作用は少なからず存在します。


治療にこの人間の心の働きを利用しない手はありません。


「がん治療への心の利用」は新しい試みです。
しかし、私が患者さんに対してお話しを続けてきたことは、結局、これだったのだと再確認しました。


がん治療は、心と身体がそろって健康な状態になって、はじめて完治となります。

当センターでは、確かな治療に加え、患者さんの心を強くするお話を続けていきます。
40年近くがんの治療に携わっていると、がん患者さんには共通の顔つきがあることに気がつきました。

がん であることを医師から告げられた患者さんの多くは、それがトラウマとなり、常に がん のことを考え続けるようになります。

意識するかどうかに関わらず、心の深いところに極度の恐怖感を植えつけられるからでしょう。
どうもそれらが、知らず知らずのうちに表情に出ているような気がします。


懇話会や講演でもお話をしていますが、当センターでは「恐怖心をとること」を大切にしています。

粒子線治療は優しい治療なので、患者さんに苦痛を与えません。

また、治療回数を重ねることで治る実感があるのでしょうか。
多くの患者さんの顔つきが、治療前と比べて穏やかで良い顔になるのがわかります。




指宿に来てから、国内外でトップを走る人達にお逢いする機会が増えました。

第一人者と呼ばれる方は、 本当に良い顔をされています。
そして、決して驕れることなく、穏やかで気さくです。



明治時代の日本人の写真を見ると、素晴らしい顔つきの人がたくさん写っています。

現代では、良い顔をする若者が少なくなってきたようにも感じますが、
それでも良い顔つきの若者を見ると「まだまだ日本も捨てたものでない」と心密かに喜んでいます。


患者さんやその家族の顔つきの変化を見ること。良い顔の人を見つけること。

これらの顔つきを見ることも、私の趣味の1つです。
先日、中国の瀋陽(しんよう)へ講演に行きました。

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講演は、主に瀋陽にあるがんセンターの先生たちに対して行い、
粒子線治療の素晴らしさを伝えてきました。

講演後 ~ 交流会では数多くの質問を受け、
改めて、中国における粒子線治療への注目度の高さを窺い知ることができました。



瀋陽に初めて来たのは1年前のこと。
その時にも感じたのですが、今回も中国と日本の両者で文化の違いを体感しました。


まずは質問の姿勢です。

中国の先生たちは、自分たちが行っていない治療法や装置に対して、具体的に、納得するまで質問を繰りかえし、執拗に知りたがります。

一方、日本の先生の場合、自分が関わっていない治療法に対しては、意外と淡白です。



次に料理はどうでしょうか。

中華料理は、大きなテーブルに料理が盛られたお皿が運ばれてきます。
料理の内容はバラエティに富み、その量は食べきれないほど大量です。

中国では、「食事をする人たちが残さず食べてしまう量は失礼」とされている為、
大量に運ばれてくるそうです。

一方日本では、「出されたものを残すのは、勿体ないので失礼」とされています。


最後は、大学の教授。

20数年前、中国の大学でIT関係のベンチャーを始めた先生がいました。
彼は苦労の末 大成功を納め、利益で新しい大学や超優良企業を作り、教育や医療に大きく貢献しています。

日本の教授であれば、個人が多大な利益を得ることを周囲が良しとしない文化があります。
その為、大学教授がビジネスで大成功することは、なかなか難しいように思えます。



それぞれの国には歴史があり、それを基本として文化が形成されてきました。
その結果、全く反対の「それぞれの文化での正解」を作り出しています。



「文化の違いを理解し、認めること」「文化を尊重すること」

これが、グローバリゼーションの時代では最も大切なことかもしれません。



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当センターは、JCIの認証を修得することが出来ました。
これをきっかけに、より多くの患者さんが、世界中から治療に訪れるようになるでしょう。

そのような日に向け、言語を学ぶなど、我々は準備を進めています。

世界中の人にも幸せな医療の提供を。
我々は、南九州から世界に向けて“光”を放ち続けます。
私は、1994年から粒子線治療施設を立ち上げることに携わってきました。
それが、兵庫県立粒子線医療センターです。

センターが開設された2001年からは初代センター長に就任し、粒子線治療を経験してきました。(センター長は2010年迄、その後、終身名誉院長に就任)

2010年には、メディポリスがん粒子線治療研究センターのセンター長に就任し、より良い治療を提供できるよう、医療としての粒子線治療を続けています。


今回のこばなしでは、これまでの経験を踏まえ、粒子線治療施設を計画している(計画しようとしている)医療機関へアドバイスをしたいと思います。



【アドバイス1】
装置選びについて。
装置は過去に稼働している装置の導入をお勧めします。

研究所であれば、初めての装置を導入 ~ 稼働させる危険を冒しても良いのですが、
医療機関で初めての装置を導入し、動かなければ大変なことになります。

実際に、海外の施設ではそのような事例がありました。
そのような最悪の事態を回避するために、まずは実績のある装置の導入をお勧めします。


【アドバイス2】
粒子線治療の主役は医師だけではありません。
放射線技師、医学物理士、看護師、薬剤師、事務、装置管理の技術者など...
チームでの運用が必須となってきます。

スタッフの教育と、チーム力アップを目指す強いリーダーの存在が必要です。


【アドバイス3】
適応となる疾患は、チーム力に応じて変わってきます。

開設直後(装置導入直後)に対応できる疾患は前立腺がん、早期肺がん、血管に接しない肝がんなど。

その後、チーム力のアップに応じて頭頸部がん、骨軟部腫瘍、血管に接する肝がん、

さらにチーム力が高まれば手術不能膵がん、再発頭頸部がん、十分な化学療法をした進行肺がん、小児がん、食道がんなどの治療が行えるようになります。


【アドバイス4】
最も大切なのは、綿密な事業計画です。

粒子線治療は、装置に対する巨額な初期投資と、その後は多額の維持管理が必要になります。
「いつ黒字化するのか」具体的な予測を立て、それまでの期間、赤字をどのようにするかを考えなければなりません。

粒子線治療を行うということは、数年間の多大な累積赤字を覚悟しなければいけないと言うことです。


【アドバイス5】
最近のがん治療における技術の向上には目をみはるものがあります。
もしかしたら、「薬剤でがんが治る時代」も そう遠くない未来かもしれません。

しかし、そうなった場合は、不要な施設と装置が出てきてしまいます。
廃棄費用もバカに出来ません。

事業計画を立てる上では、そう言った「未来を見る目」も必要です。




粒子線治療は、非常に良い医療です。

しかし安易な気持ちで導入すると、医療機関にとって大きな負担となります。
慎重に検討を重ねた上で、導入するようにして下さい。
当センターでは、「セカンドオピニオンとして受診していただいてからの治療」というシステムを採用しているため、数多の患者さんから相談を受けています。

私も依頼があれば、時間がゆるすかぎり、患者さんの相談に乗らせていただいています。


センターまで患者さんがいらっしゃる場合は、直接顔を合わせて、
オフィス大阪からの場合は、テレビ会議システムを利用して相談を受けています。


テレビ会議システムを利用して、積極的に相談を開始してから約2年が経ちます。

最近のテレビ会議システムは非常に高性能で、相手の表情や声を正確に伝えてくれますし、回線の高速化により、数年前のそれとは異なり時間のずれもありません。



しかし、ある日、「顔をあわせて面談をしている時」と「テレビ画面を通して面談をしている時」では何かが違うと気づきました。

具体的には、テレビ画面を通している方が、患者さんの微妙な変化に気づきやすいのです。


これは、テレビ画面を通すことで、他の情報がシャットアウトされ、患者さんの表情や声、挙動に集中することが出来るためだと考えました。


こう考えるようになってから、誰かと話をする時は、努めて相手の顔を見て、表情を感じるようにしています。



何度も言ってきている通り、当センターでは、患者さんへの説明を徹底しています。

医師からは、腫瘍に対して陽子線治療が適応となるのか否か、
適応だった場合、どのような治療を行うか、副作用として起こりうる可能性がある事象についてお話ししています。


他にも...
放射線技師からは、固定具の説明や治療の計画、治療中の注意点など、

看護師からは、治療中に生じる変化や軽減方法、ケア方法など、

事務からは、治療にかかる費用や治療中の生活など。


「我々のセンターでは病気を治すのではなく、病人を治したい」
私は、センター発足当初から全てのスタッフにこう伝えてきました。

今では、多くのスタッフが私の言葉を理解し「幸せな医療の提供」に協力してくれています。
体現してくれているスタッフには本当に感謝しています。


これからも、スタッフ一丸となり、全ての人に我々の「お・も・て・な・し」を提供して参ります。