「新春放談」が不愉快 | シイタケのブログ
2018-01-30

「新春放談」が不愉快

テーマ:ブログ

 あるネット上の記事を見ていて、あまりにもひどいことが書かれているので我慢ならないと思った。
 「[新春放談]安倍政権は既得権益をぶっ壊せ 経済同友会の小林代表幹事VSアジア成長研究所の八田所長」という記事のことである。前にもこの人のことを書いたように記憶しているが、八田達夫氏の発言があまりにもひどいのである。

 八田氏いわく「今は、例えば仮に本当に優秀な人材がいて、中途採用したくても、年功序列でポジションが空いていないからできない。これでは何もできません。もちろん、解雇されないという条件で雇われた人を解雇してはまずいですが、高い給料を得る代わりに解雇されてもいいんだ、というような条件で人を雇うこともなかなかできないというのは問題だと思います」。

 「上が空いていないから上がれない」というのは、ヒラサラリーマンの愚痴であって、経営者が嘆いたり、国の政策で解決できるものでもない。若い優秀な人をリーダーにしたいのなら、経営者はそう判断して人事をするべきだし、まして政策として「お前の会社は年功序列をやめろ」という介入はできないはずである。もし国が企業に年功序列をやめるよう求めるなら、それこそ、この発言のちょっと前に小林喜光氏(経済同友会代表幹事)が批判している「いわば社会主義国のようなもの」そのものである。

 「解雇されないという条件で雇われた人を解雇してはまずいですが」って、そんな人はいるのだろうか。大企業の正社員のことを念頭に置いているのだろうか。もしそうだとすれば、彼らは法的にいうと「期間の定めがない雇用契約」を結んで働いているはずである。その場合、労働契約法で「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である」とき、解雇はできることになっている。解雇されない条件で雇われる人など、存在しない。

 「高い給料を得る代わりに解雇されてもいいんだ、というような条件で人を雇うこともなかなかできない」というが、「なかなかできない」のは経営者の心の問題であって、できないことではない。優秀な人を期間限定(有期雇用)で特定プロジェクトのために破格の条件で採用することは経営者の自由で、法的な問題もない。

 八田氏「労働市場改革を、いったん退職した人や定年を過ぎた60歳以上の労働者を対象に先行させたらどうでしょうか。そこでは解雇も自由、優秀な人材であれば契約の継続も自由、という形にすれば、会社としては高齢者を雇う時のハードルが下がるのではないでしょうか」。

 またもやとんでもない発言が飛び出している。「改革」ということは、何か国が政策でやれということだろうか。だとすると、「いったん退職した人」とそうでない人を線引きして、現実に政策がとれるのだろうか。また、高年齢者は、今でもほとんどは有期雇用契約を結んでいるはずで、高年齢者を雇ったら解雇できなくて困っているという企業はほとんどないはずである。他方、65歳を過ぎても契約を継続することは、今でも何の問題もなくできる。八田氏は何か制約があるとほのめかしたいみたいだが、ウソである。「国が規制しているから自由がない」という被害妄想に取りつかれているといってもいい。

 八田氏「非正規雇用の改革についても言えるでしょう。例えば、非正規雇用者は5年間雇ったら、雇い止めになってしまう可能性があります。そういう制度は、やはり非正規雇用者にとっては非常に不利ですから、いくらでも再契約をしてもいいという仕組みが必要です。今の日本では、正規雇用者の利権を守るために、非正規雇用者に対して様々な不利な条件を強いています」。

 (曲がりなりにも)非正規労働者の雇用安定を図ろうとした「無期転換ルール」をねじ曲げて解釈している。無期転換ルールというのは、「5年も有期雇用で人を使い続けているということは、そもそもその企業でその仕事とその人が必要だということだから、有期雇用契約の濫用だ。だからそういう人とは無期契約を結びなさい」というものである。八田氏のいう「5年たったら雇止め」というのは、企業がそのルールから逃れようとする悪質行為にほかならない。それこそが責められるべきだし、今後裁判などで多くの悪質行為が明るみに出ることだろう。それに、5年も経験を積んだ労働者をほいほいと入れ替えるような企業は、優秀な人材を集められなくなるだろう。

 「いくらでも再契約をしてもいいという仕組みが必要です」って、それはつまり、無期転換ルールを廃止せよということだろうか。一生雇用不安を抱えたまま働いてね、というのが八田氏の主張なのか。

 「正規雇用者の利権を守るために」という発言については、誰が守っているのかという主語が肝心である。正社員を中心とする労働組合が自分の利権を守るための行動は、たしかに全体のためによくない面がある。世の中の正社員(労働組合)が非正規を受け入れることで、労働者がより階層化してしまったことは否めない。だから、主語が正社員労働組合ならば、それはある意味正しい。しかし八田氏は、そうではなく、「国が政策として正社員の利権を守っている」といいたいのだろう。
 しかし仮にそうだとして、正社員の「利権」とやらを、政策としてどうやって破壊するというのだろうか。労働契約法では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められているが、これを削除すべきというのだろうか。しかしこの規定は解雇権濫用禁止法理という判例がルーツだから、判例まで変えていくにはもっと踏み込んだ法改正が必要になる。そうすると八田氏としては、「労働契約は『無期契約禁止』と法改正すべきだ」と訴えるべきだろう。八田氏のように責任ある立場の人は、その程度まで具体的に発言して、批判に応えるべきである。

 八田氏は上のほかにも「日本の大学も、賃金設定を自由にしなければならないと感じましたね。つまり、しょうもない研究をしている人の給料は余り上げない。実力のある人の給料は実力に応じて上げる。その自由は大学にあるという形にすることが必要だと思いましたね。」など、突っ込みどころ満載の発言を繰り広げているが、さすがに全部は取り上げられない。

 結局のところ、この「放談」とやらが言いたいのは、自分自身をリスクのない高みに置きつつ、「企業がもうからないのは働かない労働者のせいだ」「でもそいつらをクビにするのはいろいろ面倒だから国がもっと口出ししてよ」ということであろう。しかし繰り返すが、法律はごく常識的なことを定めているだけで、経営者の手足を縛ってはいない。

 この放談も含めて、日経全般には「中年正社員は役立たずだからクビにできたらいいのに」というトーンが漂っている。日経には、そういう役立たずの中年社員が多いのだろうか。そうでないと、ここまで正社員たたきはできないはずである。

 八田氏は国家戦略特区諮問会議議員も務める。加計学園問題もあったように、国家戦略特区は新たな利権を生み出す装置である。国会提出が予定されているカジノ法案も同じである。カジノ法案反対派は、ギャンブル依存症の問題をよく取り上げるが、問題はそこではなく、補助金をはじめ数々の利権が生まれることが実は問題なのではないか。本当にカジノが盛り上がるというのなら、一定の区域だけ賭博の例外のみを認めて、あとは一切、企業に任せておいてもよいはずだ。


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