偽装有期という言葉 | シイタケのブログ

偽装有期という言葉

 いわゆる非正規雇用(非典型雇用)の待遇が、いわゆる正社員と比べて劣悪なことはすでによく知られていることである。もちろん正社員といっても長時間労働に耐え(しかも残業代不払い)、リストラにおびえながら働いている労働者も多いことは重々承知しているが、それでも全体としてみれば、非正規雇用労働者の待遇が正社員よりひどいことは歴然とした事実であり、彼らは低賃金で、いつでも契約を打ち切られるという不安定な状態にある。もちろん、非正規雇用という契約形態自体は以前からあったものだが、それは主婦パートのような家計補助的なものが多く、以前はその待遇がそれほど問題にはならなかった。今日において非正規雇用問題が大きく取り上げられるようになったのは、労働者に占める非正規雇用の割合が3割を超え(若年層ではさらに多い)、家計を支える者が非正規雇用となったり、あるいは非正規雇用の職しかなく、家族を養い生計を立てようと思っても不可能な現実が広がってきたからである。

 非正規雇用の対義語は正規雇用であり、これは「期間の定めのない雇用契約」である。期間の定めがないのだからいつでも契約解消(解雇)できそうなものだが(実際、民法上ではいつでも契約解消できることとなっているのだが)、これについてはよく知られているように「解雇権濫用禁止の法理」があり、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は」解雇は認められないことになっている。もともと判例法理であったが、現在では労働契約法16条に明文化されている。この法理により、正規雇用労働者(正社員)の雇用契約上の地位は、ある程度保護されているのである。最近、この正社員の保護が強すぎるとする批判がみられるが、それは労働者の生活の安定と、雇用安定がもたらす高生産性を顧みない愚かな意見であると片付けておく。

 他方、非正規雇用と一口にいっても様々の形態があり、パートタイマー(擬似パートを含む)、アルバイト、契約社員、嘱託社員と、様々な形態と通称がある。そして派遣労働者も登録型の社員は非正規雇用の一類型であろう。さらに、昨今問題となっている偽装請負(雇用契約上の責任逃れをするため、実態は雇用関係であるにもかかわらず請負契約を結ぶこと)も、実態としては非正規雇用の一類型といえる。これら非正規雇用は、正規雇用と比べて何が決定的に異なるか。それは、いうまでもなく「期間の定めがあるかないか」であろう。非正規雇用労働者は、その契約期間があらかじめ決められているのである。一般的には、半年から1年単位の契約をしているのではなかろうか。このような期間の定めのある労働契約を結んでいる労働者は、有期雇用労働者とも呼ばれる。

 契約期間が決められているといっても、実際半年契約だからといって、ちょうど半年で労働者が職場を去ることはむしろ珍しいほうである。たいていの場合は、3ヶ月契約なら3ヶ月、半年契約なら半年、1年契約なら1年ごとに契約の更新を繰り返し、実質的には契約期間の定めのない労働契約になっていることのほうが、実態としては多いと考えられる。期限ごとにきちんと契約書を交わしていないことも珍しくない。労働者も次の契約更新はあるものと期待して生活を営んでいることが多い。そうすると、労働者としては期限が来たからといって、突然契約更新を拒否されるのは困るのである。このような実態を考慮して、判例で確立されたのが「雇止め法理」である。これは、契約更新を繰り返し、実質的に期限の定めのない労働契約になっている場合、上記の「解雇権濫用法理」を類推し、合理的な理由がなければ契約更新を拒否できないとする法理である。合理性の判断は、正社員の解雇の場合より緩やかに判断される可能性がないではないが、それでもこの雇止め法理は、有期雇用労働者にとって大きな武器であり、不当な契約更新拒否を受けた場合は、この法理で使用者に戦いを挑むべきである。

 しかしながら、この「雇止め法理」は、経営者も労働者自身も知らないことが多い。たとえ知っていても、労働相談窓口や司法に訴えるということはなかなかないであろう。経営者や労働者の多くは、有期雇用労働なのだから契約打ち切りがいつでも可能なのは当然、と考えていると思われる。とくに経営者にとってみれば、有期雇用という形態にして正社員並みに働かせ、必要に応じて契約更新を繰り返し、要らなくなったら契約更新を拒否してポイ、とするのが誠に好都合である(そのような会社に未来がないのはさておくとして)。このような実態は、いわば「契約期間の定めのある労働契約」の濫用とみることができる。実際は有期雇用ではないのに、契約打ち切りの場面でのみ有期雇用を口実としているのである。これを、「偽装請負」という言葉にならって「偽装有期」「偽装有期雇用」と呼ぶことにしたい。この呼び方は、つい最近、とある文献で見つけたものであり、なるほど、と感心した。今後、この呼び方が世間に拡がることを期待している。

 そもそも、このような偽装有期雇用を許している労働法制が悪いのである。有期雇用というのは、経営者にとって、労働者を必要とする期間が本当に限定的で、一時的・臨時的な場合のみに認められるべきである。例えばとあるプロジェクト、とあるイベントが半年、または1年で終わる予定で、その期間だけどうしても労働者を必要とする場合にのみ認められるべきである。ヨーロッパ諸国では、有期雇用契約の締結時に厳格な規制をしいていることが多いという。日本も偽装有期雇用をなくすため、このようなヨーロッパの制度にならい、有期雇用契約締結においては合理的理由を要するとする法規制を行うべきである。クビ切りをしやすいよう形式上の有期雇用契約を結ぶことは禁止すべきで、本来の「期間の定めのない契約」とすべきである。真の均等待遇と、労働者の全体的な地位の向上は、ここから生まれるに違いない。

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