労働契約法の修正箇所の検討5
【原案】(労働契約の成立)第六条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
(労働契約の内容と就業規則との関係)第七条 使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条(=就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による)に該当する場合を除き、この限りでない。
【連合の見解】第七条では、「就業規則を労働者に周知させた場合には」となっているが、労働政策審議会労働条件分科会による法案要綱では「周知させていた」となっており、時点が変わっている。
【修正案】第六条の見出しを削り、同条の前に見出しとして「(労働契約の成立)」を付する。
第七条の見出しを削り、同条中「使用者が合理的な」を「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な」に、「周知させた」を「周知させていた」に改める。
【私のコメント】これは6条と7条をまとめて見なければ改正の趣旨が理解できないところである。6条の修正では見出しをいったん削除してまた同じ名前の見出しを付けていて、一見意味がないように思われるが、これは7条の見出しを削ったことと関係がある。つまり修正前までは6条の見出しは6条についてのみ付されていたが、7条の見出しを削って6条の前に再度見出しを付けたことにより、6条の前に付けられた見出しは6条と7条にかかるということになったのである。6条の修正案で、前半で見出しを削るときは「六条の見出し」といい、見出しを付けるときは「同条の前に」といっているのはそういう意味を含む。連合はつまりここでも、「労働契約の内容と就業規則との関係」という言い方を嫌ったのである。7条の中身の修正の趣旨は、連合の談話より、日本労働弁護団による「労働契約法案及び労働基準法改正法案に対する見解」を読むほうが分かりやすい。ここではそれを引用させていただくこととする。
(引用ここから)
契約法案7条は、「合理的な労働条件が定められている就業規則」(以下、本項では、かかる就業規則を前提とする)を「労働者に周知させた場合」、「労働契約内容は就業規則で定める労働条件による」とする。この点、法案要綱は、「労働者に周知させていた場合」としていたのであり、要綱がかかる規定とした実質的理由は、既に合理的な就業規則が法的規範として存在している事業場に入職する労働者Aは、特約がない限り、当然に当該就業規則の適用を受けるとするところにあると思料され、この考え方は「就業規則は…法的規範としての性質を認められるに至っているものと解すべきであるから、当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に合意を与えたかどうかを問わず、当然にその適用を受ける」とした判例法理にも沿うものであった。
しかるに、契約法案7条は周知された法的規範としての就業規則が存在しない場合においても、周知を効力(発生)要件としてその法的規範性を認めるものと解される。
法的規範としての就業規則不存在には、就業規則自体が存在しない場合と、就業規則は存在するものの当該事項に関する条項が存在しない場合が考えられる。前者については、個別契約内容と(新たに制定された)就業規則内容とは、(イ)前者が有利、(ロ)同一、(ハ)後者が有利の3ケースが想定されるところ、(イ)については7条但書により個別契約内容が労働条件に、(ハ)については12条により就業規則内容が労働条件となるので、法理的な問題を除けば、結論的には労働者保護を後退させることはないと思われる。
後者については、個別合意があるものとして7条但書が適用される場合は前者と同様であるが、個別合意が不存在(白紙)の場合には、就業規則内容が労働条件となることとなろう。
判例法理は、前記に引続き、「『新たな就業規則の作成』または変更によって労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されない」とするのであって、7条の規定は明らかに判例法理に反するものと考えられる。
従って、判例法理に沿い、就業規則条項の追加による不利益変更は、原則として許されない(不利益変更の合理性を要する)旨の規定が置かれなければならない。具体的には、(1)10条の「就業規則の変更により」を「新たな就業規則の作成または変更により」あるいは「変更(追加的変更を含む)」と改める、(2)10条2項として、「新たな就業規則の作成により労働条件を変更する場合も前項と同様とする」旨の規定を置くことが考えられよう。
(引用ここまで)
非常に詳細な分析がなされていて興味深い。私の理解するところによれば、
1 就業規則がすでに存在している場合の就業規則変更:10条以下の就業規則不利益変更禁止の適用となる
→若干の問題を除いて判例法理に反しない
2 就業規則が不存在の場合
a 就業規則自体が存在しない場合の新たな就業規則の作成
イ 個別契約内容のほうが労働者に有利な場合:7条但書により個別契約が優先
ロ 個別契約内容と就業規則が同一の場合:問題なし
ハ 就業規則のほうが個別契約内容より有利な場合:12条(就業規則以下の労働契約は無効)により就業規則が優先
→結論として判例法理に反しない
b 就業規則は存在するものの当該事項に関する条項が存在しない場合の新たな就業規則の作成
イ 個別合意がある場合:上記aのイロハと同じ(個別契約内容を個別合意と読み替える) →結論として判例法理に反しない
ロ 個別合意がない場合:周知さえすれば就業規則の内容が労働条件となる ←判例法理に反する!
という具合であろうか。問題意識は連合と日本労働弁護団とで差異はないと思われるが、その解決手段が異なるようである。連合の意見を反映させたと思われる修正案によれば、修正後は以下のようになる。「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする」。この修正により、7条の守備範囲は時間的に労働契約締結の際に限られることになり、かつ就業規則がすでに存在している場合、ということになる。上記区分でいえば7条の守備範囲は1の場合に限られるということになろう。逆に、日本労働弁護団の修正案では、7条はそのままとし、上記区分の2bロ(就業規則の追加による変更=追加的変更)について、労働契約法10条(就業規則不利益変更のための厳格な要件)の中に取り込むことによって判例法理を維持しようとしている。私としては、起こりうるさまざまな紛争の解決のためには、日本労働弁護団の見解のように10条の守備範囲を広げるほうが便宜的で分かりやすいという気がするのだが…。難しい。
本記事に興味をもって下さった方に、クリック1回お願いします(ブログ人気投票)

(労働契約の内容と就業規則との関係)第七条 使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条(=就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による)に該当する場合を除き、この限りでない。
【連合の見解】第七条では、「就業規則を労働者に周知させた場合には」となっているが、労働政策審議会労働条件分科会による法案要綱では「周知させていた」となっており、時点が変わっている。
【修正案】第六条の見出しを削り、同条の前に見出しとして「(労働契約の成立)」を付する。
第七条の見出しを削り、同条中「使用者が合理的な」を「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な」に、「周知させた」を「周知させていた」に改める。
【私のコメント】これは6条と7条をまとめて見なければ改正の趣旨が理解できないところである。6条の修正では見出しをいったん削除してまた同じ名前の見出しを付けていて、一見意味がないように思われるが、これは7条の見出しを削ったことと関係がある。つまり修正前までは6条の見出しは6条についてのみ付されていたが、7条の見出しを削って6条の前に再度見出しを付けたことにより、6条の前に付けられた見出しは6条と7条にかかるということになったのである。6条の修正案で、前半で見出しを削るときは「六条の見出し」といい、見出しを付けるときは「同条の前に」といっているのはそういう意味を含む。連合はつまりここでも、「労働契約の内容と就業規則との関係」という言い方を嫌ったのである。7条の中身の修正の趣旨は、連合の談話より、日本労働弁護団による「労働契約法案及び労働基準法改正法案に対する見解」を読むほうが分かりやすい。ここではそれを引用させていただくこととする。
(引用ここから)
契約法案7条は、「合理的な労働条件が定められている就業規則」(以下、本項では、かかる就業規則を前提とする)を「労働者に周知させた場合」、「労働契約内容は就業規則で定める労働条件による」とする。この点、法案要綱は、「労働者に周知させていた場合」としていたのであり、要綱がかかる規定とした実質的理由は、既に合理的な就業規則が法的規範として存在している事業場に入職する労働者Aは、特約がない限り、当然に当該就業規則の適用を受けるとするところにあると思料され、この考え方は「就業規則は…法的規範としての性質を認められるに至っているものと解すべきであるから、当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に合意を与えたかどうかを問わず、当然にその適用を受ける」とした判例法理にも沿うものであった。
しかるに、契約法案7条は周知された法的規範としての就業規則が存在しない場合においても、周知を効力(発生)要件としてその法的規範性を認めるものと解される。
法的規範としての就業規則不存在には、就業規則自体が存在しない場合と、就業規則は存在するものの当該事項に関する条項が存在しない場合が考えられる。前者については、個別契約内容と(新たに制定された)就業規則内容とは、(イ)前者が有利、(ロ)同一、(ハ)後者が有利の3ケースが想定されるところ、(イ)については7条但書により個別契約内容が労働条件に、(ハ)については12条により就業規則内容が労働条件となるので、法理的な問題を除けば、結論的には労働者保護を後退させることはないと思われる。
後者については、個別合意があるものとして7条但書が適用される場合は前者と同様であるが、個別合意が不存在(白紙)の場合には、就業規則内容が労働条件となることとなろう。
判例法理は、前記に引続き、「『新たな就業規則の作成』または変更によって労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されない」とするのであって、7条の規定は明らかに判例法理に反するものと考えられる。
従って、判例法理に沿い、就業規則条項の追加による不利益変更は、原則として許されない(不利益変更の合理性を要する)旨の規定が置かれなければならない。具体的には、(1)10条の「就業規則の変更により」を「新たな就業規則の作成または変更により」あるいは「変更(追加的変更を含む)」と改める、(2)10条2項として、「新たな就業規則の作成により労働条件を変更する場合も前項と同様とする」旨の規定を置くことが考えられよう。
(引用ここまで)
非常に詳細な分析がなされていて興味深い。私の理解するところによれば、
1 就業規則がすでに存在している場合の就業規則変更:10条以下の就業規則不利益変更禁止の適用となる
→若干の問題を除いて判例法理に反しない
2 就業規則が不存在の場合
a 就業規則自体が存在しない場合の新たな就業規則の作成
イ 個別契約内容のほうが労働者に有利な場合:7条但書により個別契約が優先
ロ 個別契約内容と就業規則が同一の場合:問題なし
ハ 就業規則のほうが個別契約内容より有利な場合:12条(就業規則以下の労働契約は無効)により就業規則が優先
→結論として判例法理に反しない
b 就業規則は存在するものの当該事項に関する条項が存在しない場合の新たな就業規則の作成
イ 個別合意がある場合:上記aのイロハと同じ(個別契約内容を個別合意と読み替える) →結論として判例法理に反しない
ロ 個別合意がない場合:周知さえすれば就業規則の内容が労働条件となる ←判例法理に反する!
という具合であろうか。問題意識は連合と日本労働弁護団とで差異はないと思われるが、その解決手段が異なるようである。連合の意見を反映させたと思われる修正案によれば、修正後は以下のようになる。「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする」。この修正により、7条の守備範囲は時間的に労働契約締結の際に限られることになり、かつ就業規則がすでに存在している場合、ということになる。上記区分でいえば7条の守備範囲は1の場合に限られるということになろう。逆に、日本労働弁護団の修正案では、7条はそのままとし、上記区分の2bロ(就業規則の追加による変更=追加的変更)について、労働契約法10条(就業規則不利益変更のための厳格な要件)の中に取り込むことによって判例法理を維持しようとしている。私としては、起こりうるさまざまな紛争の解決のためには、日本労働弁護団の見解のように10条の守備範囲を広げるほうが便宜的で分かりやすいという気がするのだが…。難しい。
本記事に興味をもって下さった方に、クリック1回お願いします(ブログ人気投票)