人生には瞬間的に「よっしゃ!出番だ」と直感して
身体が動く時がある。
まだ二十代の若い頃だったが、こんな場面に出くわした。
横断歩道を渡り始めた時、
自転車で前を走っていたおじさんの後ろの荷台から
ぱたっと何かが落ちた。
走って行って拾い上げると、
それは束になった薬の袋だった。
おそらくは今しがた病院でもらって来たばかりの・・・
信号が青のうちに駆け足で横断歩道を渡り切ると、
左に曲がって行く自転車を全速力で追いかけた。
「おじさ~ん、おじさ~ん!落とし物!」
薬袋を掲げながら声を限りに叫びながら走ると、
ようやくおじさんが気がついて、振り向いた。
「おじさん、薬、落としましたよ~」
おじさんは私のつかんでいる袋を見て「ああ!」
と言って受け取り、ぺこりと頭を下げた。
「こりゃ、どうも。助かったよ。ありがとう!」
ああ、よかった!
小さなミッション、達成!
息を切らしながら、非日常的達成感に浸った。
「よっしゃ!出番だ」と無意識にスイッチが入って、
身体が勝手に動いてくれた場面だった。
若い頃は引っ込み思案でいつもうだうだ考え込んで、
咄嗟に行動に出られない方だったけれど、
こんな場面ではさすがに考える前に身体が反応してくれる。
人生、たまにこんな否応ない出番の時が訪れる。
思い出してみると、
今ここにいる自分しかミッションを果たせないと
感じるこの手の出来事はいくつかあった。
そのたびにできる限り出番を果たし、
誰かの役に立つことで、
ほかならぬ自分自身を喜ばせ励ますことができた。
はて、これからは?
反対に、若い人たちにこの手の達成感を味わわせてあげる
側の年齢になったかも・・・

