本日は臥床と筋について(2)を記載致しました。

昨日はどのような変化が起こるか記載させていただきました。
本日は、その後離床させたらどうなるかを記載しました。

ざっくり、まとめます。

1.筋容積ならびに筋線維サイズへの影響
離床を早めに促すことと、臥床期間でも荷重刺激を加えることは重要です。高頻度、短時間で加えていくことが大切ということがわかります。
2.筋構成たんぱく質への影響
合成と分解のバランスにより、臥床後でも離床させることで筋線維再成長や筋線維肥大が起こるとしています。
3.筋核数への影響
離床で筋核数が戻ることを記載しています。
4.筋線維損傷への影響
離床により筋再生の可能性と併せて、筋損傷のリスクがあることを記しています。

上記の内容に興味があれば、下記をご覧ください。



重力が筋に与える影響
片岡英樹ら  理学療法26巻5号 2009年5月 P626-632


微小重力環境暴露中ならびに暴露後の重力負荷が骨格筋に及ぼす影響

1.筋容積ならびに筋線維サイズへの影響
微小重力環境暴露中ならびに暴露後の重力負荷そのものの影響を捉えるシュミレーションとしては荷重刺激の負荷が挙げられ、小動物のHSモデルを用いて多数検討されている。Brownらは、ラットを2週間のHS終了後に1週間通常飼育とした群と、同様の飼育条件としたうえでHSの期間中に毎日60分間の荷重刺激を付加した群とに分け、ヒラメ筋の筋重量と筋線維横断面積を比較しているが、いずれのパラメータも後者が有意に高値を示し、しかも無処置の対象群との間にも有意差を認めなかったという。つまり、この結果は、ベッドレスト中といえども可及的早期から立位などの荷重刺激を負荷することが下肢筋の萎縮予防には必要であるという臨床上の示唆を与えている。さらに、下肢筋の萎縮予防を効率良く進める荷重刺激の方法についても検討されており、例えば、1日の荷重刺激の実施時間が40分であれば、継続して行うよりも10分を4セット行う方が、また30分以上の荷重負荷を継続して負荷する場合には、12~24時間の間隔を開けて実施した方が、萎縮予防の観点からは効率が良いとした動物実験結果も報告されている。

2.筋構成たんぱく質への影響
荷重刺激のみの影響を検討した報告はないが、ラットを用いた実験では、HSによってヒラメ筋を微小重力環境に暴露した後、HSを解除し通常飼育とすると、直後の筋構成タンパク質の合成・分解はともに亢進することが示されている。そして、通常飼育を開始した7日目では筋構成たんぱく質の合成の亢進は引き続き認められるが、分解の亢進は対象群と同程度まで後退するとされている。このような筋構成たんぱく質の合成・分解のレベルが変容していく過程は、萎縮からの回復にとってきわめて重要であり、通常飼育によってもたらされる荷重負荷が、筋線維の再成長、すなわち筋線維肥大を促すと考えられる。

3.筋核数への影響
筋核数をパラメータとした報告では、HS期間中の荷重刺激では筋核数への影響はないとされている。しかしながら、HSを解除し通常飼育するとHSによって減少した筋核数が増加することが示されている。そして、このメカニズムは、再荷重によって筋衛星細胞を中心とした筋前駆細胞が活性化・増殖し、萎縮した筋線維に融合するために生じるのではないかと考えられている。また、筋前駆細胞の筋線維への融合は筋線維サイズの増加につながるため、前述の重力負荷に伴う筋線維肥大はこのことも影響していると推測される。

4.筋線維損傷への影響
HSの過程では筋線維壊死はほとんど認められないが、HSを解除して通常飼育すると筋線維壊死が発生することがあり、これは、荷重や歩行動作に伴う筋収縮運動が過負荷となり筋線維に損傷が生じた結果と考えられる。この点に関して詳細な検討を行っているMcClungらの報告によれば、HS後に通常飼育した1日目から、貪食作用を持つED1+マクロファージの侵入がみられる壊死線維が増加し始め、これは3日目でさらに増加し、7日目においても3日目と同程度認められることが示されている。一方、非貪食細胞で筋芽細胞の増殖を促進し、損傷した筋線維の再生に働くED2+マクロファージの増加も通常飼育の3日目頃に認められている。このことは、通常飼育の1日目に損傷した筋線維が3日目にはすでに再生過程に至っている可能性を示唆しており、実際、HS後に通常飼育した7日目には小径の中心核を有する再生繊維が出現するという報告もある。
以上のことから筋線維損傷は、HS後の通常飼育の開始当初のみならず、7日目頃までは継続して起こるが、損傷した筋線維は再生する可能性が高く、経過とともに筋線維は重力負荷の環境に応用していくと推測される。しかし、前述のように微小重力環境暴露によって萎縮した骨格筋は非常に脆弱となっている可能性が高く、過度な運動負荷を行わなくても筋線維損傷が発生しやすいのは事実である。そして、筋線維損傷が発生してしまうと炎症が引き金となって起こる痛みが理学療法プログラムの阻害因子となるため、極力その発生を予防するのが肝要であり、われわれは常にこの点を念頭に置いて臨床に臨む必要がある。

おわりに
「微小重力環境」と聞くと宇宙空間をイメージしがちであるが、ベッドレストに代表される宇宙空間と全く同じ環境に暴露されている場合がある。本来、骨格筋は重力と闘うことを使命としており、特に直立二足歩行が可能なヒトの下肢筋の機能維持にとって抗重力位の環境がいかに重要であるかを、再認識して頂ければ幸いである。

引用:理学療法26巻5号 2009年5月 P626-632