TPPV患者の10年生存率は60%程度で、時代と共に確実に改善しています。
その最大の理由は、早期NPPVの使用による、VAPの減少が挙げられています。

TPPV施行ALS患者の予後
発症後10年生存率は60.9%
1980年代に導入された13例の10年生存率は23.1%
1990年以降に導入された37例では80.6%
2000年以降に導入された18症例に限ると10年生存率は87.1%まで改善
*TPPV施行ALS症例の予後は時代と共に確実に改善してきている

TPPV施行症例の予後が改善した理由
1980年代には、TPPV導入後、VAPを合併して死亡する症例も少なくなかった。近年、VAPによる死亡そのものも減少が、予後改善の最大の要因と考えられる。
VAPによる死亡が減少した理由としては、吸痰・排痰などのケア技術、感染対策の意識や技術、人工呼吸器の性能の向上、経管栄養剤の改良、呼吸器リハビリテーションの普及などもあげられるが、一番は早期からNPPVを含めた呼吸管理が開始されるようになったことと思われる。
*気道食道分離術が導入されたのは2005年であり、今回の調査には気道食道分離術の肺炎予防効果は反映されていないと考えられる。

詳しくは下記または本文献をご覧ください。土日に記事を更新できなくて申し訳ございません。


TPPV施行のALS患者の直接死因と予後
信國圭吾ら  難病と在宅ケア Vo.16 No.1 2010.4 P55-57

対象と方法
対象は1983年から2007年の、当施設で経験したTPPV施行ALS 50名を対象にKaplan-Meier法を用いて予後の解析を行った。


結果:TPPV施行ALS患者の予後
TPPV施行のALS50症例の発症後10年生存率は60.9%であった。TPPVが導入された年代別に解析すると、1980年代に導入された13例の10年生存率は23.1%であったが、1990年以降に導入された37例では80.6%であった。さらに2000年以降に導入された18症例に限ると10年生存率は87.1%まで改善していた。


考察:TPPV施行ALS患者の予後
平成9年度厚生省特定疾患調査事業「ALS患者等の療養環境に関する研究」班の調査では人工呼吸器を装着しない場合は3年以内に61.3%の患者が死亡しているが、呼吸器装着者では8年後でも死亡率は52.6%であった。装着者の10年生存率は約30%である。前述の国立機構11施設で行われた調査では、TPPV非施行例(85例)の生存期間は41.5±26.7ヵ月、施行例(48例)の生存期間は88.0±51.7ヵ月で、TPPV施行ALS患者導入により4年生存期間が延長していた。今回の調査は生存率も含めてKaplan-Meier法により予後を解析したもので、死亡例を対象にしたこれまでの報告との直接比較は難しい。しかし、TPPV施行ALS症例の予後は時代と共に確実に改善してきている。

考察:TPPV施行症例の予後が改善した理由
当施設でも1980年代には、TPPV導入後、早期に肺炎、すなわち人工呼吸器関連肺炎(VAP)を合併して死亡する症例も少なくなかった。長期生存例ではVAP合併の頻度が低く、繰り返しVAPを合併するTPPV施行ALS症例では長期生存が難しいことは既に報告している。今回の調査でも長期生存例ではVAPを直接死因とする症例は少数だった。近年、VAPによる死亡そのものも減少している。したがって、比較的早期にVAPにて死亡する例が減ったことが予後改善の最大の要因と考えられる。
1980年代には呼吸筋麻痺や球麻痺が進行し、呼吸器感染のコントロール不能・CO2ナルコーシスによる昏睡状態、呼吸停止といった状況に追い込まれた後に人工呼吸器を装着する症例も多く、それらの症例では呼吸器を装着直後から肺炎などの合併症を繰り返したという印象をもっている。
人工呼吸器が装着に陥るVAPによる死亡が減少した理由としては、吸痰・排痰などのケア技術、感染対策の意識や技術、人工呼吸器の性能の向上、経管栄養剤の改良、呼吸器リハビリテーションの普及などもあげられる。
しかし、症状の進行に応じ早期から非侵襲的陽圧式換気療法(NPPV)も含めた呼吸管理が開始されるようになったことがTPPV施行ALS症例の予後が改善した最大の要因と思われる。
なお、当施設で気道食道分離術が導入されたのは2005年であり、VAPを繰り返すALS症例に限ると、施行はこれまで3例のみである。今回の調査には気道食道分離術の肺炎予防効果は反映されていないと考えられる。


今後の課題
VAPを直接死因とするALS症例は減少してきているが、敗血症や腎不全、心筋梗塞、突然死などは依然として問題である。敗血症や腎不全を生じる誘因となっている麻痺性イレウス、耐糖能異常や非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡への対応が求められている。突然死の原因とされている自律神経障害の解明と対策も必要である。
TPPV施行ALS症例で高頻度に認められる内臓型肥満が心筋梗塞の危険因子となっているか否かについては解明されていない。また、進行期ALS症例ではしばしば肥満と低栄養が問題となるが、確立された栄養評価基準もなく、栄養管理面で多くの問題が残されている。
TPPV施行ALS症例の更なる予後改善のためには自律神経障害や栄養管理の分野において多くの取り組むべき課題がある。

引用:難病と在宅ケア Vo.16 No.1 2010.4 P55-57