QOLは一般的に<現状の自分と期待とのギャップ>と言えます。
これを捉えるQoL評価が必要です。
ALS疾患特異的QOLスケール(ALSAQ-40)もありますが、身体機能の影響が強く、重度麻痺などによる身体能力低下によりCeiling(頭打ち)が生じます。

SEIQoL-DWを紹介させていただきます。
その点、SEIQoL-DWは、主観的なQOLを決定する重要な5つの<キュー>(手掛かり)を患者から引き出すため、必ずしも身体能力に関係するものではありません。(個人が身体を5つのうちに挙げれば関係する)
また介入前後の効果判定もできますし、患者のニーズを知るきっかけにもなり得ます。
しかし、面接者により回答に差異が生じる可能性や、患者の振り返りにより患者を傷つける場面により得る可能性があることも十分承知しなければなりません。

下記にはSEIQoL-DWについて文献を引用し特記致します。ALSAQ-40やALSFRS-Rなどの紹介もしていましたが、記載致しません。OTジャーナル~神経難病の特集~の文献なので、気になる方・難病に携わる方は買ってみても、損はないと思います。

神経筋疾患の評価法~QOL評価を中心に~
大生定義   OTジャーナル43(12) : 1286-1291,2009

QOLスケールについて
1. QOLとは何か
人はただ生きているだけではなく、より良くいきたい、生命の質・生活の質を高めたいという希望をもつのが通常だと思われ、病気になればいっそうその気持ちはつよくなるのではないかといわれている。生命体として生きる(生命)、人間として生活する(生活)、社会人として人生を過ごす(人生)、人格や魂としての生など、何をQOLと考えるか、定義をきちんとすることは大変難しいが、QOLは医療の介入においても患者の立場に立った評価という点で、大切な指標とされてきている。
 QOLについては、一定の手続きを経ながら、家族や患者の意見を聞き、一定の枠組みを設定して標準的なスケールが作成されている。ある疾患に特化したスケールがつくられたり(疾患特異的)、SF-36のように、全般的スケールと呼ばれる、健常人にも患者にも共通して使えるスケールもある。
 QOLには、身体面、精神面、社会面等いろいろな面があるが、これまでは一般的に<患者のこうありたいという期待(expectation)と実際の状況とのギャップ>ということで捉えられてきた。ギャップが大きければQOLは低いということになる。すなわち、<疾患と治療の影響についての本人の自覚であり、身体と精神の健康、自立の程度、社会生活に関する、本人の希望と現実の乖離の反映である>、あるいはWHOの定義でも<自分の人生の状況についての認識であり、個人が生活している文化・価値体系の中、あるいは人生の目標・期待・基準・関心との関係において認識されるものである>としている。評価するものや対象者も多様であり、多くのQOLのスケールがつくられてきて、治療効果の評価や集団の比較には一定の有用性もある。臨床研究ではとりあえず、経済面やスピリチュアルな面等を除いた<健康関連QOL>が多く使用されている・ある程度健康に関連しやすいものに限定して領域を決め、それにあった評価表で評価していくことが通常行われている。多くの研究者の間でも、その項目をQOLとして評価するかは見解が異なっているが、多次元に渡る概念であることは一致しており、多面(身体・精神・社会的)なプロファイルをみるのが一般的である

2. 枠組みが設定されているものと個人別のQOLスケール
ALS疾患特異的なQOLスケールは一応あるが、本来QOLというのは、まったく個人的なもので、主観的な<QOL>の認識は個々人により、あるいは同一人でも人生いろいろな時期や病状の認知の状況により変化し得るものである。大変個人的な構成概念であり、測定にはそれらを考慮することが必要となる。使用されている多くの方法は、客観性や一般性を重視し、決まった質問表をしようしており、患者中心とはいえず、研究者が最終的に、患者のQOLを形づくる要素・要因の選択や重みづけを制限して、ある程度枠組みを作ってできている。そのため、時間的な変容や個々の差異をどう扱うかが大変大きな課題であった。たとえば難病の患者において、身体機能に重みがある健康関連QOLのスケールではスコアが低下していくのだが、患者の実感しているQOLはそうではないということが現場でよくみられていた。こうした課題に対応したのが個人別QOLであり、その一つの方法がSEIQoL(schedule for the evaluation of individual quality of life)である。ここではSEIQoL-DW(SEIQoL-direct weighating)について説明する。

3. SEIQoLとSEIQoL-DWについて
(1). SEIQoLとSEIQoL-DWの概要
SEIQoLおよびSEIQoL-DWは、半構造化された面接によって行われる。
①接者はまず、個人のQOLを決定する最も重要な5つの生活の領域(キュー)を回答者から引き出す、②さらにそれぞれの領域の満足の程度(レベル)を引き出す、③その出された5つの領域の重みづけを引き出す、ということで測定する。
ここでディスク(円盤)を利用して、面接者にそれぞれの領域の相対的な重要性を決定してもらうのがSEIQoL-DWである。判断分析という手間のかかる手法を用いずに回答自身にやってもらうものである。
さらにそれぞれの領域(キュー)の、満足度(レベル)と重みを掛け合わせ積を求め、総計することも可能である<SEIQoLインデックス=Σ(レベル×重み)>。
(2). SEIQoL-DWの特徴と留意点
ケアの介入前後で、SEIQoL-DWの面接を行った際に、キューの入れ換えが起こったり、満足度や重みづけが変化したりすることは、医療職にとって大変重要な情報である。たとえば、障害のために口頭ではなくパソコンを使用してコミュニケーションをとる患者のパソコンの扱いやすさを改善したりすると、患者がパソコンの扱いやすさに対する評価、つまり「満足度(レベル)」が変わり、SEIQoLインデックスも変化することになる。
また、長期療養施設等の患者に、定期的にSEIQoL-DWを行えば、その時々の患者のニーズの把握や介入の効果の評価もでき、患者と医療提供者のコミュニケーションツールにもなる。後藤は、難病の患者・家族を訪問した際にSEIQoL-DWを行ったところ、この半構造化面接が患者・介護者との対話を豊かにし、患者・家族のQOLを意識化させて、病気に対す新しい意味づけの材料を提供し、患者・家族のさまざまな気づきを促進したと報告している。つまりSEIQoL-DWには、面接によって自己や他者に対するコミュニケーションの過程~患者や家族への気づきや意味づけの促進~を動かすという重要な効果がある。その効果をきっかけにして生き方や物事に対する認識等が変容する可能性もある。そのインパクトは大きく、SEIQoL-DWの面接には大きな潜在能力があると思われる。
しかし一方で、患者の意識化の準備に対する状況把握やそれに対する面接者の適切な働き掛けがあってSEIQoL-DWの測定ができるので、面接者によって回答の差異が出る可能性があり、当然、面接者の<援助>があることにより、評価ではなく介入ではないかという議論も出てくる。測定は、生命の尊厳や科学性、患者の自己決定を尊重しながら行われなくてはならないが、測定自体が患者の振り返りを促進しており、介入ともいえる。そのため、患者の性格や人生観や病状によっては、自分の振り返りを迫る測定場面は傷つける場面になり得る可能性があることも十分承知しなくてはならない。


引用:OTジャーナル43(12) : 1286-1291,2009