パーキンソン病治療ガイドライン-マスターエディション-は日本神経学会の監修の元、1966年から2000年12月までの文献検索を行い、つくられました。

リハビリの<鉄板>や<定石>にあたります。

知っておいて損はないと思っています。
ここではリハビリ特に運動療法のことについてのみ紹介いたします。
リハビリテーションの最後のページ(P298)に Level 4 study が1つだけ載っており、中馬先生のオシャレさを感じさせます。宜しければ書店で本書を手に取って頂ければと思います。

ここではLevel 1-2 のみ記載しております。よかったら参考までにご覧ください。

難しいことが嫌いな方は最後にある有用性などからみて頂ければよいと思います。


パーキンソン病治療ガイドライン ―マスターエディション― 
第19章 A.運動療法    (第1版第3刷)2004.9 P281-288
監修:日本神経学会   

リハビリテーション
A.運動療法

臨床成績
a. Level Ⅰa study
De Goede et al.,2001
運動療法によりADL,歩行ストライド長では有意に効果がみられた。しかし、パーキンソン病の主要所見には、有意な差はみられなかった。パーキンソン病では、薬物療法に加えて運動療法を行うことにより日常活動に効果が見られると、結論づけられる。
b. Level Ⅰb study
Comella et al.,1994
18名のパーキンソン病(H&Y Ⅱ~Ⅲ、平均年齢66±8歳、罹患年数10±8年、薬剤の変更なし)に対して、ランダムに4週間の訓練期間と4週間の訓練のない期間のクロスオーバー試験を行い、訓練効果について検討した。評価項目は、UPDRS、そのpart1(mental)、part2(ADL)、part3(motor)、およびGeriatric Depression Scoreであった。その結果、UPDRS、そのpart2とpart3では有意に改善がみられた。中等度進行のパーキンソン病では、運動機能障害に対して運動療法は効果があるといえる。
Schenkman et al.,1998
48名のパーキンソン病(H&Y Ⅱ&Ⅲ、平均年齢71歳、薬剤について記載なし)をランダムに2群に分けて週3回の運動訓練を10週間にわたり施行した群23名と施行しない群(ケア群)23名に分けて、運動訓練の効果について検討した。評価項目は、脊椎の柔軟性(回旋角度)と上肢の機能的リーチと臥位から立位までの時間を測定した。訓練群は有意にケア群よりも脊椎の柔軟性と上肢の機能的リーチに改善がみられた。
Pacchetti et al.,2000
パーキンソン病(H&Y Ⅱ~Ⅲ、平均年齢63歳、平均罹患年数5年、薬剤の変更なし)をランダムに、合唱、発声訓練、リズム運動の活動的音楽療法を行った群(16名)とストレッチ訓練、バランス・歩行訓練の運動療法を行った群(16名)に分けて、3ヵ月間の訓練の効果について検討した。評価項目は、UPDRS、情動面評価(Happiness Measure)、QOLについて検討した。活動的音楽療法群では、有意にUPDRS part2(ADL)、part3(motor)、特に動作緩慢の項目および情動面評価、QOLについて改善がみられた。リズムに応じて身体を動かすことも含む活動的音楽療法は、パーキンソン病における運動療法の1つの手段になり得る。
Miyai et al.,2000
10名のパーキンソン病(H&Y Ⅱ-Ⅲ、平均年齢67.6歳、平均罹患年数4.2年)をランダムに体重支持してトレッドミル訓練(BWSTT)を4週間行う群と通常の運動療法(PT)を4週間行う群に分けた。訓練効果の評価としては、UPDRSと10m歩行スピードと歩数を用いた。BWSTT群では、すべての評価項目において有意に改善が認められた。BWSTTはUPDRS(ADL、運動機能)および歩行を有意に改善させた。しかし、PT群では有意には改善させなかった。
Montgomery et al.,1994
290名のパーキンソン病(平均年齢49歳、平均罹患年数6年、アンケートのためH&Yや投薬の変動について記載なし)をランダムにPRORATH群(140名)とコントロール群(150名)に分けて、このPRORATHのプログラムによる運動訓練、ADL訓練、教育指導、医学的助言などが身体機能、QOLに効果があるかについて、検討した。評価期間は6カ月間で、PRORATH群はパーキンソン病スコア(Montgomery)の減少が有意にみられた。
c. Level Ⅱa study
Palmer et al.,1986
14名のパーキンソン病(H&Y Ⅱ~Ⅳ、平均年齢65歳、薬剤の変化なし)を2群にわけ、12週間、1群はアメリカパーキンソン協会推薦のストレッチ運動を行い、もう1群は上肢空手訓練を行った。運動前後にて、歩行、振戦、握力、細かい運動の協調性による評価を行い、両群ともによく似た訓練効果が得られた。
Thaut et al.,1996
パーキンソン病(訓練期間内の薬剤の変更なし)を3群に分け、3週間の訓練効果について検討した。15名のパーキンソン病(H&Y2.6、平均年齢69歳、平均罹患年数7.2年)には自宅でのリズム音刺激での歩行訓練(EX群)を、11名のパーキンソン病(H&Y 2.5、平均年齢74歳、平均罹患年数5.4年)には、自分のリズムでの歩行訓練(SPT群)を行わせ、11名のパーキンソン病(H&Y 2.6、平均年齢71歳、平均罹患年数8.4年)には訓練なし(NT群)とした。評価内容は、歩行速度、ストライド長、ケイデンス、歩行時筋電図パターンとした。EX群ではすべての項目で訓練前と比較し有意に改善が認められた。他の群では有意な改善はみとめられなかった。
Formisano et al.,1992
16名のパーキンソン病(H&Y Ⅱ~Ⅲ、平均年齢67.1歳、平均罹患年数5.5年、薬剤は変更なし)の運動療法群と17名のパーキンソン病(H&Y Ⅱ~Ⅲ、平均年齢65.0歳、平均罹患年数5.0年、薬剤等の変更なし)の対象群において訓練効果について検討した。運動療法が1回1時間、週3回、4カ月行った。他動運動、姿勢調節訓練、平衡訓練、立位訓練、歩行訓練、手の訓練、鏡に向かっての訓練、言語訓練、呼吸訓練であった。結果として、固縮、無動、振戦には差がなかったが、NUDS(Northwestern University Disability Scale)や歩行では有意に運動療法群での改善がみられた。
Muller et al.,1997
29名のパーキンソン病を訓練群(H&Y 2.13(平均)、平均年齢62.7歳、平均罹病期間7.7年)と対象群(H&Y2.07(平均)、平均年齢61.5歳、平均罹病期間9.0年)に分けて、運動訓練による効果を検討した。運動訓練の内容としては、歩行、臥位からの立ち上がり、椅子からの立ち上がり、ベッドでの寝返り、書字で、10週間90分のセッションを週に2回行った。訓練前後の評価項目は、H&Y、UPDRS、BDI(Beck Depression Inventory)、姿勢と歩行に関する電気光学動作解析である。動作解析上、訓練に特異的な効果が認められ、UPDRS motorスコアは有意に訓練効果が認められた。

ガイドライン委員会の結論
a.有効性
運動訓練はパーキンソン病の臨床評価の改善に効果があると結論できる。訓練内容についてであるが、関節可動行く訓練、筋力増強訓練、ストレッチ訓練、バランス・歩行訓練などが報告されていたが、なかでもリズム音刺激による歩行訓練は、訓練効果をあげるとされている。また、効果の面では運動機能面の改善が最も顕著であるが、活動的音楽機能面では、情動面に効果が得られている。ただし、いずれも知的機能については明らかな効果の報告は認められていない。また、訓練頻度については週に数回を自宅にて行う方法での検討がなされてきたが、週2-3回の訓練により運動機能面は維持できると考えられた。訓練室に通わなくても、在宅での日常生活に運動訓練を取り入れることに意義があるという報告がある。さらに軽度に障害される患者においては、運動療法、作業療法、言語療法の必要性は乏しい。病気が進行すると薬物学的治療効果は完全に効果的でなくなる。この時、非薬物学的治療が使用される。運動療法だけでは、パーキンソン病の治療は完全に行えなく、長期の効果は制限されている。そのため、定期的に運動療法を行うことが勧められている。運動療法により頻回に運動機能面の改善を認める。固縮や振戦に対する運動療法の効果は少ないが、ADLやそのほかの活動の改善は認める。これらは、障害されたシステムが改善するというよりも、訓練により代償システムが働くようになると推測されている。
b.安全性
H&Y Ⅲ以上では、易転倒性のものや姿勢反射障害が出現し、自宅にて安全に運動訓練ができるかが重要であり、家庭内の環境や訓練の工夫が必要である。パーキンソン病では基本的には活動性の低下があるため、運動の過剰にはなりにくいが、疲労を訴える時にはoverworkの考慮が必要である。そのほか、特に副作用はない。
c.臨床への応用
パーキンソン病において、在宅にて運動訓練を行うことは、パーキンソン病の活動性の低下に伴う症状を軽減させる効果があると考えられる。長期生命予後の報告はない。
報告された研究はすべて1年以内であり、定期的な訓練が望ましいと記載されているが、今後長期の研究が望まれる。また、すべての研究において、H&YはstageⅡ~Ⅳで、stageⅠやVでの報告はほとんどなく、研究対象にされていない。特にH&YⅡ-Ⅲでの研究が中心である。現時点ではH&YⅠでの特別な訓練は必要ないと思われる。


引用文献 : パーキンソン病治療ガイドライン ―マスターエディション― 
 第19章 A.運動療法 (第1版第3刷)2004.9 P281-288
      監修:日本神経学会  医学書院