昨日は徒手的呼吸介助手技の効果を記載致しました。
今日は昨日と同じ論文を参考に、問題と安全性を記載致します。

問題と安全性
①人工呼吸管理中の検討が少ない(よいのかわるいのか不明)
②施設等により実施されている手技および手法が異なる
③本手技における弊害や副作用も不明

特に③について
人工呼吸器関連で59.1%。患者に関する問題の発生率は55.1%。
疼痛や不快感(21%)、不整脈(15.9%)、呼吸困難(15.9%)、血圧変動(12.5%)、低酸素血症(11.4%)、窒息(2.3%)、心停止(0.6%)、意識障害(0.6%)、上記のように重篤な合併症も報告されている。
生理学的な変化を指標とした副作用は12,800回の治療介入に対し、29件(0.22%)であったとされる。
呼吸理学療法介入に伴う何らかの副作用は有意に高い可能性がある。
また、ARDS症例にて呼吸関連肺損傷(ventilator-induced lung injury , VILI)が発生したとの報告もある。

以上のように、問題(効果を含む)と安全性については議論または発展の余地があります。

詳細は下記または引用している文献をご覧ください。


徒手的呼吸介助手技による人工呼吸関連肺損傷?
神津玲
日集中医誌 2007;14;141-143 J Jpn Soc Intensive Care Med Vol.14 No.2


呼吸介助手技の問題点と安全性
人工呼吸管理中における本手技の影響に関する検討は、本手技が多用されている割にはあまりにも少ない。この手技が有効であること(あるいはないこと)を示す根拠となる臨床成績が得られていない状況において、適切な適応基準も決められないまま、臨床に手技を適用できる、あるいは実施してもよい、(行わないよりは)実施した方が良いとする暗黙の了解的なコンセンサスがあるに過ぎず、最も効果が期待できる適応病態や臨床状態、さらには手技の危険性といった弊害に関して不明な点が多い。
さらに、専門用語および手技の定義が厳密になされていないために、実施されている手技が施設によって、あるいは理学療法士によって異なっており、かなりの混乱をきたしている。本主義は単純に胸郭を手で押すこととは根本的にことなる手技であり、胸郭外胸部圧迫法(external chest compression)やスクウィージング(squeezing)といった主義とも優劣如何を問わず、一線を画すべきものである。
呼吸介助手技の急速な広まりは、従来、軽打法や振動法などの古典的な手技が伝統的に行われているに過ぎなかった集中治療での呼吸管理の現場に、呼吸理学療法の新たな可能性をもたらす結果となり、その意義は確かに大きい。しかしその反面、科学的な裏付けが追いついていなかったために、少なからずこの手技が気道クリアランスや動脈血酸素化改善に際してあたかも万能であるような印象をもたらしてしまったことも否定できない。
本手技の安全性についてはどうであろうか。集中治療領域での対象者は不安定な呼吸および全身状態にあるため、本手技によって思わぬストレスを加える可能性は否定できない。代謝および循環器動態に及ぼす影響や、PEEPによって内部から肺胞を広げる半面、外部から胸壁を圧迫することの効果と弊害など、不明な点は多い。先の全国調査によると、人工呼吸管理下における呼吸理学療法の実施中に生じた何らかのトラブルの発生率(施設数)は、人工呼吸器関連で59.1%であった。一方、対象患者に関する問題の発生率は55.1%であり、内訳として疼痛や不快感(21%)、不整脈(15.9%)、呼吸困難(15.9%)、血圧変動(12.5%)、低酸素血症(11.4%)などに加えて、窒息(2.3%)、心停止(0.6%)、意識障害(0.6%)など、重篤な合併症も報告されていた。最近のオーストラリアにおける報告では、生理学的な変化を指標とした副作用は12,800回の治療介入に対し、29件(0.22%)であったとされる。一概に比較はできないが、本邦での呼吸理学療法介入に伴う何らかの副作用は有意に高い可能性がある。胸郭に対して徒手的に操作を加える手技が多いことがその一因となっている可能性も否定できない。
藤田らは、人工呼吸管理中のacute respiratory distress syndrome (ARDS) 症例に対して、呼吸理学療法として腹臥位管理とあわせて用手的呼吸介助法を施行したところ、胸部X線写真にて気腫性変化の急激な増悪を認め、その後、全身状態の悪化によって永眠された症例を報告している。藤田らは気腫性変化の悪化を人工呼吸関連肺損傷(ventilator-induced lung injury , VILI)と解釈し、呼吸介助手技を推奨する(しない)ことは触れられていない。しかし、本手技による呼吸理学療法そのものの危険性に加えて、明らかに有効な手段がない場合に際して、可能性のあるものを選択・適応してみるということで、かえって悪循環を及ぼしかねないといった危険性を喚起したという点で本論文の意義は大きい。
藤田らは、呼吸介助手技の併用によって気道分泌物の排出促進や動脈血酸素化能改善といった一時的な結果を認めながらも、その適用により深呼吸がもたらされ肺気量が増大し、肺胞過伸展が生じた結果、VILIを助長したと推測している。
呼吸介助手技によって一回換気量は増加するが、これは機能的残気量と予備呼気量の減少による呼気量の増大が主要な作用機序である。人工呼吸管理下で肺気量をどの程度増大される(あるいはされない)のか、さらには呼吸介助手技によって肺胞過伸展が生じるとする証拠およびそのメカニズムについて、藤田らの論文では明らかにされておらず、今後の検討が必要である。

引用:日集中医誌 2007;14;141-143 J Jpn Soc Intensive Care Med Vol.14 No.2