ALS患者のためのスイッチ導入です。
スイッチはなぜ使うのか。Nscallとしての役割と、意思伝達装置等の福祉機器の操作を行うために利用します。支援は先を見越しておこないましょう。

スイッチには多々あり、基本的に段階に支援します。ボタン型→接触・電圧式→筋電式の順序です。

身体障害者福祉法の補装具支援制度により助成があります。詳細は事前に市区町村の障害福祉課へ問い合わせる必要があります。

TPPV後のスイッチ導入は患者のQOLに直結しうる、難病支援または難病リハビリテーションの一つの武器となります。

今回の文献では、写真も多く症例も用い説明しているため、イメージが容易であり、このような対応を行っていない方でもわかりやすいのではないかと思います。

興味のある方は下記の引用を読んでいただき、さらにOTジャーナルを探して頂ければと思います。


ALS患者のためのスイッチの適合と導入
南雲浩隆   OTジャーナル 43(12) : 1298-1305,2009

はじめに
ALSに疾患自体は少ないが、進行が早い場合には迅速な対応が必要となる。ケースとして担当した場合、入力・操作スイッチ(以下スイッチ)の適合・導入が重要である。なぜなら、日常生活そのものやQOLを支えるコミュニケーション法の代替手段としての意思伝達装置、福祉機器使用に大きく関連するからである。
この点を踏まえて、疾患の特徴とスイッチ導入目的、在宅対応が可能なALS患者に適合・導入し得る市販スイッチとその基本的な設定について簡潔に整理した。

疾患の特徴、スイッチの導入目的
1.ALSにおける最近の知見
ALS患者はケースにより進行のスピードが異なる。
筆者らの病院での調査では、TLS(totally locked-in state : 完全な閉じ込め状態のことで、外眼筋群の麻痺も加えた全ての随意運動筋が麻痺する状態)が、気管切開下陽圧換気(TPPV)の人工呼吸器装着5年以上の療養者の18.2%でみられる。また全国調査ではTPPVの人工呼吸器使用者の13%がTLSであり、TLSの70%が6ヵ月以内に四肢、橋・延髄(球)、呼吸、外眼運動系の4つの随意運動系のうち2つ以上が麻痺した複数同時麻痺型である。そして、さらにその70%がTPPV開始後5年以内にTLSとなり、最後まで残存した随意運動系は、90%が外眼運動系となっている。したがって、ALS発症後6ヵ月以内に2つ以上の随意運動系の障害が認められる場合には、その進行が一般的には早いことに留意する必要がある。最終的な残存機能は、左右方向への眼球運動、または上瞼の挙上であることが多い。
2.スイッチの導入目的
スイッチの導入目的は、大きく分類すると2つある。1つ目は、<呼び出しチャイム>によって周囲の家族等に用件があることを知らせる呼び出しである。気管切開してTPPVを装着すると発声が困難となる場合が多いため、まずは周囲の者を呼び出し、その後に透明文字盤や福祉機器等を介してコミュニケーションを行う。したがって、呼び出し用のスイッチは思うように体を動かすことのできない療養者にとって最も大事な命綱となる。
もう1つは、パソコン操作支援ソフトや専用機器として開発されたコミュニケーション関連の福祉機器操作を行うことである。スイッチは入力が的確にタイミング良く使用できることは、重度障害用意思伝達装置、携帯用会話補助装置、環境制御装置等を活用するための必要条件であり、入力スイッチ使用の可否が生活自体に大きな影響を及ぼす。福祉機器に対する使用意思が乏しいケースに対しては、具体例を示しながらわかりやすく説明を行い、福祉機器を活用する生活環境を提案する対応も重要となってくる。
携帯用会話補助装置、重度障害者用意思伝達装置やパソコン操作支援ソフト等のコミュニケーション支援用具の導入時の適合評価には、①本人のニーズと操作能力、②家族の支援能力、③地域資源と介護スタッフの能力の3要素を総合的に評価する必要がある。特に本人が福祉機器を使用するにあたり、読書、メール、音楽鑑賞、ショッピング、インターネット閲覧、ゲーム等、具体的にどのような活動を実現したいのかを明確にすることが大切である。

市販7種類のスイッチによる段階的活用
スイッチを使用するためには、①使用する身体部位、②スイッチの種類、③スイッチの固定の3つの要素が関連する。スイッチ選定の際、身体部位の部分的な動作が確認できれば、市販7種類のスイッチによりすべて対応することができる。身体機能の低下に伴ってスイッチの種類は、<押しボタン式スイッチ(3種)>:<接点式入力装置(スイッチ)>→<接触・圧電式スイッチ(3種)>:<帯電式・圧電素子式入力装置(スイッチ)>→<筋電式スイッチ(1種)>:<筋電式入力装置(スイッチ)>と変化するのが一般的な経過である。押しボタン式スイッチ<接点式入力装置(スイッチ)>と変化するのが一般的な経過である。3種類の押しボタン式スイッチ<接点式入力装置(スイッチ)>には作動圧に差があり、ライトクリックスイッチでは作動感は微細、ジェリービーンスイッチでは軽い、スペックスイッチではやや固いと作動感にも差がでる。これらスイッチにより、最低でもチャイムによる呼び出しが可能となる。使用する身体部位は、まずは<手指>、続いて<頭部>、または<下肢>を使用することが多い。しかし、頭頚部の場合は気管カニューレが痛んだり、顔面の皮膚は敏感であるためその活用を敬遠する場合もある。したがって、スイッチ操作部位を頭頚部の回旋か下肢で迷った場合には、呼び出しチャイムの使用目的であれば躊躇なく下肢を選択できるが、<伝の心>等の意思伝達装置の福祉機器操作目的では、スイッチ使用時のタイミング評価が必要であり、つまり、タイミングのより正確な入力が下肢で可能であれば下肢を使用し、微細なタイミングが取れない場合には頭頚部の回旋を活用する。そして、複数部位による操作が可能な場合、どの部位を使用するかは本人に決めてもらうのが定石である。最後まで残存する部位は、眼球の左右水平方向の運動(EOGセンサー)、または上眼瞼を持ち上げる動き(ピンタッチスイッチ)のいずれかであることが多い。

その他
1.基本的なコミュニケーション手段の確保
発話困難の状況で、筆談等の代替手段が活用できない場合、はじめに透明文字盤を準備する。いつでもどこでもすぐに使用できるのが特徴で、活用度が高く最も重要である。
2.社会福祉制度の活用
ADL関連用具や福祉機器は、介護保険や自立支援法、身体障害者福祉法等の助成制度が活用できる。これらの公的制度の活用により、ほぼ1割の自己負担金で給付が受けられる。情報通信支援用具(日常生活用具)は、発話が可能で<重度障害者用意思伝達装置(補装具)>の給付が利用できない場合に活用できる制度である。しかし、1度制度を使用すると再利用までの期間が6年なので、必要なものをまとめて給付申請を行う。限度額が10万円で、パソコン本体を除くソフトウェアや周辺機器の給付が受けられる。
<重度障害者用意思伝達装置>[ソフトウェアが組み込まれた専用機器(「伝の心」等)]は身体障害者福祉法の補装具支援制度による申請を行う。また、重度障害者用意思伝達装置の申請は、装置本体以外に「入力スイッチ」、「入力スイッチ固定台(入力装置固定具)」、「呼び出しチャイム(呼び鈴)」、「スイッチ入力制御機器(呼び鈴分岐装置)」、「パソコンスタンド(固定台)」についても給付限度額が設定されていて、基準額範囲内であれば1割負担で給付が受けられるので、療養者の生活環境に合わせて申請を行う。また機能低下によるスイッチ交換は、「修理基準」対応の申請によって給付を受ける。制度の詳細、助成内容や自己負担額については、各自治体が独自に判断し決定しているため、詳細は事前に市区町村の障害福祉課へ問い合わせる必要がある。
3.地域作業療法における訪問リハの展開
地域療養生活では、介護保険・医療保険の制度下で他職種スタッフが関わるので、連携をとりながら十分な情報交換を行い、対応を進めることが必要である。ALS疾患の患者は少ないため、活動地域でIT機器関連についての造詣が深く、技術的知識をもつOTがいれば、すぐに相談できるよう、研修会等に参加し、ALS対応技術について豊富なOT、PT、保険師、看護師、業者との人的ネットワーク環境を整えておくと良い。またコミュニケーション支援機器の導入時に、家族の支援が期待できない場合には、各都道府県に設置されている<障害者ITサポートセンター>や市区町村社会福祉協議会のパソコンボランティア等の社会的資源の活用を行う。

引用 : OTジャーナル 43(12) : 1298-1305,2009