Kennedy Alter Sung症候群についてしっていますか?
X染色体劣性遺伝で男子に発症し、X染色体上の異常があり、遺伝子診断が可能です。
運動ニューロン疾患のひとつの病型ですが、症状はALSと比してゆっくりとした下位運動ニューロン障害が特徴です。

今回はKennedy-Alter-Sung 症候群に対する筋力トレーニングの有効性を検討した文献を紹介いたします。

対象は遺伝子診断により確定した男性7名で, 筋力トレーニングと基本動作訓練を指導しそれらを自主訓練として施行してもらった。 ADL評価と自主訓練の施行頻度の評価を行い, 徒手筋力テストと等運動性筋収縮測定機器による下肢筋力測定を経時的に行った。徒手筋力テストによる筋力は訓練開始後早期に改善し, 自主訓練群のより軽症例でADLの改善がみられたが, 非自主訓練では筋力は増悪した症例もあった。 本疾患に対するリハビリテーションは, 自主訓練を行えば訓練後早期に筋力が改善し, 軽症例に対してはより効果的である。

以上です。昨日は台風の影響でネットが通じず更新できなかったのですが、今後ともよろしくお願い致します。次回は考察を記載致します。
筋萎縮を主体とする運動ニューロン疾患に対する筋トレの文献は珍しくみておいて損はないと思います。
詳細は下記または、本文献を参照してください。


Kennedy-Alter・Sung 症 候 群 に 対 す る 筋 力 ト レ ー ニ ン グ

嘉手川淳ら  リハビリテーション医学2002; 39: 451-456


はじめに
Kennedy-Alter-Sung 症候群(以下KAS)は球脊髄性筋萎縮症ともいわれ, 伴性劣性の遺伝形式を示す運動ニューロン疾患の一病型である. 発症は, 20~40歳代が多く, 孤発性の運動ニューロン疾患の代表である筋萎縮性側索硬化症とは異なり, 非常に緩徐な進行を示す. KASは下位運動ニューロンの障害を主徴とする疾患であるが, 性腺機能障害も随伴していることが知られていた. 1991年本症において androgen受容体遺伝子の異常が同定され, 以前より知られていた性腺機能障害の存在と併せてKASの病因との関係が注目されている.今回, 我々は本症7例に対して最長1年以上にわたりリハビリテーション(以下, リハ)を施行観察し,筋力や日常生活動作に改善を認めたので報告する.

対象と方法
対象は1996年4月~1997年5月の間に大阪大学医学部附属病院理学療法部を受診し, 12週間以上継続して週1回の外来訓練を行うことが可能であったKAS患者7名(全員男性). KASの確定診断は臨床徴候およびインフォームド・コンセントを得た後で行った遺伝子診断により得られた.訓練開始前の日常生活動作(以下ADL)について、起居動作は全例で自立しており, 歩行および階段昇降については, 個人差が認められた.リハは, 理学療法として筋力トレーニングと基本動作訓練を施行した. 筋力トレーニングのメニューは,ゴムチューブを使用した股関節屈伸内外転運動と膝関節屈伸運動, 立位での踵挙げ, 仰臥位で殿部を持ち上げるブリッジ運動ならびにスクワットで, それぞれを一日10回行ってもらった. さらに基本動作訓練として個々の重症度に応じて, 散歩(平地歩行15分, 症例A), エアロバイク(週1回30ワット10分, 症例
D), 自転車漕ぎ(通勤に使用し往復30分, 症例E)を追加した. 上記の筋力トレーニングメニュー通りの自主訓練方法を指導し, それらを上記の基本動作訓練とともに自主訓練として毎日施行するように促した.7症例中2症例は週1回の外来訓練は行ったが, 自主訓練を全くせず, それ以外の全員が筋力トレーニングまたは基本動作訓練をほぼ毎日行っていたので, 前者を自主訓練群, 後者を非自主訓練群とした. 自主訓練の内容を筋力トレーニングと基本動作訓練に分け行った.訓練効果判定には, ADL評価(Barthel index4)),両下肢の徒手筋力テスト(以下MMT)と等運動性筋収縮測定機器による大腿四頭筋の筋力測定を用いた. 下肢MMTは Kilmer による改良MRCスケール5)にて行ったが, +や-の中間値は0.33刻みとして数値化した. 即ち5-は4.67, 3+は3.33とした.測定は同一人の理学療法士が行い, 測定部位は両側の股関節(伸展, 屈曲, 外転), 膝関節(伸展, 屈曲),足関節(伸展, 屈曲)で, 大殿筋, 腸腰筋, 中殿筋,大腿四頭筋, 大腿屈筋, 前脛骨筋, 腓腹ヒラメ筋として, 筋力の総平均も算出した. 大腿四頭筋の最大筋力は等運動性筋収縮測定器(CYBEX II+)を用いて600/secの角速度で筋トルクを測定し, その値を体重で除した値を体重指示指数とし6), 両側の平均値を算出した.初期評価時を開始時, 最終評価時を終了時とした.統計処理には Macintosh 用 Stat View 日本版4. 5を用いた. 2群間の平均値の検定には, 対応のあるt検定を用い, 有意水準5%以内の場合に有意差ありと判断した.
結果
1. 患者背景および訓練内容患者群は, 5名が自主訓練群(平均年齢53.0±7.52歳, 平均罹病期間22.0±9.11年, 平均外来観察期間39.4±21.6週)に, 2名が非自主訓練群(年齢34歳および41歳, 罹病期間5年および4年, 外来観察期間47週および24週)に分類された.
2. MMTによる筋力の推移
全患者におけるMMTによる総平均筋力は終了時で有意に改善した. (p<0.03)終了時の改善は, 自主訓練群でより有意であり(p<0.01), 非自主訓練群の2名のうち症例Gでは改善し, 症例Fでは悪化した. 筋力の改善は全患者,自主訓練群ともに, すでに5週後で有意に改善し, なおかつ5週後と終了時に有意差はなかった.すなわち訓練開始後早期に改善し, その後は変化しなかった. 自主訓練群において, 部位別の筋力は腸腰筋, 中殿筋で5週後と終了時ともに有意に改善し, 大殿筋では終了時のみ有意に改善した. 一方大腿四頭筋その他では有意な改善はなかった. すなわち自主訓練群の近位筋の早期の改善が明らかであった.
3. 筋力とADL,
MMTによる総平均筋力とADLの変化を時系列で表したが, ADLでも明らかな改善が見られ, 階段の手摺が不要になったり, 歩行の自立などが, 自主訓練群で認められた.部位別では自主訓練群において筋力の改善が良かった腸腰筋と改善の乏しかつた大腿四頭筋の変化も時系列で示した.非自主訓練群のうち症例Fは, 7週目以降転倒しやすくなり, 20週目以降はT杖からロフストランド杖へ変更となった. その他の症例ではADLの明らかな改善や悪化を認めなかった.
4. 体重支持指数の推移
CYBEX II+による筋力から得られた体重支持指数を時系列でグラフに示したが, 有意な変化をほとんど示していない. これはMMTによる大腿四頭筋筋力の結果と合致していた.

引用:リハビリテーション医学2002; 39: 451-456