昨日の<慢性期の呼吸リハ>に続いて<急性期の呼吸リハ>を記載致します。

急性期においてはポジショニング・排痰・離床、回復期に近くなるとコンディショニング・離床とADL訓練・運動療法を組み合わせるリハビリを展開していきます。
この考えは難病のリハビリでも同様かと僕は考えています。

患者の状態を把握し、合併症を予防していくのが第一の原則かと思います。
難病の場合はADLの改善は難しいかと思いますが、ADL維持の援助する活動を増やしていけるのではないでしょうか。

難病の呼吸リハの発展は下記の様な考えを基に、新たに展開してしていくべきです。
まだ発展途上なのですから。


呼吸器科医の立場からみた呼吸リハビリテーション  Jpn Rehabil Med 2009 ; 46 : 565-571
安藤守秀

急性期の呼吸リハ
種々のガイドラインにおいても急性期の呼吸リハについてはほとんど触れられていない。急性期の呼吸リハの効果については近年Systematic Reviewが出されているが明らかなevidenceを示すことに成功していない。特に胸腹部術後の肺理学療法のルーチンな実施については検討の結果が多くnegativeである。しかし急性期リハそのものを否定するものではなく、対象・目的をきちんと設定した検討においては既に急性期呼吸リハについて効果を証明する結果が出つつある。
1.2つの急性期呼吸リハ
経験的に急性期呼吸リハの実施される状況は2つの異なる状況が存在する。1つは集中治療室(ICU)における腸急性期の呼吸リハで、もう1つは一般病棟における急性期から回復期にかけてのリハである。この2つには重なり合う部分もあるが、対象とする疾患、病態、適応される手技、目的とされるアウトカムが異なっておりわけて論じる。
2.ICUにおける超急性期呼吸リハ
1)対象とする疾患、病態
ICUに入室した患者全員にルーチンに理学療法介入を行うことを支持するエビデンスが存在しない。一定の選別を行う必要があり、明確な患者選択基準はまだ確立されていない。経験的には原疾患は外科術後、急性疾患罹患早期、外傷重症早期、慢性疾患急性増悪早期など幅広く適応があり、挿管人工呼吸管理をされているか、それに準ずる(NPPVや高濃度酸素療法など)呼吸管理を要している患者、あるいは挿管人工呼吸管理のリスクのある患者が適応となると考えられる。
2)実施の目的
急性期の呼吸管理を合併症なく完遂し、良好な経過で患者をICUから退室させることである。そのために呼吸管理に関連した合併症(無気肺、荷重肺障害、人工呼吸器関連肺炎(VAP)など)および臥床に伴う合併症の予防と早期解除、呼吸管理に対する積極的なサポートを目標とする。
3)実施の形態
経験的には回数を決めた定時の介入では効果を上げるのは不十分。専任のPTを常駐させ、休日夜間も含め必要に応じ頻回にPT介入を行うべきである。またリハには可及的速やかに開始する必要があり、そのためのオーだリングシステム構築が必要である。
4)用いられる手技と効果
①ポジショニング、②排痰、③離床訓練(early mobilization)3つにほぼ集約させる。
①ポジショニングにより体位を積極的に管理し換気-血流比の改善および肺容量(FRC)の増加によって酸素化を改善すること、換気仕事量および心仕事量を減少させること、線毛輸送系の効果を増強することなどを目的とする。ポジショニングの効果については、挿管人工呼吸管理中の急性呼吸促迫症候群(ARDS)患者における腹部療法による酸素化の改善において科学的根拠が示されているほか、VAPの防止効果についてはmeta-analysisが報告されている。
②排痰手技には、体位ドレナージに徒手的介助を組み合わせた手技のほか、マニュアルハイパーインフレーション、様々な排痰補助具を用いた方法、強制呼出、咳嗽、喀出の介助、気管内吸引などが含まれる。排痰手技の効果については十分なevidenceがないが、ポジショニングと組み合わせた排痰手技は無気肺の早期解除に有効であると一般に考えられている。
③Early mobilizationは肺胞換気を促し、換気・血流比を改善し、体液分布を正常化し、廃用による合併症を防止し、長期的には心循環系のfitnessを改善することによって患者の自立性を高める効果が期待されている。SchweickertらはICUにおけるEarly mobilizationが退院時のADL自立回復の比率を高め、ICU在室日数を減少させ、せん妄の期間を短縮し、人工呼吸期間を短縮することをRCTにより示した。
5)ICUにおける腸急性期呼吸リハの効果
これらの手技の組み合わせによる効果のうち、①実施後数時間にわたって肺コンプライアンスおよび酸素化を改善すること、②無気肺からの回復を促進すること、の2点については疑いの余地は少ない。しかしそれらが臨床上のアウトカムにどのように結びつくかについてはまだ明らかにされていない。現時点では急性期呼吸リハが人工呼吸期間やICU滞在日数、入院日数を減少させる、あるいは予後を改善させるという根拠はない。NtoumenopouliosらはICUにて経口挿管管理された患者についてRCTにて、急性期の呼吸リハがVAPの発生を有意に抑制することを示した。VAPは長期に挿管人工呼吸管理された患者に高頻度に生じる重篤で致死率の高い合併症であり、ICU滞在日数を延長させ、医療コストを著しく増大させる。またこれまでに証明されているVAP防止効果のある手技(ギャッジアップ、口腔ケア、胃管挿入、吸引手技の管理など)と比較しNtoumenopouliosらの示したVAP抑制効果が十分に大きいことから、この面における呼吸リハの効果は重要であると考えられる。

3.一般病棟における急性期から回復期にかけて
1)対象
主に慢性期疾患の急性増悪期、急性呼吸器疾患の急性期から回復期までを対象とするが、明確な適応基準は確立されていない。また人工呼吸器からの離脱が困難となっている長期人工呼吸管理下の患者についても適応となる。
2)実施の目的
目的は退院時のADLの改善、長期人工呼吸管理からの離脱促進、退院後の予後の改善。そのために安静臥床に伴う合併症の予防とADLの再獲得、運動耐容能の改善を目的にする。
3)用いられる手技と効果
①コンディショニング、②離床とADL訓練、③運動療法の3つに集約。教育指導及び在宅移行にむけての社会心理的サポートも重要。
急性増悪からのmobilizationは離床に要する期間と人工呼吸期間を短縮させ、退院時のADLを改善させる。長期人工呼吸患者の場合も積極的なmobilizationは運動耐容能およびADLの向上、離脱率の改善などが示されている。歩行練習などの運動療法により6MD、呼吸困難感、運動耐容能などを有意に改善したとの報告もある。
4)急性期から回復期における呼吸リハの効果
COPDでは運動耐容能と健康関連QOLを有意に改善し、退院後の再入院と死亡リスクを減少させることが示されている。BTS/ACPRCの呼吸理学療法ガイドラインではCOPD急性増悪直後からの呼吸リハにグレードBno推奨レベルが与えられている。COPD以外はまだ確立されていない。


引用:pn Rehabil Med 2009 ; 46 : 565-571