病院とは死にゆく人を見送る所であり、医師はその最後の瞬間に立ち会うお仕事でもあります。

入院クランケが亡くなった際、医師がいわゆる『死亡確認』というのを行ないます。
テレビドラマ等で観たことがあると思いますし、実際に経験されたことがある方もいらっしゃるかと思います。

死亡確認の手順は…
睫毛反射・対光反射(直接反射、間接反射)の消失、胸部聴診(心音・呼吸音の確認)、橈骨動脈・頸動脈の触診をおこない、心電図モニターで脈拍がゼロで平坦であるのを確認し、家族に向かって死亡宣告を行ないます。
これら全てを終えた時刻を腕時計で確認し
『◯時◯分、ご臨終です』と告げるのです。


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人が亡くなった時刻というのは全ての生命機能が停止した時刻ではなく、医師が宣告した時刻なのです。なので実際に亡くなった時刻より遅くなります。

以前にこの死亡宣告の時に大失敗をしてしまったことがあります。
全ての確認を終えて、ご臨終を伝えようとした時…

ない!
腕時計がない!
死亡時刻がわからない💦
その日、私は腕時計をはめてくるのを忘れていたのです。

心電図モニターを見れば時刻はわかるのですが神聖な儀式ですのでそういう訳もいかず。

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かなりテンパッてしまった私…
横にいたナースの腕を掴んで、彼がはめている腕時計を見て死亡時刻の宣告をしたことがあります。
申し訳なかったですm(._.)m

最近の若いドクターの中にはスマホの時計を見て死亡宣告をする人もいるみたいですが、私はなんか嫌ですね。
時代の流れかもしれませんが。


それから最近腹が立ったエピソードを一つ。
今時の…と言ってしまえばそれまでかもしれませんが
先日あるクランケを看取った時のこと。
長患いをし覚悟が出来ていたようで、死亡宣告の後ご家族は泣くご様子もなく、淡々と受け止められました。
そこまではいいのですが…
クランケの御子息がいきなりスマホを取り出し、亡くなったお父様の死に顔をパシャパシャと撮り始めたのです。

ええ?
そんなことする?

ま、いいんでしょうけど…

いや、なんか納得いかなくて
私、思わず声を荒げそうになりましたがぐっと抑え

『この後ナースがお父様をキレイにしますのでそれまでは静かにお待ちください。他のクランケもいますので写真はご遠慮ください』と言いました。


余談ですが

全ての死亡確認が終わってご臨終を告げた後心電図モニターがちょっとだけ動き出すことがあります。
『まだ死んでいないんじゃないの?』って聞かれることがありますが、残念ながら蘇生した訳ではありません。

心臓には洞結節という部位があり、ここから一定のリズムで電気刺激が発生し、それが心臓の部屋に伝えられて電気的な興奮と筋肉の収縮を生じます。

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心電図の仕組みとしては、この電気的変化を体表面においた電極を介して検出し、図形として記録するのですが、心臓が止まってからでも心臓の電気的刺激を感知して波形として表示することがあります。
でもそれは単に電気的な反応でしかなく、心臓が効果的に動いているという波形ではないのです。

あるいは亡くなったクランケにご遺族がすがりついて身体を揺すると波形が出てくることもあります。


死を受容することは本当に難しいことだと思います。
死亡宣告をするというお仕事…まだまだ慣れませんね。