「人の一生は重きを負うて遠き道を行くがごとし。急ぐべからず。」と徳川家康は晩年に言葉を残しているが、入所者の居室移動に関わる度にその言葉が脳裏を横切る。
施設内の移動に関するエピソードを前回から続いてもう少し。
居室変更が決まってから、所長を通じて居室移動の旨を入所者に伝えるのだが、それがまた一筋縄では行かない。人によっては「動きたくない」と転倒した直後も言ってたなあと拒否する人もいるからだ。理由としては、慣れた環境が変化する事がイヤっていう事と弱い人が多い棟へ移動させられる程、自分は落ちぶれていないという「意地」もある。一度、拒否がひどくて、移動を断念した人が、その直後に転倒が連続して、結局、移動したって事がある。
「うっかりしてただけ。私はなんともないんだ」と転倒して立てないままそんな事を言ってる姿がなんか悲しかった。
移動の旨を告げて、更に「えっ!?」と言われそうだが、その家族にも報告をする。連絡せずに移動をして「親がボケたって事ですか?」とクレームが来た事があるからだ。
そんな手順を踏んで引越しとなるが、それが一筋縄では行かない。そこの居室の荷物整理が待っている。その量がまたハンパない。
映画「ラビリンス」で主人公の少女が、そこの怪物に色んな荷物を背負わされて、身動き取れなくなる場面があったっと思うが、人生が長いと、それだけ荷物を背負い込んじゃうことなのかなあと、
片付けをやる度に思う。
とにかく「勿体ない」「いつかどこかで使う」ていう感覚と必要、不必要の判断がめんどくさくなる事が、物を増やす要因となるのかなあと、荷物整理をしながら、いつも考えてしまう。
こうして職員の見えざる苦労の元、入所者の居室移動は完了する。
入所者の移動は、何も居室間だけに限った物でなく、他の意味の移動もある。
次回は其の辺の話を