STOCKHOLM 1993 / DEF LEPPARD

アルバム「ヒステリア」(1987年)の空前の成功により、全世界を制覇したデフ・レパード。しかしながら、ツアー後にスティーヴ・クラークが亡くなるという、誰にとっても衝撃的な展開が待ち受けていた。

 

スティーヴはアルコールの問題を抱えていたとされるが、世界的ヒットを飛ばし、過密なツアーで数万人の前でパフォーマンスを披露する生活は、一般人には想像もできない狂気と隣り合わせの日々に違いない。それを緩和する手段がアルコールだったと考えれば、何ともやるせない。

 

よって次なるアルバム「アドレナライズ」(1992年)は、ジョー・エリオット(Vo)、フィル・コリン(g)、リック・サヴェージ(b)、リック・アレン(ds)によって制作された。歌詞カードなどのグループ・ショットが4人なのはそのためだ。

 

ツアーのタイミングで、ヴィヴィアン・キャンベル(g)が加入。アルバムで言うとヴィヴィアンは「スラング」(1996年)から参加しているが、厳密に言うと「アドレナライズ」ツアーからバンドに加わった。

 

本品「STOCKHOLM 1993」は、新たな編成で再出発を切ったツアーより、1993年4月30日、スウェーデンのストックホルム公演をオーディエンス録音したコレクターズ盤。Shades製の2枚組CD-Rだ。

 

ライヴは「アドレナライズ」の1曲目でもある「レッツ・ゲット・ロックド」で始まる。当時の最新作からの楽曲をオープニングに据えている。メーカーが「まるでサウンドボード」を謳っているように、バンド演奏が芯のある音として収録されている。

 

それでも全体を聴けばアリーナ特有の残響音が感じられたり、観客の声が入ったりと、オーディエンス録音であると再認識する。確かにサウンドボード級のオーディエンス録音と言っても差し支えない。

 

動画サイトで検索すると、同日のライヴを客席から撮影した映像(90年代に一般的だったテープに記録するビデオカメラを持ち込んで撮影したと思われる)が出てくるが、そこから音を抽出したCDではない。

 

先ほどの「レッツ・ゲット・ロックド」は以降のライヴでも頻繁に演奏されるが、「ティア・イット・ダウン」「ホワイト・ライトニング」「サム・ワン・ソー・バッド」「トゥナイト」といった楽曲が聴けるのは、アルバム発表後のツアーだからこそ。

 

メニュー全般を見れば「ウィメン」「ヒステリア」「アニマル」「ゴッズ・オブ・ウォー」「ロケット」「アーマゲドン」「ラヴ・バイツ」「シュガー・オン・ミー」と、アルバム「ヒステリア」からの楽曲も多い。

 

ヒット作である事や、サウンド面、機材の面で共通する部分が多いため「ヒステリア」と「アドレナライズ」からの楽曲を中心とした選曲になったと考察する。初期3枚のアルバムと「ヒステリア」以降では、リック・アレンのドラム・セットが変わった分、サウンドにも変化があったからだ。

 

DISC1にはギタリスト各人のソロ・タイムがあり、フィルのギター・ソロから「ホワイト・ライトニング」、ヴィヴィアンのギター・ソロから「ゴッズ・オブ・ウォー」に繋がる段取りに。

 

DISC2にはアコースティック・セットも。トラック2の「アコースティック・ジャム」を経て、トラック3でデヴィッド・ボウイの「ジギー・スターダスト」を演奏している。「Dedicated to Mick Ronson」と追記されている点に注目したい。

 

本公演が1993年4月30日で、ミック・ロンソンは前日の29日に亡くなっている。デフ・レパードのメンバーが、世代的にミックのギターや楽曲を聴いて育ったことは間違いなく、追悼の意を表した演目だろう。

 

ライヴ終盤は「ロック・オブ・エイジズ」「ラヴ・バイツ」ときて、ラストは「シュガー・オン・ミー」。アリーナ・ロックの代名詞とでも言うべき迫力がある。

 

音源のみを収録したCDでも充分に聴き応えがあるが、前回の「ヒステリア」ツアーと同じく、本ツアーも大規模なステージ・セットを飾って行われた。映像と合わせて見ることで、ツアーの全貌が明らかになるはず。