RAINBOW 1973 / DEEP PURPLE

ディープ・パープルとレインボーというワードが並ぶので混乱を招きそうであるが、本品「RAINBOW 1973」はディープ・パープルがロンドンの名門レインボー・シアターで行ったライヴを収録したコレクターズ盤である。収録日は1973年2月18日。

 

1973年と言えば、アルバム「紫の肖像」を発表した年で、御承知のように第2期ディープ・パープルの終幕となった(以降の再結成を覗く)ツアーだ。当時の編成は、イアン・ギラン(Vo)、リッチー・ブラックモア(g)、ロジャー・グローヴァー(b)、ジョン・ロード(Key)、イアン・ペイス(ds)。

 

リッチーとギランの人間関係の亀裂はアルバム制作時から深刻化していたものの、契約の問題でギランは、そこから1年ぐらいはツアーを続けているので何とも凄い話だ。ただし、コリン・ハートの著書「冷酷組織の真実」を読むと、ギランは他のメンバーと別行動を取っていたと記されている。

 

本品が収録された2月18日のライヴは、イギリス公演初日。同日の音源は昔から幾つかのタイトルで出回っているが、本品は「即発音源を上回るオーディエンス・マスターからダイレクトにCD化」との宣伝文句が謳われている。

 

バンドを取り巻く状況もあってかアルバム「紫の肖像」は、「マシン・ヘッド」(1972年)や「イン・ロック」(1970年)と比較すれば影の薄い作品の印象は否めない。また、収録曲も演奏陣の火花散るプレイは後退している。

 

それでもライヴは依然として、メンバーの技術と個性が激突するスリリングなプレイを展開していたと判る。本公演は「ハイウェイ・スター」から開始されるが、「ライヴ・イン・ジャパン」(1972年)と同様、叩きつけるようなエネルギーがここにも宿っている。

 

録音状態について。「ハイウェイ・スター」の開始時は、全体的にオーディエンス録音らしい音質と思うが、ロードのキーボード・ソロ、リッチーのギター・ソロになると、音の鮮明さが確認できる。特にリッチーのソロは、フレーズの1音1音が鮮明に録音されている。

 

「ライヴ・イン・ジャパン」の大ヒットがあり、バンドも演奏すべき代表曲を意識したのか「ハイウェイ・スター」の次は「スモーク・オン・ザ・ウォーター」、「レイジー」、ペイスのドラム・ソロから「ミュール」、「スペース・トラッキン」と「ライヴ・イン・ジャパン」収録曲を多くプレイ。

 

先ほど述べた、リッチーのギター1音1音が鮮明の話と同じく、「ミュール」ではペイスのドラムがハイハット、スネア、タム、フロア・タム、シンバル、そしてバスドラとパーツ単位で聴き取り易いサウンドだ。

 

「スモーク・オン・ザ・ウォーター」の前にはリッチーが即興演奏を取り入れたり、表記されていないが「レイジー」の前にはロードのキーボード・ソロがある。当時の新作「紫の肖像」からは「マリー・ロング」のみ。同作は「ウーマン・フロム・トーキョー」が代表曲として挙げられるが、ここではプレイされていない。

 

ディープ・パープルのライヴと言えば、スタジオ音源にはないパートが追加された長尺プレイが有名であり、本公演では「スペース・トラッキン」が該当する。

 

ただ「ライヴ・イン・ジャパン」と比較すれば、本公演は各楽曲がコンパクトにまとめられている印象が強い。バンド内部の人間関係の亀裂がプレイに影響したと考えるのは安易かも知れないが・・・。

 

最後の「ストレンジ・カインド・オブ・ウーマン」の中盤には、リッチーのギターとギランのヴォーカルの掛け合いが少々ある。どのような状況であれ、このプレイを聴かせ、この場面を作り出す2人は、プロとしてキッリチと仕事しているのは間違いない。

 

オーディエンス録音であるが、1973年にカセット・テープに録った音源であることを考慮すれば、非常に良い音質と言える。やはりお薦めするなら公式作品「ライヴ・イン・ジャパン」をはじめ、「マシン・ヘッド」時期の音源に越したことはないが、第2期が終焉に向かっている時期の音源として、本品の歴史的価値は高い。