LEICESTER 1986 / BON JOVI

1986年のボン・ジョヴィは激動の1年であった。アルバム「ワイルド・イン・ザ・ストリーツ」発表に伴うツアーは、序盤と終盤で大きく意味合いが異なってくる。

 

今やボン・ジョヴィの出世作であり、ロック・シーンにおける名作、そして世界的ヒットを記録したアルバムとして広く認知されている「ワイルド・イン・ザ・ストリーツ」であるが、ツアー開始時に行われた日本武道館公演は満員ではなかった。

 

それもそのはず、まだアルバムは発売される直前。前作「7800°ファーレンハイト」(1985年)の人気を引き継いで行われた日本ツアーという感じだった。「リヴィン・オン・ア・プレイヤー」「禁じられた愛」をはじめ多くの楽曲が大ヒットし、後にアルバムは全米チャート1位を獲得。調べると全世界で2800万枚のセールスを記録と記されている。

 

本品「LEICESTER 1986」は、1986年11月23日。アルバムの発売から約3ヶ月後。世界的なバンドへと昇りつめようとしていた時期だ。イギリスはレスターでのライヴをオーディエンス録音した商品。プレスCDの2枚組である。

 

当時のバンドは、ジョン・ボン・ジョヴィ(Vo)、リッチー・サンボラ(g)、アレック・ジョン・サッチ(b)、デイヴッド・ブライアン(Key)、ティコ・トーレス(ds)という編成。

 

DISC1の冒頭では少々の音揺れが発生するので、大元がカセット・テープであると判る。音揺れといってもごくわずかなので、気になるほどではない。メーカー情報によると、そのカセットの原版から音をデジタル化しCDにしたとの事。

 

ライヴはデイヴィッドが弾く「ピンク・フラミンゴズ」から始まる。タイトルを見ただけではピンと来ないかも知れないが、これはアルバム「ワイルド・イン・ザ・ストリーツ」で言うところの「レット・イット・ロック」冒頭部分のキーボード・ソロのメロディだ。

 

ただし、そのまま「レット・イット・ロック」へ行くのではなく、キーボード・ソロを経て「レイズ・ユア・ハンズ」へ。これが実質的なオープニング・ナンバーだ。歌い出しのみジョンのヴォーカルが引っ込み気味で、ティコのバスドラの音が大きいものの、すぐに改善されバランスの良いサウンドに。

 

「レイズ・ユア・ハンズ」を筆頭に、当時の新作からは「禁じられた愛」「ワイルド・イン・ザ・ストリーツ」「リヴィン・オン・ア・プレイヤー」「レット・イット・ロック」「ウォンテッド・デッド・オア・アライヴ」がセット・リスト入り。

 

「禁じられた愛」演奏前のMCで、ジョンが「新作からの曲で、シングルになってビデオの撮影もした。知っている人は一緒に歌ってくれ!」的なことを言っているのも、今になれば面白い。

 

今ではアンコールの最後に演奏されるのが定番となっている「リヴィン・オン・ア・プレイヤー」は、この時代は中盤にサラリと演奏されている。飽くまで新作に収録された楽曲のひとつという捉え方が時代を感じさせる。

 

「ブレイクアウト」「トーキョー・ロード」「サイレント・ナイト」「恋の切り札」など、初期2枚のアルバムからの楽曲も貴重。歴代のツアーでプレイされ続けられる「夜明けのランナウェイ」であるが、本公演の音源を聴くと若々しさに満ちている。

 

アンコールの最後は「ゲット・レディ」。これも当時ならではのメニューの組み方。リッチーのギター・ソロ、ティコのドラム・ソロもあり、DISC2の冒頭で聴ける。シン・リジィ「ヤツらは町へ」、メンター・ウィリアムス「ドリフト・アウェー」とカヴァー曲を取り上げている点にも注目。

 

ハードロックだけでなく、カントリー色の濃いアーティストの曲を選んでいる。後にアルバム「ロスト・ハイウェイ」(2007年)を制作するように、ボン・ジョヴィにとってカントリー音楽は重要なルーツのひとつであると判る。

 

「ブレイクアウト」「リヴィン・オン・ア・プレイヤー」の一部で録音レヴェルを振り切っているのか、高音が音割れしている箇所があるが、全体の録音はとにかく素晴らしい。ライヴ会場に足を運び、客席で演奏を聴くとこのような感じになのだろうと疑似体験できる臨場感がある。

 

バンドのプレイも若々しく、頂点に向かって勢いを増す1986年のボン・ジョヴィのエネルギーが、ここに凝縮されている。尚、ツアーは翌1987年も続き、再び日本武道館公演が組まれた。満員の観客の前で、バンドは日本のファンに凱旋をアピールしている。