ROCKFORD 1982 SOUNDBORD / KISS

アルバム「暗黒の神話」発表後の1982年から1983年に行われたツアーのサウンドボート音源の5タイトルの登場はマニアを狂喜させる一大事件だった。メーカーからの宣伝文句にも「世界中のコレクターが震撼」とあるほど。

 

それらが出回り始めた時期が、40周年記念盤「暗黒の神話」(2022年)発表の少し前だった点から考えても、同作に収録するために発掘されたライヴ音源が外部に漏れた可能性が大と思う。

 

中でもツアー2日目に当たる1982年12月30日のアイオワ州 スーシティ公演は目玉商品のひとつだ。ここでは後にセット・リストから外される「キープ・ミー・カミン」と「ロック・アンド・ロール・ヘル」がプレイされているのだ。

 

ネットで検索すると同日のオーディエンス録音による音源は昔からアップロードされていた。しかしながら録音状態は劣悪なものであり、音割れを筆頭にブートレグを収集している方でも聴くのが厳しい音質だった。故にサウンドボート音源の登場に誰もが驚いたのだ。

 

今回紹介する「ROCKFORD 1982 SOUNDBORD」のはツアー3日目、12月31日のロックフォード公演。タイトルが強調しているように、本品もサウンドボード録音。他のメーカーから出ている同日の商品には、大晦日のライヴであると強調したタイトルのものもあり。

 

当時のバンドは、ポール・スタンレー(Vo.g)、ジーン・シモンズ(Vo.b)、エリック・カー(ds.Vo)、そしてサポートとしてヴィニー・ヴィンセント(g)を迎えた4人。

 

ライヴは前日の「SIOUX CITY 1982 SOUNDBORD」と1日違いであるため、演奏面に関して劇的なサウンドの変化はない。ただし、見方を変えると連日のライヴでありながら、演奏とパフォーマンスのクオリティを保っているのがプロらしい。

 

「クリーチャーズ・オブ・ザ・ナイト」に始まり「ストラッター」と続く。前日と同様の流れでありつつも、後の日程のメニューを踏まえるとツアー序盤らしい部分が幾つかある。日程が進行する中で2曲目が「デトロイト・ロック・シティ」と入れ替えられるのだ。

 

本公演において「デトロイト・ロック・シティ」は、アンコールのラストにプレイされている。恐らく観客の反応を見ながらセット・リストを組み立てたのであろう。1983年に入ると「ストラッター」は終盤に移され、「デトロイト・ロック・シティ」を2曲目にガツン!とプレイ。オープニングの印象が大きく変わる。

 

また「クリーチャーズ・オブ・ザ・ナイト」も、生演奏特有のエネルギーを加えつつも、以降のライヴと比較すれば、テンポがそれほど上げられておらず、スタジオ音源に近い気がする。これは「アイ・ラヴ・イット・ラウド」「ウォー・マシーン」などにも当てはまる。出回っている1982年と1983年の音源を聴き比べると、ライヴを通して楽曲が進化している過程が判って興味深い。

 

曲目で言うと、前日はプレイされたレア曲「キープ・ミー・カミン」が早々に外されている。コアなファンからすると残念であるが、もうひとつのレア曲「ロック・アンド・ロール・ヘル」は本公演でも聴ける。これも1983年に入ると外されるため、同曲の音源が残された貴重な公演である事は間違いない。

 

1982年から90年代中期まで不定期ながらセット・リスト入りする「アイ・スティル・ラヴ・ユー」は、70年代のキッスにはなかったタイプの純ロック・バラードであり、これがライヴに加えられた事によってバンドの新たな一面を表現した気が。

 

全体的なプレイとしては、当時の最新作「暗黒の神話」で提示したヘヴィ路線のサウンドがライヴ演奏にも投影され、70年代の名曲・代表曲も含めてハードになったイメージが強い。「ファイヤーハウス」「コールド・ジン」「アイ・ウォント・ユー」辺りを聴けば、70年代との違いが判り易い。

 

その音を構成するうえで重要な役割を果たしているのが、やはりヴィニーのギターである。ヘヴィ・メタルが登場して市民権を得ようとしていた時代に、ヴィニーの参加がなければ、キッスは来たるべき80年代のサウンドに対応できなかったかも知れない。

 

「暗黒の神話」製作時より、既にエース・フレーリーの影武者として参加していたヴィニーであるが、ある意味、運命的とも言えそうだ。そのヴィニーも本ツアーではエース・フレーリー的なフレーズを要求されており、本公演を聴くと後のような速弾きは少なく控えめなプレイ。

 

ヴィニーらしいフレーズを聴きたいファンには物足らないかも知れないが、これもツアー序盤だからこそのプレイ・スタイルに。演奏、サウンド、そして選曲と前日「SIOUX CITY 1982 SOUNDBORD」と合わせて、ツアー初期のドキュメントが楽しめる。