In Attack Of The Phantom / KISS

ベースに噛み付くジーン・シモンズ(Vo.b)の姿がインパクト大なジャケット。本品はキッスの1984年「アニマライズ」ツアーより、12月15日のデトロイト公演をサウンドボード録音で収録したCDである。

 

この日付と公演地、そしてサウンドボード録音と聞いてピンと来るのが映像作品「アニマライズ・ライヴ」だ。実は本品、公式に発表されている映像作品から音だけを抽出したコレクターズ盤。サウンドボードと銘打たれているのも、公式商品の音だからである。

 

確かに「アニマライズ・ライヴ」は映像作品のみのリリースで、ライヴ盤にはなっていない。しかしながら、公式商品から音だけを抜き出したCDという時点で、本品はコレクター向けの一品と言えるだろう。

 

裏ジャケットにあるOH BOYがレーベル名と思われるが、コレクターの間でも余り聞かない名前だ。プレス盤なのは本品が90年代から出回っていたから。調べてみると1992年の発売との事。当時はパソコンやCD-Rが一般化しておらず、プレス盤が主流だった。

 

さてライヴの内容について。「アニマライズ」ツアーは先ごろ、11月28日のニューヨーク公演を収録したCDが、オフ・ザ・サウンドボード・シリーズの第5弾「ポキプシー NY 1984」として世に出た。これは、マーク・セント・ジョン(g)が参加していた時期の貴重なライヴ音源だ。

 

アルバム「アニマライズ」は、ポール・スタンレー(Vo.g)、ジーン、マーク、エリック・カー(ds.Vo)の編成で制作され、ツアーも同様の顔ぶれでスタートしたが、マークは体調不良によって数公演のみで離脱した。

 

マークの後任・・・と言うか、ピンチ・ヒッターとして急遽バンドに加わったのが、後に正式メンバーとなるブルース・キューリックだ。ブルースの参加は、兄のボブ・キューリックの推薦があったからとされている。ボブは、かつてキッスの楽曲で影武者としてギターを弾いており、メンバーと交流があったのだろう。

 

当時を回想したメンバーのインタビューによると、マークはいつもでギターを弾けるように待機し、ステージではブルースがプレイした公演もあるらしい。この時点では、飽くまで臨時ギタリストとしてブルースが迎えられた事が判る。

 

先ほど挙げたニューヨーク公演が11月28日、本品で聴けるデトロイト公演が12月15日なので、ブルース参加初期のライヴ音源なのは間違いない。基本的には「アニマライズ」ツアーのセット・リストはそのままに、ブルースを含む編成でツアーを続行する事に。

 

ヘヴィ・メタルが登場した80年代。キッスは70年代のハードロックとは一線を引くかのようにサウンドをメタリックに進化させ、「アニマライズ」は1984年という時代の空気を存分に吸い込んだ作品となった。その変化はライヴでも顕著に表れている。

 

まず全編において楽曲のテンポが速くなり、ゴージャスでバブリーな印象を与える。「デトロイト・ロック・シティ」「コールド・ジン」と70年代に発表された楽曲でスタートしているが、その違いは明確だ。特に「デトロイト・ロック・シティ」は、エリックが踏む2バスの疾走感がこの時代らしい音に。

 

「スリル・イン・ザ・ナイト」「アンダー・ザ・ガン」といった、この時代しか演奏されていない楽曲もあるので貴重。中でも「スリル・イン・ザ・ナイト」は先に挙げた「ポキプシー NY 1984」には収録されていない。後に定番となる「ヘヴンズ・オン・ファイア」も、このツアーから取り入れられた曲。

 

厳密に言うと本品、CD1枚の時間内に収めるためか映像作品「アニマライズ・ライヴ」より短い。例えばポールのMCの多くがカットされている。また「アンダー・ザ・ガン」の前にポールのギター・ソロ、ライヴ中盤にジーンのベース・ソロがあるのだが、ここでは全てカット。エリックが歌う「ヤング・アンド・ウェイステッド」も無い。

 

よって「アニマライズ・ライヴ」から、純粋に楽曲のみを抜き出した収録内容と言えそう。オーディエンス録音のコレクターズ盤とは異なり、公式作品から転用した音だけに誰でもストレスなく聴ける音質だ。

 

「ポキプシー NY 1984」はマークがリード・ギタリストである点をポイントとするなら、本品はブルースがリード・ギタリストとしてプレイしているのがポイントに。基本的に同じセット・リストを軸としながら、聴き比べる事で両者のカラーの違いが楽しめる。

 

マークの離脱によって、急遽ツアーに参加した点を踏まえると、本品で聴けるブルースのプレイはプロの仕事と言える。ブルースのキッスとしての初期のプレイが堪能できる音源だ。