CRAZY NIGHT DEMO&OUTTRACKS 1987 / KISS

古くから「クレイジー・ナイト」関連の音源は数多く出回っているが、本品はライヴ音源ではなく「CRAZY NIGHT DEMO&OUTTRACKS 1987」というタイトルが示す通り、デモとアウト・トラックを集めたプレスCD(1枚組)。これもZODIAC製。

 

当時のキッスは、ポール・スタンレー(Vo.g)、ジーン・シモンズ(Vo.b)、ブルース・キューリック(g)、エリック・カー(ds.Vo)という編成。ただし、ここで聴けるのはデモだけに、必ずしもこの4人が全曲でプレイしているとは限らない。

 

特に80年代中期のジーンは、映画の出演など音楽以外の仕事に時間を割くようになっていたので、実質的な音楽面での主導権はポールが握っていた。かつてブルースのインタビューで「ジーンは映画の撮影のため、スタジオに現れなかった」という発言もある。

 

過去の記録ではブルースがベースを弾いた曲、ブルースとエリックだけで仕上げた曲、ジーンがギターを弾いた曲などもあるので、ここで聴ける音源もクレジットがない以上、各楽曲の演奏者について細かなことは不明だ。

 

それでも80年代だけに、デモの段階からバンドとしての音作りになっているのが興味深い。現代ならレコーディング機材の発達により、ドラムやベースを打ち込み、ギターとヴォーカルを重ね、作曲者がひとりでデモを作ることも可能だが、そうでない辺りに時代性を感じる。

 

まずは1曲目「クレイジー・クレイジー・ナイツ」。エコーの影響か全体的に音がぼやけ気味であるものの、後にアルバムに収録される本番トラックの原型が既に出来上がっている。デモと言っても様々な段階のものがあるが、ここで聴けるのはサビのバック・コーラスもあり、ほぼ完成版と言っても良い。本番トラックとの大きな違いはギター・ソロで、このデモには間奏のブルースのソロがない。

 

続いて「ヘル・トゥ・ホールド・ユー」。本曲は随所で聴けるブルースのソロが素晴らしい曲であるが、ここでは飽くまで仮のソロなのか本番トラックとは違うフレーズで弾いている。また終盤のサビに行く前、本番トラックではポールのヴォーカルに合わせてエリックがダダダダッ!と低音のフレーズを叩くが、デモではひらすらビートを刻むプレイ。

 

やはり同パートはエリックのドラミングが良いアクセントとなるので、本番トラックで聴けるアレンジにして正解だったと思う。エンディングのギター・ソロがなく、サビの繰り返しで終わるのもデモらしい。

 

テープの保存状態か「バング・バング・ユー」になると急に音質が劣化する。だが曲自体は完成形に近い。「ダイヤル・エル・フォー・ラヴ」はジーンのデモで、アルバムには収録されなかった1曲。つまりアウト・トラックだ。

 

「ヘル・オア・ハイ・ウォーター」「ウォール・カムズ・ダウン」「グッド・ガール・ゴーン・バット」「リーズン・トゥ・リヴ」「ターン・オン・ザ・ナイト」辺りは、音の軽さからデモだと判るが、アレンジ自体は本番トラックとほぼ同じ。

 

「マイ・ウェイ」はキーボードの音が前に出ているのが本番トラックとの大きな違いに。テープの劣化なのか音揺れが発生するので、それも含めてデモらしい。「マイ・ウェイ(ヴォーカル・トラック)」は演奏無しでポールのヴォーカルのみ。これら2曲は、1998年頃に出回った「CRAZY LOVE MAKER」というブートCDにも収録されていた。

 

本品の後半はアウト・トラックが中心となる。「アー・ユー・オール・ウェイズ・ディス・ホット」はジーンの曲、2ヴァージョン収録された「ソード・アンド・ストーン」はポールの曲だ。

 

注目すべきは「ハイド・ユア・ハート」で、アウト・トラックと表記されているものの、後にアルバム「ホット・イン・ザ・シェイド」(1989年)で取り上げられる1曲。デモではイントロのギター・ソロがやや長い。

 

16曲目以降は、ポールが所有していたテープからのデモ音源。完全に未発表曲を収録しているが、「(アイ・アム)ザ・ベスト・マン・フォー・ユー」の雰囲気を「リーズン・トゥ・リヴ」に流用したのか、または「リーズン・トゥ・リヴ」に似ているからこちらは採用されなかったのか、などマニアの考察を生む音源ばかりである。

 

「クレイジー・ナイト」に収録された楽曲は、すべて完成形に近いので楽曲をアレンジする最終段階のデモ音源であるのは間違いない。デモだけにマニア向けと言えるが、これまでライヴ音源のおまけ程度に数曲ずつ収録されていたデモも含め、CD1枚に収められているのでお得な商品だ。CD収録時間の目一杯である約78分に渡り、全20トラックの音源が聴ける。