TAKE OVER  /   JOURNEY

かつてのメンバー募集と言えば、オーディション用のテープを送ってメンバーが審査、徐々にふるいに掛けられ残った人材で最終選考といった流れが一般的だった。ゆえに、ジャーニーの楽曲を歌っている映像を動画サイトにアップロードしていたら、メンバーの目に留まってスカウトされたとの話は、かなり現代的な流れと言える。

 

これによって加入したのが、フィリピン出身のアーネル・ピネダ(Vo)である。ピネダを迎えたジャーニーは、アルバム「レヴェレイション」(2008年)を制作。大規模なワールド・ツアーを開催した。

 

ピネダの加入とツアーの様子を追った映像は、映画「ドント・ストップ・ビリーヴィン」(2012年)で見る事ができる。いきなり巨大組織に入り、これまで経験した事の無い規模の活動はピネダにとって戸惑いの連続だったと伺えるが、その歌声は多くのファンを魅了した。

 

「レヴェレイション」発表に伴うツアーは、2009年3月に日本公演も行われた。本品「TAKE OVER」は、3月9日の東京国際フォーラムでのライヴをオーディエンス録音したもの。Sylph製の2枚組CD-Rだ。

 

この時の来日は、ピネダの他、ニール・ショーン(g)、ロス・ヴァロリー(b)、ジョナサン・ケイン(Key)、ディーン・カストロノヴォ(ds)という編成。アルバム「レヴェレイション」を録音した顔ぶれだ。

 

そのアルバム「レヴェレイション」からは「ネヴァー・ウォーク・アウェイ」「ザ・ジャーニー(レヴェレイション)」「ターン・ダウン・ザ・ワールド・トゥナイト」「チェンジ・フォー・ザ・ベター」「ワイルデスト・ドリーム」「ホワット・アイ・ニーテッド」がセット・リスト入り。

 

ジャーニーほどキャリアが長く、ヒット曲も多いバンドが、ここまで新作からの楽曲を大々的に取り入れるのは驚きだ。大きな挑戦とも言え、ピネダを迎えた新作に対するメンバーの自信が表れているとも受け取れる。

 

新作からの楽曲を柱としながらも、もうひとつの柱になっているのが往年の名曲群である。「ドント・ストップ・ビリーヴィン」「セパレイト・ウェイズ」「時への誓い」「オープン・アームス」といった誰もが知る名曲、「ホイール・イン・ザ・スカイ」「ライツ」「限りなき世界」などをプレイ。

 

アルバム「エスケイプ」(1981年)からも「ストーン・イン・ラヴ」「キープ・オン・ランニン」「時の流れに」「マザー・ファザー」「エスケイプ」と、多めにセット・リスト入り。新作だけでなく、当時を知るファンも楽しめる選曲に。

 

メーカー情報によると、当日はPAの関係で音響が良くなかったと記されているが、音源を聴く限りではバランスの良いサウンドで録音されている。ただ、オーディエンス録音の特性上 仕方ないが、特定の手拍子や歓声、歌声が聴こえる場面も。

 

更に言うと、手拍子が曲のリズムとずれていたり、他の観客は誰も歌っていない時にひとりで歌っている声も聴こえるので、人によっては気になって演奏に集中できないかも知れない。どの曲という訳でなく、音源全体を通して多々ある。

 

キッチリと構築されたプレイを聴かせつつ、DISC1のトラック10ではニールとジョナサンのジャムがある。この辺りは、ニールがサンタナのバンド出身である事実を思い出すプレイだ。

 

また、産業ロックと称されるように、聴き易く、判り易い楽曲に焦点が当たりがちであるが、アンコール最後「ラヴィン・タッチン・スクィージン」のブルージーなプレイを聴くと、メンバーが聴いて育った音楽のルーツが垣間見れる。

 

新作からの楽曲と、往年の名曲をバランスよく取り入れた約2時間20分のライヴ音源。先ほども書いたように、オーディエンス・ノイズが多少あるものの、ライヴの内容と録音状態は非常に良い。