華麗なる激情/モトリー・クルー

ヘヴィ・メタルの起源は1979年のロンドンとされており、そこから発信された新世代（当時）のサウンドは世界中の若者に影響を与えた。1980年代に入ると、ヘヴィ・メタルに影響された若手のバンドが、それぞれの解釈でサウンドを再構築し、世界各国から新しいバンドが次々とシーンに姿を見せるようになった。

当時のシーン全体を見て考えると、モトリー・クルーはヘヴィ・メタルをアメリカ流の解釈で新たなサウンドに仕上げたバンドと言える。中心人物のニッキー・シックス（b）は、80年初頭から既にクラブでミュージシャンとして演奏活動をしていた。

その過程で、ヴィンス・ニール（Vo）、ミック・マーズ（g）、トミー・リー（ds）と出会い、モトリー・クルーが結成されている。バンドは本作「華麗なる激情」（1981年）でデビューを飾った。

少々踏み込んだ話をすると、元々はインディーズでリリースされていたアルバムをリミックスして仕上げたのが本作。ヴィンスの歌も一部が差し替えられている。

今ではL.A.メタル、グラム・メタルとジャンル分けされるモトリー・クルーであるが、デビュー当時もこのカテゴリーで売り出されていたわけではない。何故なら、そのようなジャンルはまだ確立されておらず、モトリー・クルー及び後続のバンドでシーンが活性化したからこそ、それらがL.A.メタルと称されるようになったからだ。

つまり、モトリー・クルーの音楽性やバンドのスタイルが、それだけ独創的なものであったのは間違いない。それを紐解いて行くと、サンセット・ストリップ辺りを拠点にしていたバンド活動、メンバーの取り巻き、人間関係などが影響しているはず。

華やかでありつつも毒があり、色気を放ちながらも危険な薫りがする。ある意味、アメリカのこの地域だからこそ出来上がった独自のスタイルとも言えそうだ。現代社会において声を大にして言うのは問題があるが、S E X、ドラック、アルコールのイメージである。

本作の1曲目は「ライヴ・ワイヤー」。シャープなギター・リフに続いてアップテンポに発展するのはヘヴィ・メタルにおけるひとつの手法でありつつ、サウンドが明らかにイギリスのバンドとは異なるのが判る。

「カム・オン・アンド・ダンス」「パブリック・エネミー♯1」を筆頭に、スキのないアレンジである一方、良い意味で捻りはない。その分、楽曲がストレートになり聴き手の印象に残るキャッチーさが宿っている。

一般的にL.A.メタルと言えば、晴れ渡った青空が似合うスカッとした音作りをイメージするかも知れないが、「メリー・ゴーランド」のように哀愁を帯びた曲があるのも見逃せない。哀愁と言ってもブリティッシュの「泣き」ではなく、華やかな色気とでも表現すべきか。これもアメリカらしい。

アルバム中盤は、軽快なビートの「テイク・ミー・トゥー・ザ・トップ」、正統的ヘヴィ・メタル「ピース・オブ・ユア・アクション」が聴ける。「スターリィ・アイズ」はソリッドなギター・リフが目立つ中、ニッキーのベース・ラインの素晴らしさが耳を惹く。

「トゥー・ファスト・フォー・ラヴ」はメタリックである反面、ロックン・ロール的なフィーリングも。本作の邦題は「華麗なる激情」であるが、原題は「Too Fast For Love」。つまり、この曲がアルバム・タイトルに。因みに本曲、歌詞の一部が「蕁麻疹それは苦しくたまらない」に聴こえると空耳アワーで紹介されている。

冒頭のヴィンスのヴォーカルから徐々にアップテンポになる「オン・ウィズ・ザ・ショウ」までがレコード時代の収録曲。以降、本作はCD化され何度か再販されている。商品によって微妙に異なるものの、CDでは「トースト・オブ・ザ・タウン」「トゥナイト」「スティック・トゥ・ユア・ガンズ」などを追加収録。

本作について、インディーズ時代のアルバムをリミックスしたものと冒頭で書いた。実はマニアの間では、リミックスによって音が洗練され、本来のロック感が後退したとの意見もある。よってインディーズ時代のオリジナル音源を支持するリスナーも一定数いるのも事実。

とは言え、インディーズ時代のレコードは貴重盤で入手困難品であるため、そこから音を抽出したコピー品がブートレグ市場で取引されている。ブートレグの性質上、大きな声で存在をアピールするわけにはいかないが、リミックス前後で、それだけ音に差があるのは興味深い。

また余談であるが、本作のジャケットはローリング・ストーンズの名作「スティッキー・フィンガーズ」（1971年）を連想し、ある種のオマージュを感じさせる。ローリング・ストーンズがジーンズに対し、モトリー・クルーはレザー・パンツ。

ロックの伝統を継承しながらも、自分たちはメタルという新しいスタイルでシーンを牽引する。本作「華麗なる激情」のジャケットについて、このように解釈してみると面白い。

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第833回「華麗なる激情」