ジギー・スターダスト/デヴィッド・ボウイ
デヴィッド・ボウイの代表作としてだけでなく、70年代の音楽シーン、更にはその先のロック・シーンに多大な影響を残すことになったのが本作「ジギー・スターダスト」(1972年)である。
それは楽曲と音楽性のみならず、アルバムの存在そのもの、またバンドの有り方など、あらゆる点に当てはまる。本作は、宇宙からやって来たロック・スター「ジギー・スターダスト」というコンセプトを軸とした作品だ。
それに従いボウイのヴィジュアルは、より中性的になり、バンドはジギー・スターダスト&ザ・スパイダース・フロム・マーズと名乗った。作品の世界観をバンドが自ら演じ、視覚的効果を交えてステージで披露する手法は演劇的でもあり、エンターテイメント性に満ちている。
本作の構想は前作「ハンキー・ドリー」(1971年)の制作時から、既に出来上がっていたらしい。ボウイの歴史を振り返ると、少年の面影を残したデビュー作から、徐々にファッションと見た目が進化し、グラム・ロックを象徴するヴィジュアルになったことが判る。
一般的に見ると、ジギーのみに焦点が当たりがちだが、本作のコンセプトはキャリアの中で築いて来た要素が最高の形で発揮された、この時点での集大成との見方も出来る。
しかしながら、本作で提示したものすべてが「発明」と呼べるほど革命的なので、前作と本作の間で見せた進化の質は凄まじいものがある。正に宇宙的レヴェルの進化と表現しても良いだろう。
制作は主役のジギーこと デイヴッド・ボウイ(Vo)をはじめ、ミック・ロンソン(g)、トレバー・ボルダー(b)、ミック・ウッドマンジー(ds)。コンセプト・アルバムのため、収録曲の歌詞がすべて連動しており、ミュージカルの如くストーリーが進行する。
あと5年で消滅するという混乱の地球に、ジギーがやって来るのが1曲目「5年間」。物語の幕開けを告げるかの如く、リズム隊とピアノのコード弾きでゆったりと始まり、徐々にバンドの音が加わる。サビでは壮大な広がりを見せるアレンジに。
そこから愛をテーマにした「魂の愛」、地球上での音楽活動に覚醒したジギーを歌った内容と解釈できる「月世界の白昼夢」が続く。この「月世界の白昼夢」におけるエンディングのギター・ソロは、高音が宇宙的な神秘性を演出している。
コンセプト・アルバムのため収録曲すべてが重要なのであるが、中でも有名なのが4曲目「スターマン」である。シングル・カットされているので、アルバム全体は知らなくとも本曲は知っているリスナーも多いはず。
興味深いのは5曲目「イット・エイント・イージー」で、カヴァー曲である。ただし整合性のためか歌詞はボウイによって手が加えられており、その内容から頂点に昇ったジギーの姿を投影したものと解釈できる。尚、ダナ・ギレスピーがバック・コーラスで参加。
6曲目は煌びやかなキーボードの伴奏を軸に、ゆったりと進行する「レディ・スターダスト」。後半はアップテンポな曲調が多くなり、「スター」「君の意思のままに」はノリが良い。特に「君の意思のままに」で聴けるレバーのベース・ラインが耳を惹く。
エッジの効いたギター・リフが印象的な「屈折する星くず」「サフラジェット・シティ」と来て、ラストは「ロックン・ロールの自殺者」。アコースティック・ギターによる弾き語り風味の演奏で始まり、エレクトリック・ギターのノイジーなサウンドで終盤へ向かい、物語は幕を閉じる。
以上の11曲が、ストーリーを構成するオリジナルの曲数。以降はCD化に際し、ボーナス音源を収録した商品が発売されている。そのボーナス音源も、発売時期によって何パターン化の商品が存在していることを付け加えおこう。
時代性もあって、本作のオリジナルはレコードで発売されている。一直線で進行するCDとは違い、A面とB面でひとつの場面展開を設けているように思える。A面がトップに上りつめるジギー、B面が徐々に低迷し没落して行く様である。
因みに、現在ではシンプルに「ジギー・スターダスト」と表記される本作であるが、発表当時は「屈折する星屑の上昇と下降 そして火星から来た蜘蛛の群れ」という邦題が付けられていた。
何とも長いタイトルであり、すぐに覚えられるタイトルではない。しかし、アルバムのコンセプトとストーリーを理解して改めて見ると、内容を簡潔に表現した一節と判る。当時の担当の方も、それを意図していたのだろう。単にインパクト重視のフレーズではないのだ。