アンアームド/ハロウィン
本作「アンアームド」(2009年)は、ハロウィンの当時デビュー25周年を記念して発表されたアルバムだ。
一般的に見ると周年を記念してベスト盤を発表するアーティストは多く存在する。本作もバンドの歴史を語るうえで欠かせない名曲・代表曲群を収録しているので、ベスト盤の気質を持った作品であるのは間違いない。しかしながら、即発音源を集めた内容ではないのが大きなポイントである。
ジャケットにチェロが登場しているように、本作はバンドの名曲・代表曲群にストリングスを用いた新たな解釈でアレンジし、2009年のサウンドで再構築したアルバムとなっている。このユニークな視点がハロウィンらしいと言えるだろう。
レコーディングは、アンディ・デリス(Vo)、マイケル・ヴァイカート(g)、サシャ・ゲルストナー(g)、マーカス・グロスコフ(b)、ダニ・ルブレ(ds)という顔ぶれ。
一応、アコースティック・アルバムと位置付けられる本作。アコースティックという響きを聴くと、静かなアレンジ、バラード調に生まれ変わったアレンジを連想するが、実際に聴くと判るように、各楽曲で多彩なアレンジが施されている。
1曲目「DR.STEIN」は、ミュージック・ヴィデオが制作されているのでリーダー・トラックだ。ブラス・アレンジが施され全体的にゴージャスなサウンドとなった。間奏もギターではなく、サックスのソロだ。
続くは、アコースティック・ギターの伴奏を前に出した「フューチャー・ワールド」。アコギと聴けば静かなアレンジを連想するかも知れないが、実際はカントリー・ロック風味の仕上がり。中盤ではパーカッションが鳴り響くパートもあり。
元々ゴシック系バラードの「イフ・アイ・クッド・フライ」は、ストリングスの演奏が入って更に壮大なイメージに。メタリックな「ホェア・ザ・レイン・グロウズ」は、解釈をガラリと変えて、ゆったりとした曲調となった。ある意味、アコースティック・アルバムと聞いて思い浮かべるサウンドに忠実かも知れない。
17分超え大作「ザ・キーパーズ・トリロジー」は、「ハロウィーン」「守護神伝」「キング・フォー・ア・1000イヤーズ」のメドレー。2018年に日本でもライヴが行われた「パンプキンズ・ユナイテッド」ツアーの冒頭SEで流れた「ハロウィーン」のシンフォニック版は、ここに収録されたものを抜粋してライヴで使用。
サビのメロディをイントロに持ってきた「イーグル・フライ・フリー」は、大胆なアレンジを加えた1曲。御承知のようにオリジナルは疾走メタル・ナンバーであるが、本作ではボサノヴァ調に生まれ変わった。
「パーフェクト・ジェントルマン」は、元々がポップなハードロックだけに、ここではそのイメージを残しつつアコースティック・アレンジが施された印象。「フォーエヴァー・アンド・ワン(ネヴァー・ランド)」は楽曲の持ち味を生かし、更に美しく、更に壮大になった。
誰もが驚くのは「アイ・ウォント・アウト」と思う。イントロのツイン・ギターのフレーズを合唱団が担当。リズムもサウンドも解釈を変え、より緊張感に満ちた仕上がりだ。
バンドを代表する楽曲が続く中「フォールン・トゥ・ピーセズ」は、当時の最新アルバムだった「ギャンブリング・ウィズ・ザ・デヴィル」(2007年)から選ばれた曲。エレクトリック・ギターを用いたメタル・バラードという印象のオリジナルに対し、ここでは演奏がソフトになった。
2010年代から現在に至るまで、ライヴが終わってメンバーが去る際に使われている壮大な「テイル・ザット・ウォズント・ライト」は、本作に収録されたヴァージョン。先ほどの「フォーエヴァー・アンド・ワン(ネヴァー・ランド)」と同じく、泣きのバラードを更に壮大なアレンジで再構築している。
ヘヴィ・メタルは完成された音楽である分、アレンジやサウンド、そして使用できる楽器にある種の制約が出来上がっている。本作はバンドの周年を祝う「番外編」のアルバムと位置付けて、そういった制約を取っ払い、大胆なアレンジを施しているのが大きなポイントだ。
名曲や代表曲群を、一度解体して再構築したと言えるほど変わっている曲も多い。見方によっては、メンバーの中にあるヘヴィ・メタルだけではない幅広い音楽性、アレンジのセンス、レコーディング技術などが表現された作品とも言える。
尚、このアルバムの対局に位置するサウンドを意識してか、次のアルバム「7シナーズ」(2010年)は徹底的にヘヴィ・メタルな作品となった。