白石「本当にいいの?
BKAのライブ会場で死神の目を使って他の能力者を探すなんて
やっぱり無茶じゃないの?」

仲野「大丈夫よ。私だって自分のノートに自分の寿命を三十年後にして書いているから、
他のノート所有者には殺されないわ」

白石「そうじゃなくて君が人前に出ることで、
所有者だとわかってしまえば、
みんな一斉に君に近づいてくるんじゃないの?」

仲野「そうよ、私は元々近づいてくるのを待っていたのよ。
ノート所有者にとっては他のノート所有者が邪魔なわけでしょ?
でも、恐らくノートに自分の名前を書いて他のノートでは死なない様にしている筈よ。だったら、もう直接近づくしか他の人間のノートを奪う方法はない筈よ。
でも、私たちは共闘関係なわけでしょ?
私はノートの切れ端だけ持って、ノート本体は君が預かってくれれば他の所有者に盗まれたりはしないはずよ」

白石「理屈ではそうだけどさ、君に危険な目に遭わせるのはちょっと…
しかも今日はでっかい会場の上テレビ中継もあるらしいじゃないか」

仲野「共同戦線を決めた時点で、そんなのいいっこなしよ。これから君だって私のために危険な目に遭うかもしれないけど、それでも納得しているでしょ? お互い様よ。
それにライブ会場は警備が厳重だし、テレビがあるなら他の所有者の様子も伺う必要もあって、余計に下手な行動に出られないはずよ」

白石「…わかったよ。くれぐれも気をつけて……」

大歓声の中、BKAのライブが始まる。
都内のマンガ喫茶のテレビで様子をうかがう白石。
何曲か曲を挟んだあと、MCに入る仲野。

仲野「真面目な話があります。
…といっても私の卒業の話ではありません。
最近Lが第二のキラを捕まえるという報道がなされました。
実は私デスノートを持っています」

白石、画面の前で
「え?いきなり何を言い出すんだ?」

仲野「非難されるのを承知で本当のことをいえば、
デスノートの他人の行動を操れる能力を使って票数を増やして人気投票一位の座を獲得したりしました。
私にはトップアイドルになる理由があり、
そのためには仕方がなかったのです。
でも、デスノートを通じて一人の男の子に出会いました。
彼に会って私のデスノートを巡る価値観は変わりました。
彼はデスノートに名前と死因に寿命を全うすると書くことで、
寿命まで生きられるように世界を変えたいといいました。
私もその考えに賛同しています」

白石、テレビ画面の前で
「そうか。テレビで死にたくない人たちの名前を募集して、
ノートに寿命を全うすると名前を書いていけばデスノートの殺人の防止策になるのか」

仲野「だから、皆さん私に顔を名前を教えてください。
皆さんがデスノートに殺されないように私なら出来ます」

会場がざわつく
「票を操作していたんだろ?
そんな奴を信じられるかよ」
「確かに千咲っち好きだけど、
命までは預けられないなあ」
「そういえばキラは顔を見るだけで殺せるらしいぞ」

仲野「お願いです!!信じてください」

そんな中、カメラが寄った場面で観客が次々と倒れる。

仲野「え? どうしたの?」

客「死んでる」

客達「多分千咲っちの所為だ」

仲野「違います。私の所為じゃありません。
現に私は筆記用具を持ってないじゃないですか。
皆さんカメラの前に経つときは顔を隠してください」

客「何でカメラの前にいて顔も隠してないのにBKAの面々は死なないんだよ。
…さては仲野とグルだな」

仲野「BKAのみんなの名前はあらかじめ私がデスノート書いたのよ。
これで、私がみんなを殺すつもりがないってわかったでしょ?」

客「信じられるかよ!
自分の票を操作していた女なんかをよ」

客「これだけ人がいれば仲野からデスノートを奪えるんじゃねえか」
客「そうだよ。少しでもデスノートの脅威から人々を守れるぞ」
客「カメラ止めろ。こちらは死がかかっているんだ。
カメラを止めないとお前達を殺すぞ」
客、ステージへとなだれ込もうとする。
賢明に止めようとする警備員達

仲野「どうしよう。私はよかれと思って行動しただけなのに…」

そんな中、仲野に手を差し出す警備員の格好をした男が現れる。
???「ついてこい。逃げよう」

仲野「!?」

???「早くついてこいっていっているんだ。
早くしないとこのスタンガンでお前を打つぞ」

仲野は渋々その男について行くことにした。
客「あ、仲野が逃げたぞ」
客「折角のライブだったのにどうしてくれるんだ」

白石「…行っちゃった」
仲野さん連れ去られちゃったよ。
心配したとおりになった。
彼女の元マネージャーの携帯電話……
繋がらないか。


整理しよう。
彼女がMCを始めたときに
突然人がパタパタと倒れ出した。
そしてお客さんが混乱しているときに
誰かが仲野さんを連れて行ってしまった。
どうなんだ? お客さんを殺した人物も
仲野さんを連れ去った人物も同一人物なのか?
もしかして僕と仲野さんのように協力関係の人間がいるのか?
何にせよ、仲野さんを連れ去った人間からの連絡待ちだ。

数分後、仲野の元マネージャーの携帯電話に公衆電話の番号がかかってくる。
白石「もしもし」
???「この携帯を捨てろ」
白石「は?」
???「この携帯電話を捨てろ」
白石「何でだ?」
???「仲野がデスノートの持ち主だとわかった以上、
Lに個人情報を監視されている可能性がある。
だから、お前ももう携帯電話に頼るな。
連絡はお前の家に手紙で送る」
白石「待ってくれ。仲野さんは無事か」
???「じゃあな」
電話は一方的に切られた。

ニュースではトップアイドルの仲野千咲のことが連日報道されていた。
デスノートの所有者であること。
そして、現在行方不明になっていること。
仲野千咲の協力者探しも行われていたが、
白石は自分から名乗り出るようなことはしなかった。
また、デスノートの脅威から逃れたい人が、
ネットに自分の顔をUPする行為も最初は見受けられたが、
さすがにデスノートの所有者達も警戒しているのか
興味を引くことが出来ず、
無視される状況が続いた。

そんな中Lからの仲野の行動の反応の声明が出てくる。
L「全人類の寿命を全うさせるという考えには、
私も及びませんでした。
ただ、仲野さんもその仲間の人間も
デスノートを利用したのは紛れもない事実。
でも、悪い使い方ではないので捕まえるのは最後にしてもいいです。
本当に今の使い方を続けるのならばね。
問題はデスノートを殺しの道具にしようとしている連中です。
彼らをまず捕まえる必要があるでしょう。
仲野さんの協力者の方、
是非名乗ってもらえませんか?
私と協力しましょう」

白石「………」
白石「いきなり態度を軟化させすぎだな。
でも、本当に名乗り出て逮捕されないのか?
よくわからないから態度を保留せざるを得ないよな。
それにまだ仲野さんを連れ去った人間からの連絡がない。
この段階でLに名乗り出ると仲野さんの身に危険が及ぶかもしれないし」

数日後、白石の家に手紙が届く
「白石君へ 仲野君は無事だ。
彼女を返して欲しければ
君の持つ二冊のデスノートと交換だ。
○月×日三時、次の場所で携帯電話を持たずに来い。
ーー」

待ち合わせの時間、待ち合わせの廃工場に着いた白石。
白石の前に二十代から三十代くらいまでの年齢に見える男がマスクをしている男がやってきた。
???「待たせたな」

白石「仲野さんは無事か?」

???「無事だ。彼女には何もしてない。
デスノートは持ってきたか?」

白石「持ってきたぞ」

???「そうか。彼女を返すのにノートを返す以外に条件がある」

白石「…何だ?」

???「俺に協力しろ」

白石「…内容如何によるな。僕にはお前が悪い奴にもいい奴にも判別がつかない」

???「まあ、早い話が俺はお前の敵だ。既に薄々気付いているだろうが、俺もデスノート所有者の一人だ。さらにいえば死神の目も持っている。この死神の目で仲野がノート所有者だとわかって事前に警備員になってライブ会場にいたわけだ」

白石「そうだろうなとは思っていた」

???「そして、このデスノートで俺は何人も人を殺している。それは紛れもない事実だ」

白石「なら、僕はお前とは手を組め……」

???「話は最後まで聞け。
確かに俺は何人も殺している。でも、これは仕方がないことなんだ。
俺だって本当だったら人なんて殺したくない。たとえデスノートでの遠回しの殺しでもだ。
でも、殺さないと困る人たちもたくさんいるんだ」

白石「そんな人間がいるのか?」

???「いるんだ。お前は介護殺人という言葉を知っているだろ?
老々介護の末に介護に疲れた高齢者達が良き理解者だったはずの家族に手をかけてしまっているのを。老いた旦那や妻達が毎日食事から下の世話やらやらなくてはいけないのを。その間、介護に付きっきりで外で働くことも出来ずお金の面でも切迫して、自分の子ども達とも疎遠になってしまって精神的にとても追い詰められてしまう。そんな要介護者を俺は殺してきた。
俺の行動が正しいかどうかなんてわからない。
ただ、そこまでしないと救えない人たちがいたのも事実なんだ。お前はどんな人でも生かしたい人間なのかもしれないが、俺は必ずしもそれが正しいとは思えなかった。だから、人を殺してきた」

白石「…………
お前が協力して欲しいというのはその殺しか?」

???「違う。そうじゃない。
お前と俺とは考え方が違う。
お前は自分が通りたい理想を歩んでいけばいい。俺はそのために泥をかぶってもいいと思っている。
でも、俺にも介護が必要な父親がいる。俺は父の面倒をずっと見なくてはいけない。似たような立場の人間を殺しておきながら、自分の親となると殺すという選択肢は選べなかった。だから金がいるんだ。かといっても介護の制約上満足に働くことも出来ない。だから、お前にお願いがある」

白石「何だ?」

???「人を殺して欲しいとはいわない。ただ、脅して欲しいんだ。…いや、これも違うな。脅しと助けに協力して欲しい。
有名な企業の幹部達は軒並みマスコミに顔を出している。
その彼らはデスノートの格好の餌食になるだろう。だから、彼らを助けることでお金を得て欲しいんだ」

白石「そんなの一人で出来るんじゃないのか?」

???「出来るといえば出来る。ただ、もう一人いれば一人がノートに寿命を全うすると書いて、もう一人が普通にノートに名前を書くことで、デスノートの効力が効かなくなったということの証明になる。そこまですれば企業幹部達もきちんとお金を払うだろう?」

白石「…確かにそうだな。お前は僕にその協力だけさせたいのか?」

???「俺は構わない。いや、この話を仲野にしたら、ノートさえあれば仲野が協力してくれるというからそれすらもしなくていい。
 仲野と話した結果君は出来る限り身軽でいた方がいいということだった。
 もしかすると君が寿命を全うするとノートに書くという方法を言い出してから君のことをよく思わない人間が出てくるかもしれない。いや、確実に出てくる。何せデスノートの効力を無効化するわけだからな。その時、俺は君を助けるために出来る限り協力したい」

白石「しかし、肝心のお金はどうやって得るつもりなんだ?
 ネット環境もままならないのにデスノートの無効化をはかりたい人を募集するのも難しい気もするぞ」

???「それは色々と考えたんだが、
 デスノートの無効化をはかりたい人達がネット上で書き込みをしているのを知っているだろう? その人間達に料金を取ってそれをやることを告知する。デスノートが本物かどうかを警戒する人間もいるだろうから、それは顔写真だけをUPしてもらえれば名前はこちらでわかるからそれが信用になると思う。
 そしてお金は振り込め詐欺の口座を募集している人間から銀行口座を買い取って、そこに振り込んで貰う。お金をおろすのにも警戒が必要だが、それはもうお金を振り込んだ口座を判子と一緒に買い取って貰うしかないと思っている。買い取った人間が口を割るのを防ぐために、警察にたれ込みをしたらノートに名前を書くと脅してな。
 デスノートで人を操ってお金を持ってきて貰うとかも考えたんだがな、これが一番人に被害が及ばない方法だと思う。
 まあ、これでも問題があるようならばまたよく考えておくよ」

白石「さっき、僕を他のデスノート所有者から守ってくれると言ったな。何でお前は協力的なんだ?」

???「デスノートによる支配から人々を逃れさせたいからっていう理由だけじゃ駄目なのか? デスノートを人殺しに利用する人間よりかはデスノートを平和利用しようとしているお前の方が遙かにいいってだけの話だ。
 まあ、単純に協力して欲しいからそのために協力するってのが第一だけどな」

白石「そういえばまだ名前を聞いていなかったな」

???「俺の名前は川本涼平だ。よろしく頼む」

白石「はっきり言えば、デスノートでお金を得ようとする行為はいい行動じゃないと思う。ただ、殺しで使うよりかはマシだ。仲野さんも協力してくれるというのなら僕も協力するよ」

川本「じゃあ、仲野千咲を解放するよ」

白石「しかし、老々介護による疲弊を解消するための殺人か。考えてもみなかった。苦しみをなくすための殺人は善ではないだろうが、必要悪なのかもしれない。それを考えず人は生きるべきという僕の考えは偽善なのだろうか?」

川本「そもそも動物の社会では弱肉強食が普通で、人間の世界では弱いものが肉にならずに利用できるから利用しているってだけの話だ。だから生きているだけで大変な思いをする人間は大勢いる。でも、それをいかに楽しいものや楽なものに変えていけるかを考えるのも人間の役目だ。だから、俺たちが長生きすることが悪になる世の中を変えていかなきゃならない。…俺が言うようなことではないかもしれないがな」


この後に仲野と合流した白石。しかし、彼女もまたデスノート所有者として警戒をされているので、すぐに自宅に帰るわけにはいかなかった。彼女は白石の一人暮らししている部屋に身を置くことになった。

仲野「ごめんね。勝手に川本に協力するとかいって。彼、介護のために仕事も辞めてずっと一人で介護しているって言うからかわいそうで」

白石「大丈夫だよ。彼は多分そんなに悪い奴じゃない。それに僕らを信用しないと困るのは彼の方だ。僕はデスノートで人を殺していないからLに捕まっても警察で逮捕されるようなことはないと思うけれども、彼はそうじゃないから僕らに従わなきゃならない」

仲野「その割に彼に協力する条件を出さなかったわね」

白石「仲野さんが心配だったからね。それにこちらが優位だからって他人を脅すようなことをするのは好きじゃない」

仲野「…そんなことを言っててこれからデスノート所有者たちとやっていけるの? もう少し自分の我を通さないといけない場面が出てくるかもしれないんだからね」

白石「ああ、わかっているよ」

仲野「ところでデスノートのもう一人の持ち主のことなんだけど」

白石「何かわかることがあるのかい?」

仲野「私たちが持っているので三冊よね」

白石「Lが燃やしたのが一冊だね」

仲野「それが川本が言っていたんだけど、Lは燃やす振りをしただけで実際には燃やしてないって言うの」

白石「え?」

仲野「言われて納得したんだけど、ノートの所有者で死神の目を持っている人間には他のノート所有者の寿命が見えないの。そんな重要な情報が得られるのに、わざわざノートを捨てる理由がある?」

白石「そう言われればそうだね」

仲野「でね、その流れでちょっとおかしなことがあった人物がいるの」

白石「え? 誰?」

仲野「高橋隆文っていう国会議員。彼はね、元々寿命が見えていない人物だった。要するにデスノート所有者だったわけね。でも、最近見た映像の彼では彼の寿命は見えているの。何らかの理由でデスノートの所有権を放棄したみたいよ」

白石「それはやっぱり、Lに警戒しているんだと思う。ノート所有者だと死神の目を持つ人間には一発でわかるからそれを防ぐために他の第三者にノートを持たせたに違いないよ」

仲野「そうよね。そう考えるのが普通よね。でもね、ちょっと疑問に思うことがあるのよ。この新聞のラテ欄を見て」

白石「さくらTVのキラ特集。『生放送でとある国会議員があなたがいらない人間を生粛正』ってなんだこれ?」

仲野「変な番組でしょ? こんなのを放送していいわけがないわ。さくらTVは脅されてやっているのかも」

白石「いや、さくらTVだからな。わからないよ。
今夜放送なのかな? だったら見てみようよ。この国会議員が高橋隆文かもしれないしさ」


(L視点)

ワタリ「たくさんのデスノートの所有者達、なかなかしっぽを出しませんねえ。街中の街頭カメラやGPS機能、携帯電話の通話記録、そんなの拾得が役に立つのでしょうか?」

ニア「いや、これらは次第にじわじわとほかのキラ達の行動を狭めるのです。それに、仲野千咲さんの相棒がやり始めたというデスノートに寿命を全うすると書く行為、あれが何気にでかい。デスノートは殺すための攻撃の手段だけだったのにも関わらず、これによって守りの行動にも繋がることになったわけです。一度ノートに書かれた人間はノートでは死ななくなる。私たちの名前をノートに書くことが目的だったキラにしてみればどういう行動をすれば自分たちがキラとして永遠に地位を得られるのかが見えにくくなったことでしょう。
自分達は追い詰められて、どんどん人を殺しにくくなる中で破れかぶれになる人間も出てくる。私はそう考えています」

ワタリ「そうかもしれません。今日のテレビ欄をみましたか?
『生放送でとある国会議員があなたがいらない人間を生粛正』って、内容です。
 世間にキラの恐怖を植え付けるというよりかは、八方塞がりになった人間の暴走かもしれませんね」

ニア「そんなのがあるのですか? お面をつけてさくらTVに使者を送らせましょう」

さくらTVにて
キラ特番のプロデューサー片岡
「まさかうちのインチキと言われているキラ特番に、本物のキラが出てくれるなんて。高橋さんさん、本当にいいんですか? あなた政治家でしょう? もしかするとキラとしてテレビに出ることによって自分の首を絞めることになるのではないですか?」

高橋「いや、いいんだ。元々、政治家になれたのもデスノートによる行動操作によるものだ。有権者に投票させたり、あるいは自分以外の候補に投票しようとする人間を殺したりしてきた。
俺はキラによる恐怖支配を望んでいる。今は寿命を全うするとか書いてデスノートの効果を無効化する方法が広まって脅しがしにくくなっているが、彼らの陣営を潰すことで俺はこの国の支配者になるんだ。
それに俺は今Lが使っているデジタル包囲網を利用し、自動車の自動運転などを利用することで人造デスノートを作ることも検討している。これさえあればもう他のデスノートによるデスノート無効化なんてのも気にしなくてすむことになる。
そうなれば俺はこの世の支配者になることが出来るだろう」

片岡「でも、デスノートを持っている人間はもう既に自分でノートに名前を書いてしまって、デスノートで殺せないんじゃないですか。どうやってデスノート無効化陣営を潰すんですか?」

高橋「それについてはこちらに策がある」

ニア「えーー。キラ特番のプロデューサーさんはいますか?」

片岡「だ、誰だ」

ニア「私はLの代理人です。今回のキラ特集、テレビでは放送させられません。だから、食い止めにきました。VTRがあるなら全部こちらで押収します」

高橋「そうか、やはりLの代理人がきたか。なら話は早い」

高橋、急にピストルを懐から出してニアを撃つ。
ニア、うずくまったまま暫く動かない。

片岡「え?」

高橋「確かにデスノートに名前と寿命を全うすると一度書かれた人間はデスノートでは死なない。しかし、他の物理的な攻撃では死ぬ。寿命を全うするなんて曖昧な書き方だから今死んだっておかしくはないはずだ。だから、こうして武器を持って殺してしまえばいいんだ」

ニア、ゆっくりと動き始める。
ニア「いたたたた。防弾チョッキでも撃たれると痛いんですよね」

片岡「Lッ!」

高橋「クッ!!」

ニア「残念ながらその考えは私たちにもありました。そう考えると寿命を全うすると書くのと十年先とか一定期間先に寿命を設定するのとではどちらがいいのですかね?」

高橋「やっぱりジエンドか。もう少し粘る予定だったんだがな。テレビで告白するのはやり過ぎか」

ニア「あなた自体の行動がおかしかった。私たちの行動を警戒するならば、テレビなんて使おうと思わなければ良かったでしょうに」

高橋「それでもやらなきゃいけないことがあったんだけどな」

ニア「何です、それは」

高橋「…………」

ニア「まあ、いいです。ノート持ってますよね」

高橋「…持っていない」

ニア「そうですよね。今、あなたデスノートの所有者じゃないですものね。誰に預けたんです?」

高橋「違う。そうじゃない。俺のデスノートは盗られたんだ」

ニア「え?」

高橋「俺はとあるデスノート所有者と協力関係にあった。
そいつが言うには、今出回っているデスノートには有効期限があるのを知っているかといってきた。なんでも死神が言うには所有してから一年しか効力が持たないんだって言われた。
だが、俺達は協力関係だからノートを交換してしまえばあと一年ずつ効力を伸ばすことが出来るって言ったんだ。
だから、俺はその言葉に乗って一年経てから交換したんだ。
だが、奴が俺に渡したノートが実は偽物のノートだった。
でも最初は気付かなかった。何せ本当にそのノートで人が殺せたからな。
何人も殺していくと異変に気がついた。
本来ノートは書いていくと自動的にノートの枚数が増えるようになっていた。しかし、奴が俺にくれたノートはいつまで経ってもノートのページ数が増えないんだ。
要するに奴は自分が持っていた本物のノートの切れ端をノートにして本物と偽って俺に渡したんだ。
無論、ノートの効力の期限が一年だけなんて交換してノートを奪うための出鱈目だった。
奴は俺がその事実に気がついた時点でどこかに消えてしまった」

ニア「そいつの名前はわかりますか?」

高橋「夜神楓だ。
いくら奴が偽名を語ろうが俺の死神の目ではごまかされない」

ニア「夜…神…?」

高橋「お願いだ。奴を止めてくれ。
奴はこの世の全てを憎んでいる。
俺が政治家になるのに俺以外に投票する人間を殺すってことを最初に考えて実行したのもあいつなんだ。
俺は人の上に君臨したかったがあいつは全てを殺そうとしている。
人の死を何とも思っていない。あんな奴を野放しにするなんてどうかしている。だから、テレビに出て本当はそれを呼びかけたかったんだ」

ニア「でも、名前しか知らないんでしょう?」

高橋「…ああ。こんなことなら顔写真でも撮っておくべきだったよ」

ニア「いろいろとしゃべってくれてそれに関してはありがとう。
でも、あなたは人を殺し過ぎましたし、
何より私を殺そうとしました。
逮捕は免れません。いいですね?」

高橋「…ああ」

ニア「ところでプロデューサーさん」

片岡「は、はい。何ですか?」

ニア「高橋議員が捕まることでテレビ番組の枠に穴があいてしまうんじゃないですか? だったら私たちの呼びかけを放送してはいただけませんか?」

片岡「え? 個人的にはいいけど、局的にそんなに急には……」

ニア「実は私、あの会見では燃やしたデスノート、まだ燃やしてないんです。実はまだデスノートを持っているんですよ」

片岡「え? それってどういうことですか?」

ニア「あなたたちを脅すつもりはありません。
人殺しの道具だと思われたデスノートが救いの道具になったと言うことを広めたいんです。デスノートの使い手を窮地に陥らせるために、もう大々的に告知してもいいと思ったわけです。その方が人々が安心すると思うんです」

片岡「わ、わかりました。局の人間と相談してみます」

ニア「何とか私がしたいと思っていた話の方に誘導できそうです」

ワタリ「良かったですね」

ニア「そこで、私はいってやるんです。デスノートで人を殺すことはもう終わりだということを。いくら先代のキラの息子がノートを二冊持っていたとしても対象者をノートで殺せないと意味がない。だから、正直に投降しなさいと」

Lの出たさくらTVのキラ特番は大反響を向かえた。デスノートの無効化の件や今現在もGPSや街角の防犯カメラ、通信記録傍受などでキラの特定を続けていることなどがテレビで放映された。それを見た人々は続いているキラ被害から安堵の溜息を漏らした。
 しかし……

 翌日の紙面。
 「習近平死去。衛生破壊ミサイルが発射され、全世界の人工衛星が残らず破壊、GPS機能が使えなくなる」
 「金正恩死去。日本の上空を核搭載のテポドンが飛び海面で爆破」

ニア「緊急事態です。デスノートで人を操れることを利用した核ボタンの使用が懸念され始めました。よって私は各国の核ボタン使用に絡む要人を全て殺します!!」

ワタリ「別に殺さなくても寿命を全うすると書けばいいのではないですか?」

ニア「それだと世界中の人達が安心しません。世界がピンチなのにLは何をしているんだっていわれるに決まってます。ここまでしないといけないのです」

ワタリ「そうですか……」

ニア「夜神め、まだやり方はありますか。だったら私にも考えがあります」


(白石視点)

白石「デスノートを利用して核ボタンを押す?」

仲野「そうよ。残り一人はそう言うことも考えていると思うの。アメリカの大統領を殺して世界を潰そうとしているわ。多分、正義とか悪とかじゃなくてとにかくこの世の全てを破壊したいのね」

川本「これはもうデスノートで儲けたいとかデスノートで人の命を延ばしたいとか言っている場合じゃないと思う。何とかしてでももう一人を捕まえないといけない」

白石「どうする?」

川本「Lに協力しよう。仲野はどう思うかわからないけれども、俺はもう捕まっても構わない。世の中を平和にするためには他のデスノート所有者たちの団結が必要だと思う」

仲野「私もそう思う。確かに私の復讐はまだ遂げられてないけれども、そんなことを言っていられる場合じゃないし」

白石「わかった。じゃあ、Lの元へ行こう」



Lの元へ出向いた白石達

ニア「いらっしゃい。来るんじゃないかと思っていました。
あなたが、デスノートに寿命を全うすると書くことを考えた所有者ですか。
それだけじゃなくてあの誘拐犯とあなた方は協力していましたか」

川本「罰なら後でいくらでも受ける。でも、今は残りの一人を捕まえるのが先決だ。そのためにならいくらでも協力する」

ニア「そうですね。あなたと千咲さんと白石君でしたっけ? が、協力しているという時点であなたはそこまで凶悪な所有者ではないのでしょう。ただ、無罪放免とは行かないので覚悟しておいて下さいね」

川本「…ああ」

ニア「でもまあ、私はもうそんなことを言える立場にはないんですがね」

白石「?」

仲野「やっぱり各国の首脳陣を殺したのはあなただったのね」

ニア「多くの命が犠牲になりそうだったのに少しの犠牲はしょうがないと思ったのです。そこはもう避難されても仕方がありません」

川本「お前を責めたところで俺達の罪が軽くなるわけでもないしな」

ニア「さて、残りのデスノート所有者は一人。
彼は高橋議員のノートを奪ってノートを二冊所有しています。そして、嫌なことに先代キラのように犯罪者だけを殺すなどということはせず、どんな人間でも殺す人間です。まるで全人類を残らず全て殺すことを考えているんじゃないかと思います」

白石「まさか国民全員の名前をノートに書いて無効化していくのは難しい。
何か殺しを防ぐいい方法はないのか?」

ニア「これからは全員マスクをつけるのを義務化しましょう。
これだけで死神の目で名前を知られる可能性はぐっと低くなります。
なるべくならば家の中でもつけさせます」

白石「何で?」

ニア「夜神、あ、残り一人のデスノート所有者は夜神楓と言います。男だそうです」

白石「夜神……楓?」

ニア「何か?」

白石「いや、なんでもない」

ニア「その夜神ですが、恐らくデスノートを利用していろんな家に押し入っていることが考えられます。その押し入った家の住人の携帯電話やインターネットを利用して情報を得ているんじゃないかと。
だから、奴に各家々に不法侵入をさせないためにもどんなときでも死神の目の毒牙にかからないようにする必要があるのです」

川本「マスクを義務化するってなかなか馬鹿な話が通るのならさ、路上で何か書き物をしている人間を全て職務質問するってのはどうだ?」

白石「え?」

川本「今のご時世メモを取るのなんてスマホでもできるだろ? 何か紙に書くと言うことをしている時点でかなり怪しい。それで殺しが一つ減るのならば別にいいんじゃねえか?」

ニア「やりましょう」

仲野「新聞に写真を載せるのは事前申告制にして、私たちが名前を書いてデスノートの効果を無効化してからってことにするのはどう?」

ニア「人間の被写体を載せるのを禁止でいいんじゃないですか?
千咲さんの考えで面倒くさくないって言うならそっちでやりましょう」

白石「これを告知してやるのかな? 密かにやった方がいいんじゃないのかな?」

ニア「密かにやった方が確かに捕まえるのには有利かもしれませんが、殺しの抑止力にはなりません。大々的に告知しましょう。
これでデスノートによる殺しは間違いなく無くなる筈です。
最後に奴の本名も公開してしまいましょう」

仲野「夜神なんて珍しい名字でしょ? 名前から身元が分からないの?」

ニア「彼が孤児院にいたことはわかってたんです。ただ、そこは放火されて写真は愚か影も形も残っていませんでした。どこに行ったのかもわかりません。
あと、これは憶測ですが一つ気になることがあります」

川本「なんだ?」

ニア「多分、夜神は先代のキラ夜神月と弥海砂の子どもです」

仲野「…二代目なの……?」

ニア「そうです、はい」

白石「………」

ニア「さて、いろいろと策を講じました。多分、夜神は不法侵入も働くこともできず、追い詰められて捕まることでしょう。これ以上はデスノートによる被害も食い止められるはずです」

川本「そうだな。ここまでやれば被害はなくなるだろう。早く捕まるといいな」

仲野「ええ」

白石「…う、うん」




ニア達が話したデスノート防止策は早速実行に移すことになった。だが、すぐにデスノートの効果が無くなったわけではなかった。
二ヶ月ほどその状態が続いたが、原因は当初は分からなかった。しかし、その理由がニア達の耳にも届いた。

ニア「え? デスノートの切れ端が街中でバラマかれている?」

ワタリ「そうなんです。とある小学生がデスノートで同級生を殺したそうなんです。何でもデスノートの切れ端に『これはデスノートです。この紙に名前を書くとその人は死にます。ただしこの紙を拾った人間は五名の同級生の名前を書かないと24時間後にあなたは死にます』ってことが書かれていて、本気にした小学生が本当に同級生の名前を書いて死んだって言うんで両親と一緒に警察に出頭したんです」

ニア「…確かにデスノート所有者本人が人の顔がわからなくて人を殺せなくても、他の人が顔を知っていればこの方法ならば人を殺せます」

ワタリ「こんな感じの紙切れがかなりの数で回っているみたいで、一部はネットオークションで取り引きされているそうです」

ニア「…そんなものは出品取り消しさせましょう。
そうか。だからデスノートの被害が無くならなかったのか。
…白石さんみたいに寿命を全うすると書いて殺しから逃れるために使う人もいてもいいのに。
そういえば夜神は二冊ノートを持っている。切り取って無くなったあとに補充されるノートのページ数も二倍でしょう」

ワタリ「ばらまいているところを捕らえられればいいんですがね」

ニア「ここまでしっぽを出さなかった人間がそれでしっぽを出すとは思えないんですがね。まあ、デスノートの切れ端を持っていた人物達にどんな方法でそれを入手したのかを聞いて回るといいかもしれませんね」

ワタリ「地面にバラマかれていたようです。それを道草をよくする小学生が拾った様なんです」

ニア「…余り参考になりませんね」

ワタリ「でも、一つだけ気になる情報がありました。
バラマかれたデスノートの一部に白石優平の仇って文字が書かれていました。これは白石さんのフルネームじゃないですか」

ニア「え? 本当ですか? 夜神と何か関係があるんでしょうか? ただ単に同姓同名の人かもしれませんが、…とにかく白石さんを呼びましょう」


白石、Lの捜査本部に来る

白石「夜神楓と言う名前に心当たりはないかだって?
確かにその名前を持った人間を僕は知っている。でも、その子は女の子だ。小学校の頃、彼女と僕は同じクラスだった」

ニア「そうですか。そうか、夜神は女だったんですか。だから、強引に誰かの家に押し入らなくても、そこら辺でナンパしてきた男とホテルに入った隙に名前を書いて殺せていたわけですね。財布の中の免許証で男の住所も知れますし」

白石「その夜神楓が残り一人のデスノート所有者なのか?」

ニア「それにほぼ間違いがないでしょう」

白石「僕の知っている夜神はそんなことをする人間じゃない」

ニア「わかりません。彼女も年を重ねるごとにいろんなことがあったのかも知れないし、デスノートという大きな力が彼女の心を歪めさせた可能性も0じゃありません」

白石「………夜神に会って確かめたい」

ニア「言われなくてもあなたには夜神に会ってもらうつもりでした。私達はあなたを囮にして夜神をしとめます」

白石「しとめるって殺すのか?」

ニア「あれだけのことをしたんです。どうせ死刑は免れないでしょう」

白石「じゃあ、協力しないと言ったら?」

ニア「私はあなたに必ず協力させます。
…でも、まあ、夜神をしとめられるのならばすぐに殺すようなまねをしませんよ」

白石「本当だね」

ニア「本当です」

白石「……わかった。協力しよう」

その後、Lは白石優平は生きていること、デスノートを捨てるならば会わせるという趣旨のメッセージを夜神楓一人が見るように全世界に向けて送った。
○月××日に白石と夜神が通っていた小学校に来いというメッセージを発信したL達は当日白石一人だけを校庭の真ん中に立たせ、校舎の陰に隠れて夜神が来るのを待った。

ワタリ「果たして夜神は来るんでしょうかね?」

ニア「来ますよ。あの分だと夜神は並々ならぬ好意を白石に抱いていたんだと思います。そんな中、彼が生きているとわかっていたんだから」

校庭の真ん中で待つ白石。
白石「夜神、本当に来るんだろうか?」
白石、夜神とのことを思い出す。

そうだ。夜神楓。
僕は彼女のことが好きだったんだ。僕と彼女はずっといじめられていた。僕は片親だったから。彼女は孤児院の出身だったから。彼女と何度石を投げられたかわからない。
でも、僕はそれでも良かったんだ。僕は彼女と一緒にいられたから。
風向きが変わったのは飼育当番をやっていたときだった。学校で飼っていたヤギを僕と夜神が当番を押しつけられてずっとやっていた。僕は夜神とやれたらそれで良かったんだけど、担任の先生が「何で白石と夜神ばかりに押しつけるんだ」ってクラスで問題になって、渋々クラスメイトが当番を代わりにやることになった。
そんな中、突然ヤギが亡くなった。僕は折角夜神と一緒に面倒を見たヤギが亡くなって凄く悲しかったんだけど、クラスの人間はみんな喜んでいたのことが、余計に涙が出た。
その後しばらくした時クラスの中で立ち話を聞いていたら「俺のカーチャンがヤギを殺したんだぜ」という奴が現れた。「だって、こんなの夏休みにわざわざ学校に来させてまでやることじゃないでしょ? この子には勉強の方が大切なの」というのだ。
僕はさすがに学校に抗議した。でも、この児童の親は地元の政治家で「くだらないレッテルを貼るな」って抗議を受けた。それでも文句を言ったら僕は学校を転校しなくちゃいけなくなった。
僕は夜神に言った。
白石「この世の中の人達はみんな病気なんだ。だからこんな理不尽なことを簡単に言えるんだ。病気なら直せるはずだ。僕は医者になって皆の心を救うんだ。君はそうだな、政治家になって世の中を変えてよ」
夜神は首を縦に振った。
それが僕らが交わした最後の言葉だった。

あれから夜神はどうしていたのだろう?


校庭の真ん中で歩く白石に近づいてくる影。

それは紛れもなく大きくなった夜神楓の姿だった。

夜神「白石君」

白石「夜神か」

夜神「…本当に生きていたんだね。私、てっきりあなたは死んだものなんじゃないかって思っていた。だって、私、デスノートを手にしたとき、あなたに会いたくて、真っ先にノートにあなたの名前を書いたんだよ? でも、会えないってことはもう死んじゃったんだと思ってた。だから、私あなたを消したこの世界なんていらないんじゃないかって全てを潰そうと思ってた」

白石「……夜神、実は」

夜神「…わかってる。これ以上は言わないで。
それよりもあなたに渡したいものがあるの」

夜神は白石にデスノートを渡した。

白石「…これは?」

夜神「あなた、子どもの頃、言ってたじゃない。お父さんが不慮の事故で死ななければこんなに苦労しなかったって。だから自分は人々の寿命を延ばす医者になるんだって。これがあればその夢が叶うわ」

白石「夜神…」

夜神「そうね。あなたにはそれもいらないのかもね。
私がデスノートに名前を書いたのにあなたは生きているってことは、あなたもデスノートの所有者ってことでしょ? 先にノートに寿命を全うするって書いた。だから私のデスノートの効力も効かなかった。
よかった。あなたが生きていてくれた。
私それだけで本当によかったの。
本当にそれだけで……」

白石「…………」

夜神「そういえば白石君、前に言ってたよね。悪口や暴力はいずれ自分に跳ね返ってくるから他人にやってはいけないって。
私その言葉はずっと嘘だと思っていた。だって自分が暴力に耐えたって相手は何食わぬ顔でいたから。
だから、私やり返すことに決めたの。
…でも、その言葉は本当だった。
私のこと、白石君に信じてもらいたいのに、今私何の説明もできない」

夜神が泣いている。
やはり夜神はたくさんの殺人を犯していた。
でも、彼女はとても孤独でたくさんの人に傷つけられていた。
その傷を少しでも軽くしてくれる誰かがいれば、僕がずっと寄り添ってあげられれば彼女はこんな事はしなかっただろうに。
確かに悪口や暴力はいけない。自分に跳ね返ってくるかもしれないから。
でも、それを跳ね返さない心を作るためにも人を温かい目で見れる心が必要なのではないだろうか? 暖かくてどんなに自分が損しても受け入れられる強い心が必要なのではないだろうか?
僕は彼女の傷を癒せるだろうか? 好きだった彼女の傷を、今からでも……

白石「…夜神、罪を償おう。
そして、罪を償ったら僕と結婚してくれ」

夜神「……え?」

白石「不満か?」

夜神「…本当に私なんかでいいの?」

白石「いいよ」

夜神「私、顔に傷があるんだよ。根性焼きの痕もひどいよ」

白石「大丈夫だよ」

夜神「私、何度もレイプされたんだよ」

白石「平気だよ」

夜神「内蔵も二つあるのは一つとられちゃってるんだから」

白石「問題ないさ」

夜神「それに子宮もとられてて、赤ちゃんなんて産めないんだから」

白石「構わないよ。
君だから、君だからこう言うんだよ」

夜神「本当に? …なら、指切りしてくれる?」

白石「ああ」

二人は近付き、小指を絡めようとした。その瞬間、どこかから銃声がして夜神は撃たれた。

「む、娘の仇だ」
去っていく警官。

白石「誰だ!誰なんだよ!!こんなことをしたのは!
リューク、死神の目の取引をする。すぐにそいつを殺させてくれ」

リューク「落ち着け。暴力は自分の身に返ってくるんだからやらないんだったろ? まだこいつは生きている。治療すれば何とかなるんじゃないのか?」

緊急搬送される夜神。彼女は一命は取り留めたが植物人間状態になってしまった。

白石「彼女は僕が守るよ。もう一度目が覚めるまで」

ニア「大変な道のりだと思いますよ。大丈夫ですか?」

白石「そのために医者になるんだ」

ニア「そういえばデスノートですが、仲野さんや川本たちと話し合った結果、みんな焼却することになりました。白石さんも問題ないですか?」

白石「ああ。こんなものはない方がいい。たとえ寿命を延ばす方法として使えるとしたって、僕自身の手でそれを越えるものを作ってみせるよ」

ニア「そうですか。頼もしいですね。期待していますよ」


夜神楓の夢の中

教室の中、授業参観で作文を読んでいる。

夜神「私の夢はお嫁さんになることです。
どんなに格好悪い人でも、どんなに歯が無くても、どんなに太った人でも構いません。あ、でも性格が悪い人はちょっと嫌かな。
私にはとっても優しくて毎日目覚まし時計がジリリリリ…となると、先に止めて私が目を覚ますとずっと笑顔で微笑んでおはようって言ってくれる素敵な人と結婚して、子供を三人産んで、今自分の家にはない、家族というものを持ちたいです。
 マイホームなんてのはいらないし、職業だって何でもいいです。だから私を好きになってくれる人、その人と結ばれたいです。
 それが私の夢です」

授業が終わった後、取り囲まれる夜神

「なんだお前、お前なんか好きになる人間が出てくる訳ないだろ」
「お前は一生一人で不幸な目に遭い続けるんだよ」
「ギャハハハハハ」
夜神「そんなことはない。そんなことはない」
きっと私を好きな人はどこかにいる。どこかに……

目を覚ます夜神。

十年後、目の前には白石の姿。白石は微笑んだ。

「おはよう」


   続デスノート 完