「進化の視点から見た人体と健康」バシロ・デイビー(2001年) | しんりの手 :psych NOTe

「進化の視点から見た人体と健康」バシロ・デイビー(2001年)

本の紹介。

Basiro Davey, Tim Halliday, Mark Hirst (2001年。英語版のみ)
Human Biology and Health: An Evolutionary Approach (Health and Disease)

人間の生物学の基本について書いてある本。大学一年生の教科書くらいの感じ。本のタイトルには進化論的アプローチと書いてあるのだが、進化論と生物学は相容れない学問だと僕は感じている。なぜなら生物学は細胞などがどう活動するかを実験と観察を繰り返していく学問だが、進化論は違う。特に最近の進化論や進化心理学は、人間の行動を見てそれを進化論から説明してみている。そこには生物学的な実験と観察はない。その辺で整合するのが難しい組み合わせだと思う。そしてこの本も少し中途半端な印象がある。それでも基本を知るには良い本だと思う。



p.32. 人類の毛の失い方は霊長類の中ではとても変わっている。人類が体の表面近くに脂肪を持っているのは哺乳類としてとても変わっている。


とあるのだけれど、これは<a href="http://ameblo.jp/psychnote/entry-10001228669.html ">以前紹介した人類水生進化説</a>だと綺麗に説明できると思う。


p.48. 現代女性の尻や太ももは3百万年前の人類の祖先(hominids)に比べて歩いたり走ったりするのに適していない。


えっ?進化というのはより適したものが残る訳ではないんだな。または、3百万年前の二足歩行への移行段階で走る能力が優れている祖先よりも、二足歩行が完璧になって走る能力は衰えてもそれを補って更により適した物として選ばれるだけの利点があったのかな。例えば脳がより発達したとか。


p.114. 生理学的進化学(biological evolution)で使う「環境」(environment)という言葉は遺伝子(genes)以外で表現型(phenotype)に影響を与える全ての要因をさす。表現型は人生を通じて変化していく。


p.114. programming hypothesis


p.115. dynamic interaction: 表現型の発達は遺伝子と環境の動的な相互関係により起こる。生まれか育ちかの議論(nature-nurture debate)は答えを見つけにくい。なぜなら、遺伝子単体では表現型を変えられず、環境との相互関係で始めて表現型に現れるからだ。


p.268. それぞれの種には最高到達年齢(maximum lifespan)があると信じられてきた。人間では115歳くらいが限界だろうと言われてきた。しかし最近の果物バエ(fruit-flies)や無脊椎動物を使った実験により、最高到達年齢理論は見直しを迫られている。

p.268. "reserve capacity" 供給予備力。腎臓は一個でも暮らせるが2個あることで供給予備力があると言える。加齢により供給予備力は下がる。


p.268. 年齢と共に下がる機能。80歳時のもの。神経の伝達速度は全盛期に比べても80%ほど維持できている(2割ほどしか落ちない)。心臓が送る血液量は70%に落ちる。腎臓のフィルター能力は55%に落ちる。一呼吸の最大呼吸量も55%に落ちる。一分間の最大呼吸量は40%にまで落ちる。


p.278. DNAと加齢。下記のことは原因と結果の方向性は分かっていない。

- 体細胞突然変異説(somatic mutation theory):細胞が分裂を繰り返していくうちに部分的に欠けること。生殖細胞系列(germline)には起きないので欠陥情報は遺伝しない。

- 活性酸素理論(free radical theory):活性酸素の影響で細胞が分裂する際に全く同じコピーではなくなること。これが加齢の最も大きな要因だと言われている。

- テロメア(telomere shortening):DNA鎖の最終部にある繰り返しで、細胞分裂ごとに短くなる。


p.129. 身長は遺伝的要素が大きく影響する。体重は環境的要素が大きく影響する。一緒に住む一卵性双生児と、生き別れの一卵性双生児と、二卵性双生児を使った実験の結果。


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