夢のなかでこれは夢だと自覚したことある? ブログネタ:夢のなかでこれは夢だと自覚したことある? 参加中
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 時々、夢と現実世界がわからなくなってしまう時がある。
 夢で見た出来事が現実世界で起き、現実世界で起きた事が夢で再現され、どちらが本当でどちらが偽りなのか、自分自身で確かめても分からなくなっていた。
 もう一人の私が目覚めるまでは………。


 春の暖かさを運ぶ陽気な風が吹く4月のある日、一人の少女が駅の構内にいた。
 明るい茶色の髪を一つに束ね、耳につけていた紅いヘッドフォンから流れてくるハウスサウンドが喧騒な世界を遮断させていた。
 列車に乗り、窓から流れる景色を眺めながら、ふと少女は誰かに見られている感じがして後ろを振り向いた。
「………あれ?」
  友だちと会話に弾む女子高生たち、携帯の画面を睨みながらゲームに没頭する若者、自分の世界に更け込む様に読書に熱中する買い物が帰りの主婦、そして、夢の世界へと誘う様にただ座って瞼を閉じている会社員と誰一人少女の存在を気にせず、個々の時間を過ごしていた。
-気のせいか………
 軽く溜息をつくと少女は再び視線を窓へ戻し、流れる景色を眺めていた。
       *
「もうこんな時間だわ………。急いで寮へ行かなくちゃ」
 列車のポイントの故障によりダイヤが大幅に乱れたせいで、目的地である巌戸台に着いたのが夜中になってしまい、少女は急いで駅を後にしようとした。
「!?」
 聴いていた音楽がぷっつりと切れた事に気付き、少女は携帯音楽プレイヤーの液晶画面を見つめながらボタンを操作した。
「電池が切れたのかなぁ?」
 何度もボタンを操作しても音楽が流れてこない事に苛立ちを募らせていると、辺りの様子がおかしい事に気付き、少女は辺りを窺うと信じられない光景が広がっていた。
 あらゆる電気系統は全て停止し、壁や床には血液を彷彿(ほうふつ)させる様な真っ赤な液体が流れていた。
「これは………?!」
 静寂な緑色の闇の中に佇む西洋風の棺桶がまるで少女がここへやってきたのを待っていたかの様に佇んでいた。
「ここで立ち止まっても埒が明かない………。早く寮へ行かなきゃ」
 少女は何事もなかった様に左右に首を振ると、かけていたカバンをかけ直し、寮に向かって歩き出した。
-何でだろう?あまり怖いと思わない………
 棺桶が並ぶ道路を歩きながら、少女はこの状況に恐怖は感じなかった。
 吹き抜ける生暖かい風を受けながら暫く歩いていると、古風な造りの建物を見つけた。
 少女は手にしていたメモを見ると、この建物がこれから世話になる寮である事が分かり、玄関のドアへ向かった。
「ごめん下さい」
 少女は鍵のかかっていないドアを開けると、中には一人の少年が微笑みながら立っていた。
「こんばんは」
 少年は屈託のない笑みを浮かべ、じっと少女を見つめた後一枚の紙切れを少女に渡し、これから起きる全ての行動に責任を持つ事と伝えた。
「これはその署名なの?」
 少女の質問に無言で微笑み、すり抜ける様に少女の隣に現れて羽根ペンを渡した。
 渡された羽根ペンを受け取り、少女が自分の名前を書き記すのを見届けると、少年は満足そうに頷き、消えていった。


 巌戸台にやってきて3日が経った。
 授業が終わり、それぞれの時間を過ごす為に生徒達は教室を後にした。
「公子、その………、あの事は言ってないよね?」
 声のする方へ振り返ると、ピンク色のロングカーティガンを着た少女が不安そうな面影で立っていた。
 公子と呼ばれていた少女は安心させる為に微笑みながら言ってない事を告げると、頑(かたく)なになった少女の顔が徐々に緩んでいった。
「良かった………。今日、部活休みなんだ。一緒に帰らない?」
「いいよ。私もゆかりと話ししながら帰りたかったし」
 ゆかりに告げると、公子は机の横にかけていたカバンを取り出し席を立った。
       *
 学校から帰ってきて、同級生である岳羽ゆかりや同じ学校の先輩でもある桐条美鶴と他愛ない会話をした後自室に戻り、3日前に起きた出来事を思い出した。
 緑色に輝く月の光に、突然現れる棺桶。そして、血の様に滴る赤い液体。
 普段とは違ったありえない世界が今でも公子の脳裏に焼きついて離れなかった。
-夢ならば覚めて欲しい………
 公子はベッドに身体を預け、そのまま深い眠りについた。
       *
「何か覗き見している感じで気分が悪いですね……」
 ゆかりはボソッと愚痴をこぼすと、隣にいた学園の理事長である幾月が苦笑を浮かべながら訳を述べた。
 ゆかりは幾月の笑えない冗談を聞き流し、会議室のモニターに映し出されている同級生の姿をじっと見つめた。
「理事長、今回も彼女は………」
 美鶴が何かを言いかけた時、会議室に無線の音が鳴り響いた。
「明彦、どうした!?」
美鶴の緊張した声に場の空気が張り詰めた。
[巨大なシャドウがこちらに向かってくる。凄いぞ!こんなシャドウは初めてだっ!!]
明彦の歓喜な声に呆れながら美鶴は的確に指示を出し、その後、部屋にいたゆかりに指示を出した。
「岳羽、部屋にいる彼女を起こしてここから出ろ」
       *
 ガタンっ!!!
 大きな衝撃によって目を覚ました公子は何が起きたのだろうかと思い、ベッドから身体を起こすと椅子にかけてあったジャケットを取り出し袖を通した。
 その時、部屋のドアを叩く音と同時にゆかりが血相を変えて部屋に入ってきた。
「ごめんっ!!勝手に入るよ」
「どうしたの?何があったの?」
 公子は今起きている状況を聞こうとゆかりに話しかけると、ゆかりは公子の腕を掴み部屋を出た。
「説明している余裕はないの!ここから逃げるから急いで!!」
 二人が部屋を出て階段を降りていこうとすると、建物の衝撃で窓ガラスが割れた。
「こっちへ来て!」
 ゆかりに言われるままに公子は後について行き、階段を駆け上がった。
 重たい鉄の扉を開け、二人は屋上のコンクリートに座り込み乱れた呼吸を整えていた。
 背後から只ならぬ気配を感じ、公子は振り向くとそこには巨大な黒い影が襲い掛かろうとしていた。
「あれはシャドウよ………」
 危険を察知したゆかり公子の前に出て、脚につけていたホルスターから銀色の拳銃を取り出し、こめかみに当てた。
「私だって………」
 震える腕を押さえながらゆかりは拳銃のトリガーを引こうとした瞬間、シャドウの攻撃をまともに喰らい、吹き飛ばされた。
「ゆかりっ!!」
 公子はシャドウの攻撃で気を失っているゆかりの許へ駆け寄ろうとした時、自分の足元に落ちてあった銀色の拳銃が目に入った。
『サァ、ソノケンジュウヲトッテ』
 公子の頭の中で声が聞こえた。
『ソノケンジュウデ、ワタシヲヨビサマシテ』
 公子は声に操られるかの様に落ちてあった拳銃を拾い、ゆっくりをこめかみに当てると躊躇(ためら)いもなくトリガーを引いた。
身体の中で弾ける高揚感が駆け巡り、公子は今、もう一人の自分に出会ったのであった。



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