ヘヴィサイケ特集 その26 | サイケデリック漂流記

ヘヴィサイケ特集 その26

ひさしぶりな感じのヘヴィサイケ特集ですが、まだ続いております。今回はカナダのバンドをいくつか・・・。


Bent Wind
トロント出身の4人組。1969年の"Sussex"はカナディアン・ヘヴィサイケを代表するようなアルバムで、オリジナルは300枚ほどしかプレスされなかった激レア盤だそうです。

全編に散りばめられた重く引きずるようなファズギター。虚無を見つめながら彷徨うようなダウナー感覚。ナイーブ&イノセントな感じの、音程が不安定なボーカル。むやみに深いリバーブにヘンテコなエフェクト・・・。「ガレージ」とか「地下室」というイメージがぴったりの、アンダーグラウンドなムードが横溢するグレート・ダウナーヘヴィサイケです。

2005年にはCD2枚組のコンピも出ています。オフィシャルサイトはこちら


Bent Wind
Sussex



Plastic Cloud
これは素晴らしい! 1968年の唯一のアルバムをはじめて聴いたのはわりと最近(CDは2005年にAkarmaとPacemaker/Lionから再発)なんですが、「無人島アイテム」級のお気に入りとなっています。

ドリーミーヘヴィサイケ」とでも呼べばいいのか、ソフトサイケでありながら同時にヘヴィサイケでもあるという有難い逸品で、ソフトロックもヘヴィサイケデリアもどちらも好物な私には、たまらなく美味しい音です。イメージとしては、Strawberry Alarm Clockの"Rainy Day Mushroom Pillow"に、Buffalo Springfield期のニールヤングのエキセントリックなギタープレイをさらにパラノイアックにしたようなファズギターを絡ませた、みたいな感じでしょうか。

曲調や美しいボーカルワークなどはドリーミーな西海岸ソフトサイケ~サンシャインポップ風でありながら、ほぼ全編にわたって、歪みまくったファズギターが取り憑かれたように鳴り響く異様さは、とてもサイケデリックです。Foodみたいに、ソフト(ドリーミー)サイケでありながら強烈なファズギターが入るようなものも結構ありますが、これほど楽曲のチャーミングさとファズギターの偏執的な奇矯さが対照の妙となっているバンドも、そうはないのではないかと思います。オススメ!


Plastic Cloud
Plastic Cloud



United Empire Loyalists
バンクーバーのグレイトフルデッド」ことUnited Empire Loyalistsは、その豊かな潜在能力にもかかわらず、60年代後半から70年代初頭にかけての5年ほどの活動期間に、わずか1枚のシングル(それも200枚ほどのプレス)しか残していません。唯一の?CDは、1998年に出た"Notes From the Underground"というコンピレーションで、1968~70のスタジオテイクと地元ラジオでのギグ、および1990年のリユニオン公演からの演奏が収められています。

ということで、曲によって録音状態や時期がまちまちだったり、デモセッションみたいな感じの演奏があったりで、誰にでもおすすめできるようなシロモノではないのですが、シスコサイケの愛好者からしてみると、これが非常にソソられるものがあります。Jefferson AirplaneやQMS、特にGrateful Deadからの影響が濃厚で、いたるところにシスコサウンドへのオマージュが散りばめられています。(リードギターのプレイや音色なんかモロにジェリー・ガルシアしてたり、デッドのオハコの"I Know You Rider"をやってたり、"The Other One"をネタにした曲があったり、いかにもシスコなまったりとしたインプロが展開したり、新しい録音では後期デッドのようなジャムバンドっぽい風情があったり・・・。)

それもそのはずで、デッドが1966年の夏にはじめてバンクーバーで公演したとき、そのオープニングをつとめたのが彼ら(その時の平均年齢は17歳くらい!)でした。そして、練習場をさがしていたデッドをメンバーの家に招いて親しく交流し、ガルシアから直接ギターの手ほどきを受けたりしています。唯一のシングルの曲"No, No, No"(Willie Cobbsの"You Don't Love Me"のカバー)を伝授したのも、そのときのジェリー・ガルシアでした。

また、67年にCountry Joe & the Fishがバンクーバーを訪れたときもオープニングをつとめ、CJに気に入られた彼らが、いろいろ問題を抱えていたFishに替わって、今後CJのバックバンドに・・・というような話にもなりかけたそうです。そのときCJが彼らにジャムのテーマとして与えたのがコンピの最初と最後に収められている"Otis (Redding Jam)"で、それをCJがのちに発展させたのが、ウッドストックでも演奏された"Rock and Soul Music"だった、というエピソードがあります。

要するに、本場シスコのビッグネームたちからも一目置かれていたわけで、なぜこのバンドがレコードも出せずに、ほとんど無名のまま終わってしまったのか不思議です。CDは現在入手が難しくなっているようですが、グレイトフルデッドが好きな方、シスコサイケが好きな方は、中古屋やオークションで見かけたら迷わずゲットすることをおすすめします。


United Empire Loyalists
Notes from the Underground (リンクはオフィシャルサイト。試聴可)