カッコーの巣の上で | サイケデリック漂流記

カッコーの巣の上で


シスコサイケ特集にちなんで、関連のある映画をひとつ。
なんで「カッコーの巣の上で」とシスコサイケが関係あるのかというと、この映画の原作者のケン・キージーが、シスコのドラッグカルチャーのゴッドファーザーのような存在だったからです。

ケン・キージーは、アレン・ギンズバーグやジャック・ケルアック、ウィリアム・バロウズといった人たちと交流のあった、いわゆるビートニクの出身で、ビートジェネレーションとヒッピー(フラワー)ジェネレーションの橋渡しとなった人物です。

彼はLSDの開発段階で臨床実験に参加し、60年代半ばにメリー・プランクスターズと呼ばれたヒッピー集団を率いてバスで大陸を横断して、アシッドテストなどを広めました。そのバスというのが、音響設備を載せサイケにペイントされた、いわゆる「マジックバス」で、ザ・フーのMagic Busや、ビートルズのマジカルミステリーツアーなどにも影響を与えました。そして、このバスを運転していたのが、ジャック・ケルアックのビート小説「路上」のモデルでヒッピーの教祖、ニール・キャサディです。

ケン・キージーとメリー・プランクスターズ、それにかかわるグレイトフル・デッドなどシスコのサイケデリックシーン(当Blog記事参照)の狂騒は、トム・ウルフのドキュメンタリーノベル「クール・クール LSD交感テスト」(原題:The Electric Kool-Aid Acid Test)に詳しく描かれています。

さて、前置きが長くなりましたが、「カッコーの巣の上で」のお話。この作品は今観ると少々ベタな感じがするかもしれません。精神病院で権力をふるう婦長が体制や管理社会、そして患者たちが抑圧された弱者を象徴している、というわりとわかりやすい図式。しかし、LSDというのが擬似的に精神分裂のような症状を引き起こすクスリであったこと。ジャック・ニコルソンが演じるマクマーフィーのキャラクタは原作者自身がモデルらしいこと(実際のキージーの方がもっと破天荒なくらい)。患者たちを病院から外に連れ出して、自由に生きることの喜びを味わわせようとしたのがバスツアーだったこと。などからして、これはメリー・プランクスターズのことを暗示してるのだ、と深読みして観るのも一興かもしれません。

ところで、この映画、今観て一番面白いと思うのは、なんといっても患者たちを演じる役者の顔ぶれでしょう。ブラッド・ドゥーリフ、ダニー・デビート、クリストファー・ロイド、マイケル・ベリーマン、ウィル・サンプソン(写真左上→右下)・・・。その後エキセントリックなキャラクタでスクリーンに登場するこれらの俳優の多くが、本作で実質上の映画デビューを飾ったのでした。彼らが演じる「異常者」たちの、なんと個性的なことか! この映画に登場する「健常者」たちよりもはるかに豊かです。

本作は70年代の映画ですが、テーマや暗示しているものからすると、私が好きな60年代のメンタリティで綴られているように感じます。今から見ればガキっぽく、ナイーブにすぎるかもしれませんが、私はそういった非現実的な夢を描いたり、現実から離れて別の世界で遊んだりすることが恥ずかしくなかった時代にあこがれます。


タイトル: カッコーの巣の上で ― スペシャル・エディション

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