序章 終わらない世界 | Reset 逆様の世界 / 作・新井信也

ある晴れた八月の空の下


ポケットから煙草を取り出し火を点け、溜息混じりの煙を吐いた。


「あの頃、あーにしてれば…」


心の中でポツリ呟きながら、その場で煙草を落とし消した。


最期に約束した言葉の意味は、未だに上手く解読出来ていないけど、それでも俺は生きている。


生きていなければならない。


あの日、最期にアイツが言った約束の言葉


「強くなって…」


俺は強くない


強くなんてなれないかもしれない…


そもそも、「強い」って、どう言う意味で、どんな奴の事なんだろう…


あの時からずっと疑問に思っていた意味だった。


それでもこの約束だけは守りたい。


その時、携帯が鳴った。


「もっしもーし?私だけど、もう着くよー」


軽く返事をし、その場から歩いて二分くらいの待ち合わせ場所へ向かった。


待ち合わせ場所で待っていると、笑顔の彼女が歩み寄って来た。


「ごめん!待った?」


俺が首を横に振ると同時に彼女が俺の手を握って言った。


「行こう!」


そのまま二人は青空の下を歩き出した。


歩き出したこの道は、過去を振り返らずに未来だけを見詰められる光溢れる世界。


今の彼女には、アイツとの過去や、今までの過去を全て話して来た。


それでも俺の傍に居て支えてくれる掛け替えのない大切な彼女だ。


俺は彼女の手を放して言った。


「…俺、強くなれたかな?」


彼女は立ち止まって俺の目を見て言った。


「強いから生きてるんだよ?だから、あの人との約束は守ってるから大丈夫だよ」


彼女は、少し強い目をして続けて言った。


「それより早くしないと映画が始まっちゃうよ!?急ごうよー!」


手を繋いで二人は映画館へと向かった。


まるで光溢れる世界へ導かれる様に、太陽に照らされながら…