東京で一人暮らしを始めて二年程が経った日、いつもの様に都内で出会った片思いの奴と待ち合わせをしていた。
桜舞う季節 午後1時 吉祥寺駅 井の頭線改札前
少し買い物がしたいから、待ち合わせの時間より早く現地に来て居た。
12時半
ごめん、少し遅れちゃう…1時半までには着くけど大丈夫?
彼女から一通のメールが届いた。
俺は迷わず返信をした。
大丈夫、気を付けて!
普段なら、遅刻とか許せない俺でも、今日この日だけは違っていた。
駅前にある楽器屋へ行き、新しい機材を見ながら携帯の時計を見ると、時刻は1時20分だった。
そのまま店内を出て、井の頭線の改札へ向かった。
着くと同時に電車がホームに入って来たのが見えた。
人混みの中、小さな体なのに個性的な彼女の服装が目に入った。
俺を見付けると、背伸びをする様に手を振り急いで改札へ歩いて行く姿が、2つ下なのに妙に子供っぽく見えた。
「ごめーん」
彼女の最初の一言だった。
「大丈夫だよ、じゃあ行こうか?」
そのまま駅を出て、井の頭公園へと向かった。
花見の時期と言うのもあって、井の頭公園までの道程も人が多く、普段ならスラスラ行ける道も渋滞していた。
はぐれない様にと、どっちからでもなく手を繋いで歩いた。
ただ、この時点で俺達は付き合って居ないし、彼女には一応彼氏が居た。
一応って言うのは理由があり、もう何ヶ月も音信不通で、連絡しても番号もアドレスも変えられていたそうで…
でも、ちゃんとした別れ話もしてないから、本人も「一応」と言っている。
公園に着くと、大道芸人らしき人達が芸をしたり、花見をしてる人達が目についた。
俺達は公園をグルっと一周しながらそれらの景色を見て楽しんだ。
芸を見て無邪気に笑い喜ぶ彼女を見ると、本当に2つ下なのか?と思うほど子供に見えた。
「しんたん、楽しいね!」
笑顔で彼女が言った。
俺は、何故か出会った時から『しんたん』って呼ばれていた。
こんな風に呼ばれるのは、生まれて初めてだから最初は照れ臭かったけど、この世界で唯一コイツだけは特別だから良いかなと開き直っていた。
「そーだね、マイコちゃん」
ちょうど橋を渡ろうとした瞬間、心の中で留めて居た感情が口から出てしまった。
こんな事を言うのは、まだ早いと思っていた気持とは裏腹に。
「あのさ…俺と付き合ってくれないかな?」
マイコからの返事は『ごめんなさい』だった…