~最高に素敵なイリュージョン★~
生まれて初めて他者の魔法に掛かったノエルでした。
この優美な子守唄は、ノエルの心を安らかな海へと誘いました・・・。
エメラルダの妖艶な魔法は、完璧な愛の世界を創り上げて行きました。
それは最高に素敵なイリュージョン・・・★
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僕たちは魚になったみたいだ・・・
太陽の光が届かない 深海の底まで泳いでいって
暗黒の世界で たった二つの星になる
揺れながら輝き
お互いを探し出し
求め合い
一つの星になる・・・☆
僕たちは 海に生まれた星座のように輝いていた・・・☆
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あのワインには特別なエキスが入っていたに違いない
僕には分かっていた
だけど・・・
すべて承知で飲み干したのだ
この憂鬱な日々から解放してくれるなら
貴女が悪魔でも構わない
何処へでも連れて行ってくれ・・・
珠玉のエメラルダ・・・☆
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小鳥達のさえずりが、深海の底からノエルを引き上げました。
ノエルの朝は爽快な・・・少し気だるい開放感で始まりました。
手が・・・。
隣に眠るエメラルダの姿を求めていました。
朝の挨拶をする為に・・・。
「エメラルダ・・・☆」
しかし、エメラルダの甘い唇に触れることは出来ませんでした。
シーツの温もりを確かめると、その冷たさに愛の余韻も覚めていくようでした。
ノエルはベッドから飛び起きると、シャツに腕を通して急いでコールタルを呼びました。
「お早う御座います。
ご機嫌麗しくお目覚めと存じます」
寝室の扉の前で、コールタルがうやうやしく何時もの朝の挨拶をしました。
「コールタル・・・。
僕は悪夢を見ていたのだろうか・・・?
確かに、僕には不似合いの贈り物だった。
エメラルダは何処に消えたのだ?」
ノエルは苛立った言い方で、老臣の心を読み取ろうとしていました。
「恐れながら申し上げます。
確かにノエル様は私どもの贈り物をお受け取りになられました。
ノエル様のお心に残されたもの、すべてが真実に御座います」
コールタルは顔を上げる事無く、ノエルの視界から逃れるように少し後ずさりをしました。
「偽りの愛に溺れたとでも言うのか・・・。
何故・・・?
エメラルダが此処に居ないのだ?!」
いつに無く興奮気味に、コールタルを威嚇しました。
ノエルはエメラルダの姿を見届けようと、全神経を青い瞳に集中させました。
「ノエル様・・・。
エメラルダ殿は去って行かれました。
最早、この地上にはおられません・・・」
ノエルはその言葉で、甘い残り香が、一斉に消えて行くのを感じました。
「僕に何の挨拶も無く帰ったと・・・?
別れの言葉一つ交わしていないのだ。
何故そのような理不尽な事が起るのだ!
仮にも僕は魔王の息子だ」
ノエルは本当に、珍しく苛立ちを露にしました。
そして、気が付かないうちに日々進化する、自分自身の置かれた不本意な「次期魔王」の立場を誇示していました。
コールタルはそんなノエルの様子を、白髪の間から丸眼鏡を光らせて、感嘆の思いで見ていました。
嬉しさを隠し切れずにホンの一瞬「ニタリ」と微笑むと、直ぐに冷静な態度を取り戻し、自分の茶色いマントの中から、大切そうに緑色に縁取られた銀の箱を取り出しました。
「エメラルダ殿からお預かりした物に御座います。」
ノエルは一目見て、開かずともその中身が何なのか察知しました。
「これは・・・!!」
「左様で御座います。
間違いなくミーシャ様に贈られた赤いマントと薔薇に御座います」
「何故これが此処に在るのだ?!
何故彼女が持っているのだ・・・。
その理由はエメラルダから聞く!!」
そう言うと、素早くコールタルの手から銀の箱を自分の手に移し変えました。
「コールタル!
地底への魔法陣を作れ・・・」
「はは~っ!!
かしこまりました・・・」
コールタルが颯爽と立ち上がり、ゾフィーの時と同じ様に、杖を床に突き立て、神秘的な宇宙の魔法陣を床に描き出しました。
広間全体が闇となり雷鳴が轟くと、エメラルド色の閃光がノエルを包み込みました。
それと同時に、ノエルは輝く青いマントを身にまとい、魔法陣の真ん中に跪きました。
エメラルダ殿が お待ちで御座います
魔王様・・・★
コールタルが深々と頭を下げて、長い白髪と髭を床に這わせてひれ伏しました・・・★
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