~歌を忘れたカナリア~
悪夢のような一日から、もう直ぐ半年が経とうとしていました。
ノエルとコールタルの共有する秘め事は、ミーシャに知らされる事は有りませんでした。
ノエルの献身的な愛の力で、ミーシャの悲しみも癒されつつありましたが、それはノエルの愛の償いにも似ていました・・・。
コールタルは謹慎の名目でノエルの城から姿を消していました。
「ノエル・・・。
今度は元気な赤ちゃんが欲しいわ」
やっと、子供を失った悲しみから立ち直ったミーシャの顔から笑顔が零れるようになりました。
「そうだね・・・。
僕も君に似た可愛い子供を望んでいるよ」
しかし・・・。
以前の様に彼女を愛せない気持ちが確かに存在していました。
彼女を抱くと、もう一つの顔が襲い掛かってくるのでした。
以前の様に二人が共に愛を重ねる事は無くなりました・・・。
「私の不注意で赤ちゃんが亡くなったなんて、本当にゴメンナサイね」
自分を責めるミーシャが不憫でしたが、真実を打ち明けるのは、それ以上に苦痛を彼女に与えると信じていました。
「誰も悪くないんだよ。
神様がすべてご存知だ・・・」
そう言うと、ミーシャを優しく抱き締めました。
今宵もこうして抱き合ったまま、二人の夜は過ぎて行きました。
ミーシャは彼の腕の中で必死に涙を堪えていました。
「ごめんなさい・・・ノエル。
あんなに楽しみにしていたのに、私がいけないのよ」
愛を分かち合えない悲しみが枕を濡らしました・・・。
ノエルは、いつまでこんな惨い日々が続くのか、ミーシャのすがるような愛に耐えられませんでした。
「僕はわがままな男だ・・・。
ゾフィーに抱かれた彼女を許せないなんて。
このままでは、ミーシャが壊れてしまうだろう・・・。
情けだけで愛が持ちこたえられるんて在り得ない。
なんとかしなければ・・・」
しかし、半年前のあの幸せな日々が、もう二度と戻っては来ないように思われました。
ゾフィーの仕掛けた残酷な罠に、二人とも耐えられないところまで来ていました。
そして・・・。
数日後、ミーシャは長い髪を切りました。
「嗚呼~!!!
なんて事を!」
レイラの悲鳴が城中に響き渡りました。
ミーシャの手にしたハサミを取り上げて、彼女を抱き締めました。
「まだ悲しみが癒えないので御座いますね。
元気でお転婆なミーシャ様は何処へ行かれたので御座いましょう・・・。
私には良~く分かりますわ。
本当にお可哀想な事を!」
レイラの腕の中でミーシャは声を上げて泣き出しました。
「本当は愛するお方の腕の中で泣きたいのですね。
それも叶わないなんて!!
いっぱい涙を流して下さいませ~・・・」
そう言うとレイラも一緒に泣き出してしまいました。
レイラの声を聞きつけたピカタが慌てて広間に飛び込んで来ました。
「わあ~!!
ノエル様が大好きな長い髪を切ったのかー!!
どうして?
どうしてなんだよ~?!」
「ピカタ!!
ミーシャ様を責めないで~!!」
「だって・・だってさ~!
あんなに大切にしてきたじゃんか~!!」
ピカタも今にも泣き出しそうな声を上げました。
「ピカタ・・・。
私達はもうお終いなのよ」
「何が何が・・・?!
ノエル様はミーシャが大好きだよ!!
いつもいつも大好きなんだよ~!」
「いいえ・・・。
彼は私を嫌っているわ。
私には分かるのよ」
「そんな事は絶対に御座いませんわ」
「そうだよ。
ノエルがミーシャを嫌いになるなんて在り得ないよ。
こうして僕が君を守っているのも、ノエル様のご命令があればこそだ!」
「彼が・・・?
私を守る・・・?」
「そうさ!
お出掛けの時は、僕がミーシャの傍に居るようにしているんだぜ!!」
ピカタは大きく胸を膨らませて、鼻をグスンと擦りました。
「私も同じですわ。
ノエル様からいつもお傍にいる様にと仰せつかっておりますわ」
レイラとピカタは顔を見合わせて頷きました。
「本当に・・・?」
「ああ~嘘なもんか!!
ノエル様が愛しているのはミーシャだけさ。
天地天命に賭けて誓うよ!!」
ミーシャは短くなった自分の髪を両手でかき上げて震るえ出しました。
「ミーシャ!
髪の毛なんて直ぐに生えてくるさ。
全然問題無い!!」
ピカタがオドケて、床に落ちたミーシャの赤毛を手ですくってばら撒きました。
「そうですわ。
そうですとも~!!」
レイラも一緒になってばら撒きました。
二人は笑いながら泣いていました・・・。
それを見たミーシャも笑いながら自分の短かくなった赤毛の頭を叩きました。
ミーシャには分かっていました。
愛が変化した事を・・・。
ノエルの甘い口づけが消えてから半年が経っていました。
「これ以上は一緒に暮らせない・・・。
お互いに辛いだけだもの。
さようなら・・・ノエル・・・。
私の大好きなひと・・・」
ミーシャは別れを決意していました。
私はずっと カナリアでいたかった♪
あなたの為に 素敵な歌を唄い
悲しい歌は 唄わない
愛の口づけを 知らなくても
ずっと ずっと ずっとそうしていたかった・・・♪
カナリアだった時の心を想い出して
空に向かって 軽やかに唄い出しました・・・♪
丘の上の小さな家で・・・。
ノエルはミーシャの歌を聞きながら、黒髪の幼子の頬をそっと撫でました。
母ジェーンの家の煙突から、温かな夕食の煙が空に立ち昇って行きました。
☆