恋人達の目の前には、巨大な嵐が迫っていました。
さっきから、フロント・ボックスの携帯が深刻な音を発て続けていました。
「ピーター。
もう始まっているんだね・・・。
意外と早かったな。
うん・・・。
間違い無いよ。
僕だよ」
王子はハンドルを握りながら、ピーターの声に顔を強張らせました。
「殿下。
マーブルにも、マスコミが押し寄せます。
ここは、サラ城の方が宜しいかと存じます」
「いや!!
それは出来ない。
マーブルで遣らなければならない事が有るんだ。
僕は、人生の大切な決断をしなければならない」
「スコット・・・?
一体どうしたの?」
エレノアが心配そうに王子の深刻な表情を覗き込みました。
「いずれ君にも分かるだろうから事実を話しておくよ。
さっき撮られた写真が出回っているんだ。
僕と君の姿がバッチリ映っているそうだ」
「嗚呼~・・・」
エレノアが頭を抱えてシートにもたれ掛かりました。
「どうしよう。
こんな事になるなんて・・・」
「心配しないで。
ただ・・・。
君もこれからはマスコミの攻撃を受ける・・・。
その対応を間違うと地獄に堕ちる」
王子の口から出た「地獄」と言う言葉に、エレノアの脳裏に王子の過去が鮮明に浮かんで来ました。
エレノアが15歳の時にそれは起こりました。
多くの少女と同じ様に、素敵な17歳の王子様は憧れの的でした。
友達と宮殿に行って、一日中正門の前で王子が出て来るのを待っていました。
急に国民の前から姿を消した大好きな王子様を探す為に、夜遅くまで門の前に座り込んだ事も有りました。
テレビや新聞、雑誌は一人の年上の女優とのロマンスをセンセーショナルに書き立て、失恋した王子が精神的にダメージを受け引きこもったと結論付けていました。
王子の悲しい運命に自分を重ねて涙した乙女の一人でした。
しかし、誰も本当の理由を知る事は有りませんでした。
今・・・。
この短い言葉が、その時の苦悩を指している事を確信しました。
王子が地獄から生還して、国民の前に姿を現した時は、この奇跡を神様に心から感謝しました。
そして、大学のキャンパスで偶然王子と出逢った時、再び神様に心の底から感謝しました。
初めて逢った王子は、多くの女の子達や学友に囲まれて遥か遠い存在でした。
でも・・・。
孤独な王子の青い瞳は、恋する乙女心を再び目覚めさせてしまいました。
大人になった少女は、目の前の皇太子に恋をしてしまったのです。
いつの間にか学友の一人になっても、少女は自分の気持ちを解放出来ませんでした。
王子の姿を遠くから黙ってクールに見つめていました。
2年間も燃える情熱を胸の奥に閉じ込めて・・・。

☆~あなたの心が欲しいだけ~☆
やがて・・・。
友情が真の愛情に変わって行った夢のような日々が、このまま続いて欲しいと願いました。
愛しい恋人の悲しい過去を・・・。
国民の前から姿を消した苦悩を・・・。
共に分かち合い幸せに成りたいと思いました。
二度と地獄を見ないように・・・。
エレノアはそっと王子の腕に手を添えました。
「スコット・・・」
王子も、もう止められない気持ちを伝える為に、エレノアの手を固く握りながら言いました。
「僕を信じて付いて来てくれるかい?」
「当然でしょ!!」
強気のエリーの瞳から涙が零れ落ちました。
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